第20話 まさかのダウジング



「確かに……。これは胃袋を掴まれるでしょうな」


 食後の紅茶と果物を出すと、上品に口元を拭いながら魔道具師ギルド長フランコはゆっくりと言葉を紡ぐ。


「ありがとうございます。公爵令嬢が他に何を振舞ったかは定かでありませんが、今日のようにどちらかというと若い男性向けの、しっかりお腹にたまる料理ではないかと思います」


 フェイの駄々は、オーロラが隣に座って次々と給餌してやると次第に落ち着いた。

 先ほどの暴れん坊ぶりはお腹が空いていたせいなのかもしれない。

 そう思うことにした。


「そういや、スズねえ。今日飛んできて思ったけど、この屋敷なんか妙だね」


 うさぎ型に切った林檎をデザートフォークに刺してぱくりとかぶりつき、小さな口でもぐもぐしている姿は…。

 とてもとても可愛らしい前世の妹。


「ほっぺたがリスみたいになってる…。そういや、めるるもこうだった…」


 末っ子ゆえに溺愛していた芽瑠の幼いころを思い出して内心ちょっといやかなり悶え、我に返ったオーロラは慌てて両手を胸に当ててゆっくりと深呼吸をした。


「お嬢様? もしかして、また体調が悪くなったのですか?」


 ナンシーが慌てて駆け寄ろうとするのを首を振って制す。


「ううん。違うの。紛らわしくてごめんなさい。ここのところ体調が悪いと感じたことはないわ」


 そんな主従の会話にフェイとフランコは険しい表情で顔を見合わせた。


「ねえ、『また』ってことは、どこか身体が悪いの? 病気?」


「ああ、ううん…。はっきり病名が付く病気には罹っていなかったと思うのだけど…。頭痛とか眩暈とか吐き気とか毎日何かしら不調で、何も症状がない日でも逆にいつ具合悪くなるかと怖くて、家の外へはあまり出ていなかったわね」


 それは就学年齢に達したらますますひどくなった。

 体調の良い日に少しだけ街に出てみるとやはり頭痛がひどくなりすぐに引き返してしまうため、次第に出かけたいとも思わなくなっていく。


「うーん。初めて会った時になんか変な人だなと思ったんだけど、それは転生者特有の何かかなと結論付けていたんだよね。これは早計だったかもね、じいさま」


「うむ。私たちはあくまでも魔道具師だから、その辺の感応力や知識がない故かと思いましたが…。嫌な波動を感じます」


「え…?」


「この屋敷…、いや、敷地内に。なにか仕掛けられているかもしれませんな」


 オーロラとその場にいた使用人たち全員は驚き、青ざめた。


「仕掛けられている? それは、どうすれば良いのでしょうか」


 ロバートが一歩進み出てすがるように尋ねると、フランコは深くうなずき孫へ視線をやる。


「フェイ。あれを…。今持っているか?」


「もちろんだよ、じいさま」


 フェイは先日の便利ポーチに手を突っ込んでごそごそと掻きまわしたのち、にゅっと針金を出した。


「じゃん。探査棒でぇーす」


 現れたのはL字型に曲げられた二本の針金で、一本ずつ短い部分をそれぞれの手に持ち、びしっと前に出してフェイはポーズをキメた。


「それって…。もしかしなくても…」


 現世で怪しげなネタとして見たことがある。

 確か、水脈か鉱脈を見つける装置?

 いや、ツチノコだったか?


「ねえちゃん、ツチノコ違う」


 ああ、心の声が漏れてしまったらしい。


「……ダウジング棒とかいうのだよね、それ」


「うん。面白いから、これでセンサー作っちゃった。やっぱね。こっちの世界でもいるんだよ、魔道具で盗聴とか盗撮しかけたり、呪いの札貼ったりとか。だからちょっと面白半分にそういうの探す仕事始めてみたら、これがまた儲けになってさ。あ。ねえちゃんは安くしとくよ、身内値引きで」


 てへ、と可愛らしく舌を出し、針金を構えて天使が笑う。


「…それは、また…」


 色々な意味で少し気が遠くなりかけたオーロラに、魔道具師チームはやる気みなぎる様子で席を立った。


「改良を重ねて、精度はかなり上がっているし、もちろん悪いモノの回収もすぐにばれない仕掛けもとっくに製造済みだよ。いや~。あたしが早くに覚醒して良かったね、ねえちゃん」


 ぴょんぴょんとスキップしながら出口にフェイは向かう。


「さ、行くよ。時間は金なりだからね」


「ハイ、ゴアンナイシマス…」


 前世でも現世でも。

 私の妹は偉大だ。


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