第10話 異能の双子と神の宝  2

 「かねにあいされし?どういうことだ?」

  巴矢彦はやひこが聞き返した。


 「巴矢彦はやひこは武術が得意だ。矢はおまえの望む方角に飛び、太刀はおまえの手のように動く。そうだろう?」

 珠水彦すみひこの声は細い。細いが、奥に響いてくる。

 「かねが武器がおまえとひとつになりたがっている、、、ようにみえる」


 「た、たしかに矢の狙いを外したことはないし、太刀はわが手のように使いこなせる。だか、それは稽古したからだ」


 「稽古する前から。巴矢彦はやひこわらわのころから、そう、初めて小太刀を持った時から大人も敵わないほど強かった」


 「まぁ、そうだな。生まれついて武の才があると、父上も言われた、、、」


 「巴矢彦はやひこかね、つまり武器の心がわかるし、かね巴矢彦はやひこの心を叶えようとする。武器を持ったとき、おまえはその武器とひとつになり、動ける。かねあいされるとはそういうことなんだ」


 「それは悪いことなのか?おまえが心配するほど?」


 巴矢彦はやひこ珠水彦すみひこの表情をよく見ようと肩を抱いた手を伸ばした。漆黒のなかにもわずかな青みを宿した大きな瞳が、ゆらゆらと揺れている。


 「巴矢彦はやひこ、弓矢はともかく、太刀に宿るものはものすごく強いんだ。使うものが弱ければ喰われてしまうほどに。太刀が、かねが人を変えてしまうこともある」

 今度は珠水彦すみひこの方が、巴矢彦はやひこを強く抱きしめた。

 「強く。こころを強くしていてくれ。どんな太刀も捻じ伏せるほど。強く!」


 「わかった。心を強く持つ」普段大きな声を出すこともない珠水彦すみひこの必死さに、気圧されたように頷いた。


 「もうすぐ、わたしたちは離れてることになる。巴矢彦はやひこ石上いそのかみがお前を預かりたいと言ってくる。お前ひとりだ。わたしはおそらくここに、父上のもとに残る」


 「それも夢でみたのか?」


 「いや、三輪の森で黒い影たちが相談しているのを聞いたんだ。蛍が聞いて教えてくれた」


 「三輪の森?神の場所じゃないか。人は誰も入れないんだろう?」三輪山は山そのものが神と言われ、神に仕える神官が定められた日に入ることができる。


 「誰も来ない場所だから、誰にも聞かれる心配がないんだ。

あの者たちが何者かはわからない。だがわたしたちはもう、いつもお互いを助け合える場所にはいられない」


 「こころ強く在るよ。誓う。だから。だから、おまえもちゃんと」巴矢彦はやひこの瞳もかすかに潤んだ。「影の上にいろよ」

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