第3話 竜が転生した双子貴公子 3

 「では、星がふたつに割れて墜ちたというのは悪いことではないと?」磐王いわおうが念を押すように聞き直すと、白髭に顔を覆われた天文博士と名乗る者はひとつ頷いた。 


 「星が割れた、というのは正しくはありませんな。もともと星がふたつあり、それがごく近いところにあった。そのふたつが同時に墜ちた、ということです。もともとふたつなのです。 二重天輪というのですが、同じ力で引き合う星同士がお互いの力から離れられず、お互いの周りを巡るのです、そもそも、、、」


 天文博士がさらに説明しようと口を開くと、磐王いわおうはもういい、と言わんばかりに手で制した。


 「つまり、ふたつの星が其々に墜ちた、ということだな?で?それはどういうことを意味する?」


 「はい、このふたつ星は天頂でも気高い、双竜の星。そのふたつが同時に地上に墜ちた。そして、その同時刻に帝国の宰相の家に双子の男子が産まれた。ということです」

天文博士はここで言葉をいったん切った。


 星の運行を読んで諸国の王に進言してきたこの男は、こういうときに権力者が望むことをよく知っていた。起こった事象はひとつだ。しかし、それをどう解釈するかは誰が求めているかによる。


 天文学者は星を読むように王の心もうまく読んだ。


 「竜は天帝に仕える気高い生き物、青、白、玄、赤と四つの竜が天を護っていると言われています。


 昨夜墜ちたのは青と玄の竜。青は知恵を、玄は武芸を司ります。その大切なふたつを天は王に授けた。これは天の帝が大地の帝に己の持つ半分の力を分けたということ。生まれた双子の男子は磐王いわおう様の手足となり働き、王様がこの大地をすべて手に入れることを示しておりましょう」


 天文博士の言葉を聞くと、磐王いわおうは満足げに頷いた。


 「よし、わかった。宰相の邸に祝いの使いを出せ。竜の星の加護を受けた息子たちだとな。まことに吉兆だ。めでたい!宮廷にもそう触れ回っておけ」


 緊張の糸が解けると、夜の窓には花の甘い香りが流れ込んでいた。なんという名の花だろう。これもあの天文博士が持ってきて植えさせたものだ。庭を挟んだ向かいの部屋からは美しい琴の音が漏れ聞こえている。王は今日はじめて和やかな顔をした。


 「竜も守る玉がなければ意味がないな」


 皇后が玉のような男子を産むのは、まだもう少し後のことだ。

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