第17話 写真
次は二条城だ。誰だこんな日程組んだの。全然ゆっくり見れないじゃないか。一周回っている時間はないので、本丸までまっすぐ行って戻ることになる。こちらも観光客がわんさかいるので、ゆっくり見れる感じでもないがな。
「で、どうやったん、ヨウスケ。」
俺はタクミとヨウスケと並び、二条城敷地内を歩きながら話をする。ヨウスケは苦笑いしながら答える。
「いやー、正直、緊張しちゃってあんまり喋れなくてさ…」
「ヘタレか。せっかくうまいことチャンス作ってやったのになぁ。」
タクミは手厳しいな。お前も人のこと言えんだろ。
「ちょっとずつでいいと思うぞ?ちゃんと行動を起こせてるだけいいやろ。何もせんと諦めるやつのほうが多いからな。」
そう、望まずに諦めたら叶わないのだ。あれ?俺も人のことを言えないのか。何をしたいんだっけ。俺は。
そんなことを考えていたが、二条城の本丸御殿、本丸庭園に目を奪われ、もやもやしていた考えは霧散してしまった。そしてあっという間に午前中が終了。過去には漠然と過ごした遠足が、気の持ちようだけで、めちゃくちゃ楽しいんだって改めて思った。
さて、ここからは班ごとの自由行動だ。
俺たちの班は鞍馬寺から貴船神社に抜けるルートを行くことにしている。鞍馬駅から鞍馬寺まではつづら折りを通ることになり、さらに鞍馬寺から貴船神社までは30分ほどのハイキングコース。時間はこれで目一杯だ。鞍馬から貴船神社とか何十年ぶりだろう。
俺たちの班は電車に乗るために移動を始める。後ろからついてくる班が多いのは気のせいではないだろう。鞍馬・貴船は人気スポットだとは思うが、ルート的に京都市内から外れているため、時間的にあまり行くやつはいないと思っていた。
アズサ、リナ、タクミ、ヨウスケと目立つ奴が揃ってるからだろうな。ちなみに、ヨウスケもモテる部類に入る。
清水寺のときは、女子から写真を撮ってほしいと何度か言われた。このころのカメラはデジカメはまだそれほど普及しておらず、写〇ンですというフィルム式の使い捨てカメラだ。めちゃくちゃ懐かしい。
言われるたびに、タクミとヨウスケを並べて一緒に撮ってやった。その女子もアズサとリナも微妙な顔をしていたが。
アズサとリナにも男子が来ていたが、断っていたようだ。相手をしだすとキリがないだろう。
叡電は同級生でいっぱいだ。こういうローカルの電鉄会社には頑張ってほしいので、いいことだ。鞍馬駅に着いてほどなく、鞍馬山の結界と言われる仁王門が見えてくる。
仁王門をくぐり、鞍馬寺を目指す。ほどなく、つづら折りに差し掛かる。頂上は見えているんだが、割と登るのに時間がかかる。「近うて遠きもの、くらまのつづらをりといふ道」とはよく言ったものだ。
途中の神社、御神木に感銘を受けながら、ずんずん進む。時間的余裕があまりないのが残念だ。遅くとも4時半には京都駅か河原町駅で先生に報告をする必要があるのだ。
鞍馬寺本殿に着き、しばしの見学タイム。みんな思い思いに写真を撮っている。アズサがカメラを持って話しかけてくる。
「せっかくやからみんなで写真撮ろうよ!」
幸いにして、同級生がそこかしこにいるため、撮影を依頼し、うちの班5人みんなで写真に納まることができた。横から俺らの写真を撮っているやつらもいたが。俺らは珍獣か。
俺は興味の赴くままに境内を歩く。そこで、カオリに声をかけられた。
「ケイタくん、一緒に写真撮って?」
「カオリもここやったんやな。おぅ、いいぞ。」
カオリの友達に写真を撮ってもらう。カオリから離れ、別の女子が俺に声をかけようとしたその時。
「ケイタくん、班行動なんやからあんまりフラフラしないでよ。」
アズサが手を引く。
「や、すまん。ついつい感動しちゃって、周りが見えてなかったわ。」
「ほんと、無防備なんだから…」
アズサは呟きながら、俺の手を引き、班のみんなの元に合流する。
「…手が、わりと周りから見られてるぞ。」
「あ、ごめん!」
パッと手を離し、赤くなるアズサ。タクミもなぜか赤くなっている。ほんと純情だね、お前は。
そして俺達は奥の院参道から貴船神社を目指す。山道は新緑が目に眩しく、空気が澄んでいるように感じられる。
貴船神社は、水の神を祀る神社だ。縁結びのイメージの方が強いのだが。
神社は本宮、奥宮、結社からなり、本宮、奥宮が水の神を祀り、結社が縁結びで知られる場所だ。本宮につくと荘厳な雰囲気とあわさり、より空気がひんやりと澄んでいるように感じられる。
今回の遠足はこの貴船神社が終着点だ。
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