ヨークシャーテリアの住むメープル農場第4話

@peacetohanage

第4話

ある4月の朝、ヨークシャーテリアがメープルシロップからメープルシュガーを作っていると、1人の来客が有りました。

玄関扉をノックし、挨拶が聞こえます。

「おはようございます!私は町の娘よ」

そこでヨークシャーテリアは鍋を火から外し、玄関扉へと向かいました。

扉を開けると、頭巾を被った娘の姿が有りました。

「おはようございます。さて、今日はどんなご用かな?」

「メープルシュガーパンを、病気のおばあさんに持って行ってあげたくて。だからパンに使う為のあなたのメープルシュガーを分けてくださいな?」

「勿論ですとも。今ちょうど作っていた所ですが…ストックが有りますから、持って来ます。ちょっと待ってて」

ヨークシャーテリアが一旦キッチンに姿を消すと、メープルシュガーの瓶を持って再び玄関へと現れました。

「お待ちどう。さぁ、これで美味しいメープルシュガーパンを作ってあげて」

娘は瓶を受け取りました。

「どうもありがとう!これで最高のパンが焼けるでしょうよ?」


頭巾を被った娘は家に帰るなり、すぐさまメープルシュガーパンの制作に取り掛かりました。

パンを焼くのは大の得意でしたし、世界一のメープルシュガーを練り込むのだから、逸品が完成するに間違い無いと思いました。

さてパンが焼き上がると、バスケットに幾つか並べて、いざおばあさんの家に出発します。

天気は上々、それから4月になって春風にも恵まれる様になりました。

おばあさんの家を目指す小道には、見知らぬ小さな色取り取りの花が所々に見つけられます。

するとふいに行く手を遮る不穏な人影がありました。

娘は咄嗟にバスケットを握り締めます。

「だ、誰?どこのどなたかしら?私はこれからおばあさんの家に行く所よ」

不穏な人影の正体は一匹の狼です。

狼は立派な尻尾を怪しげにゆらりと振ると、鋭い牙の覗く唇を一舐めして見せました。

「何だ、何だ良い香りじゃないか?これは俺様の大好物のメープルだな?」

狼はのっそりと近寄って来ます。

それから鼻先をバスケットに押し当てました。

まぁ!何て不躾なのでしょう?と娘は心の中で思いました。

「病気のおばあさんにメープルシュガーパンを持って行くのよ?まだ焼きたてなの」

狼はぱちんと手を叩いて大喜びをします。

「そりゃ最高じゃないか!俺にも分けろ」

娘はちょっと眉根を寄せましたが、持ち前の気立ての良さで首を縦に振り降ろします。

「勿論よ?さぁ、幾つかしら?」

娘はバスケットが見える様に差し出してくれました。

メープルシュガーパンは全部で8つ並んでいます。

「ふっふっふ…ここは1つ残らず全部と言いたい所だが、病気で寝込むおばあさんの事も考えて、半分の4つ頂くとしよう。良いな?」

そう言い終わるか終わらないかの内に、狼は4つのパンを鷲掴みにして取り上げます(ふわふわのパンが潰れない程度に)。

娘はちょっぴりと項垂れましたが、持ち前の気立ての良さですぐに姿勢を正し直しました。

「それじゃ狼さん!私はおばあさんの家へ向かうわ。さようなら」

「美味い!美味いぞ!もぅ、食い終わってしまった」

娘は残りのパンも貰いに来ないかとはらはらしながら、足早にその場を立ち去る事にしました。


そうしておばあさんの家に無事に辿り着くと、扉を押し開けるなり、眠るおばあさんの枕元に駆け寄りました。

「おばあさん!具合はどう?ほら、見て!メープルシュガーパンを焼いたの。ここに置いて行くわね?」

おばあさんはぐっすりと眠っていたので娘の来訪には気付きませんでしたが、娘が帰ってしまった後、早速パンを千切って口にしたのです。

おばあさんは病気の筈なのに、狼と一緒でぺろりと4つ一気に全部平らげてしまいましたとさ。


おわり

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