好きな子の為に

具ひじ

第1話

 善行の見返りは不幸だった。

 「嬉しい……!」

 泣きながらも精一杯出している返事は僕ではなく名前も顔も知らない隣のクラスのやつだった。

 (こんなところで告白すんなよ……!)

 持っていたクリームパンの梱包を握りしめ、ズルっと壁にもたれ掛かる。

 眩しく照らされた校舎裏で僕の恋は終わった。


 最初は、たまたま目についたゴミを拾っただけだった。

 それが近所の爺さんに褒められたのが嬉しくてゴミ拾いをするようになった。

 好きじゃなかった。

 手も汚れるし、拾ってる姿をクスクスと笑われた事もあった。

 褒められることは無くなっていき、やる気も無くなっていった。

 そんな時、掛けられた声は称賛だった。

 「いつもありがとねっ!はい、これ!」

 そう言ってスカートのポッケから渡してくれた、あの日のイチゴ飴は恥ずかしかったけど、とても嬉しかった。


 吹き抜けの渡り廊下をクリームパンを持ったまま早足で過ぎる。

 疎かになった足元からグシャッとビニールが潰れる音がする。

 飴の包み紙だ。

 瞬間、雪崩のようにあの日の思い出が脳裏に過ぎ去る。

 ――“いつもありがとねっ!!はいこれ!”――

 今思えば、感謝されたのはあの時が初めてだったかもしれない。

 ポロッと出てきた涙をグッと抑えながら僕はその場を通り過ぎた。


 その日は楽だった。

 ゴミを無視できたし、後ろ指を刺されることもなかった。

 下校を告げるチャイムが鳴り響く。

 地に落ちていくオレンジ色の夕日に重なるようにあいつのスカした後ろ姿が目に入った。

 笑った顔に怒りを覚えた。

 (何で!あいつなんかが!!!)

 グッと踏み出した一歩は思ったより早くバランスを崩した。

 地から見上げた、あいつは飴の包み紙を拾っていた。

 僕はいつもより醜い顔で号泣した。

 駆け寄ってくれたあいつの手を跳ね除け走り去った。

 僕の初恋は完敗で終わった。

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好きな子の為に 具ひじ @guhizi

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