間章A

間章A


 ある時こう問いかけた。

「ねぇねぇ、おかぁさん。どうして、わたしはおそらをとべないの?」

「それは、飛ぶ必要がないからよ。どんな生き物にもできないことはあるの」

 お母さんは笑って教える。

「できないこと?」

 可愛らしく首を傾げると、お母さんは優しく頰に手を置いて

「例えば、お母さんは泳ぐのが苦手なの。これもできないっていうことよ」

「じゃあおとぉさんにもできないことはあるの?」

「勿論あるよ。例えば、お父さんは料理ができないわ」

「おとぉさんはごはんつくれないの?」

「そうよ」

 お母さんがそう答えると、途端に表情を崩して

「わたし、おとぉさんきらぁい」

 と喚き出した。

「どうして?」

「こわいもん」

 小声でそう言う。

「お父さんはね、あなたのためを思って言ってるのよ。大きくなったら、いいお母さんになるためにね」

「べんきょーもきらい」

「どうして?」 

 お母さんは髪を撫でながら尋ねる。

「めんどぉだもん。でもねでもね、すきなものもあるんだ」

 突然、顔に活気が戻ってきて、笑顔で言う。

「わたし、てれびだいすき。おとぉさんがよくみてるてれびも、おにんぎょうさんのてれびも、ぜんぶだいすき」

「じゃあ一緒にテレビみよっか」

「うん!」

 そうして、親子はテレビを見始める。


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