第8話 智の話

智はギターを弾いていた。


彦徳から借りたギターをベッドの上で、タブ譜を見ながら弾いていた。


「C、G、Am、、F、、、」


左手の形を覗き込みながら、タブ譜を見る。

まだ始めたばかりなので、音はぽこんぽこんと鳴っている。


「指いてぇー」


智は左手の指先を見た。

そこには弦の跡がくっきりとついていた。

てっきり血がでているのでは、と思うほど痛かった。


ヴーヴーッとスマホが鳴った。

智はギターを立てかけ、電話に出る。


「もしもし?うん、今練習してて、そう、彦徳が貸してくれたからさ」


智は部屋を出て、リビングへ行くと冷蔵庫を開けた。


「でも、指めっちゃ痛くてめげそうだ、俺」


冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注ぐ。


「大丈夫、学祭までには絶対弾けるようになっからさ」


牛乳を二口程飲み、テーブルに置く。


「いざとなったら彦徳に教えてもらうわ」


はははっと笑うと左手に激痛が走った。

とっさに左手を見ると指先が血だらけになっている。


「うわっ」


智はスマホを落とし、ティッシュを取り、指先に当てた。しかし、その瞬間痛みは引き、ティッシュを見ても血は付いていなかった。


落としたスマホから微かに声が聞こえてきた。

智は気付き、スマホを拾い上げた。


「ごめん、なんか勘違いしてた」


「勘違いじゃないでしょ」


ぷつっと電話が切れた。


智の左手に握られていたティッシュは滴るほどに赤く染まっていた。

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