第4話 優しい先輩

彦徳は部活へと向かっていた。


吹奏楽部は文化部だが、

外周やら筋トレやら楽器が重かったり、

意外と運動部と変わらない。


今日も筋トレからスタートみたいだ。

廊下で腹筋を行うことになり、仲のよい原田先輩とペアを組んだ。

原田先輩はとにかく誰にでも優しく、とても尊敬できる先輩だ。


「彦っちゃん、そしたら20回スタートね」


「はい」


一通り筋トレが終わり、5分休憩をはさんでから、

パート練習、全体練習というメニューに決まった。


「原田先輩、ここの箇所の吹き方なんですが」


「あぁ、ここ難しいよね、ここはね…」


本当に後輩に対しても優しく、ニコニコと嫌な顔ひとつせずに

教えてくれる原田先輩に彦徳は聞いてみた。


「原田先輩、本当に優しいですよね」


「どうしたんだよ急に」


原田先輩ははにかんだ。


「嫌な奴とかいないんですか?」


「ん~、いるにはいるけど、まぁ」


彦徳は続ける。


「なんかストレス解消法とかあるんですか?」


ん~、と原田先輩は天井を見上げ、


「そうだな、そういう奴は頭の中で何回も殺すかな」


「でさ、そいつが何回も謝ってくるんだけど、許したふりして

首元をナイフで切ったり、爪の中に針とか刺すんだよ、ほら、

めっちゃ痛いっていうじゃん?でも絶対にやめない、何回も

ずーっと俺の気が済むまで」


「頭の中だから、なんの問題もないしね」


原田先輩はいつもと変わらないニコニコとした爽やかな顔で言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る