第十三話 「門外不出のつくりかた」
二人は憲兵隊に囲まれながら進み、鎮守の森の奥に広がる神域に出た。
境内は都中の人を集めて祭りができそうなくらいに広く、彼らの行く手には砦のように巨大な造りの神殿が建っていた。
「すごく立派な社ですね」
「都の社はだいたいこんなもんだ。もしもの時に備えて救済院や要塞として利用できるよう、できる限りでかいやつをつくるのさ。まあ、たんに見栄を張ってるだけってのもあるが」
しばらく歩き、神殿の礼拝堂に到着する。神殿の内部は富豪の邸宅が小屋に思えるほど広々としていたが、床には毒に苦しむ人々が所狭しと寝かされていた。老若男女を問わず、実に多くの人が苦しんでいる。横になっている両親にすがり泣いている幼子の姿も少なからず見られた。苦痛を訴えるうめき声と悲しみに暮れる嘆きの声がいたるところから聞こえ、その様は野戦病院を思わせた。
「想像以上にひでえな」
青年がそう言った時、患者たちの間を縫うようにして中年の男が近づいてきた。要請に応じて集められた医師か薬師なのだろう。ずいぶんと陽気な顔立ちをしているが、片手に薬袋を持っている。
男はイズミのそばへ来ると、笑顔を見せた。
「おお、もしやあなたは薬師のイズミ殿ではありませんか?」
「そうですが、私のことをご存知なんですか?」
「ええ、もちろんですとも。まだ若いのに薬師としての腕は相当なものだと、私らの間ではもっぱらの評判ですからな。あなたがいらしたとあっては、じつに心強い。なにしろ患者たちを苦しめている毒というのがそれはそれは厄介なものでして、薬の調合が追いつかんのです」
「わかりました。薬でしたら、私にまかせてください」
「たすかりますなあ。では、作業場へご案内します。ところで」
男は青年に目を向ける。
「こちらの方は、イズミ殿のつきそいですかな」
「はい。この方は昨夜の怪物を退治してくださった天士様です」
「なんと、それはそれは。これはまた心強い。昨夜のことは私も聞いとります。怪物がここに現れたら一大事ですからな。もしもの時はよろしくお願いします。では、天士様もご一緒に参りましょうか」
薬師の作業場へ向かう途中、青年は声を潜めてイズミに言う。
「お前さんは、怪物がここに現れると思うのか」
「はい。ですので、もしもの時はお願いしますね」
「ジイさんにお前さんのことを頼まれたからな。やるだけのことはやるさ」
ありがとうございます、とイズミは小さく頭を下げた。
薬師の作業場は、神殿から少し離れたところにある客人用の宿舎に設けられていた。
宿舎に入ると、青年はむせかえるような薬品や薬草のにおいに圧倒され、足元をふらつかせた。
「それではイズミ殿、調合のほうをお願いします。私は霊力精製のほうへもどりますので」
「まってください。その、霊力精製は私に任せていただけませんか」
「おお、イズミ殿はもうそんなことまでできるのですか。なるほど、薬の評判も納得ですな。しかし大丈夫ですか。かなりの量を必要としますが」
「大丈夫です。できる限りのことはしますから」
「わかりました。それではおよばずながら、私もお手伝いしましょう」
「ありがとうございます。ですが、私の用いる製法は、私の里以外の者には知られてはいけないという決まりがあるのです。なので作業は私一人に任せていただけませんか? もちろん薬の質は保障しますから」
「ふうむ。たしかに薬師を生業とする者なら、製法の秘密を守るのは当然ですからな。私とて薬師の端くれ、その点はよく心得ております。わかりました。部屋をひとつ用意いたしましょう」
ありがとうございます、とイズミは薬師の男にお辞儀をした。
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