第392話

俺が風呂を上がっても中々皆が来ない。

一刻(2時間)程立ってやっと戻って来たぞ。

男の長風呂とか誰得よ?まぁ健康に・・・良い訳ないな。

何か皆打ち解けた様にしつつ俺の方を何だか生温い様な目で見詰めて来るのが気色悪い。


「師匠はやはり凄い方なのですな!」


立左(立花宗茂)がしみじみと言う。

まぁ褒められるのは嬉しいが、何かキラキラお目目で言うの止めて。


「関白様より蔵人様の数々のお話を伺いました」

「左様!左様!!流石は剣鬼、いや剣神ですな!!」


助五郎(北条氏規)と源次郎(真田信繁)が続けざまにそう言う。

そう、何だか最近は韮山の件で「剣鬼けんき」とか「剣神」とか言われるようになった。

また、「一刀破門」とか訳の分からないことを言う者も居ると聞く。

意味が解らないので報告して来た長門守に聞けば


「蔵人様が韮山城を落とされる際に門を一刀で破壊したという話まで流れております」

「え?俺は城は全く壊してないよな?」

「あくまでも噂で御座いますれば、事実もねじれて伝わっておるのでしょう」


とのことだ。

「一刀破門」とかどのこの中二病間者が名づけをしたのか?

まだ「一騎当城」とかの方が・・・いや、自分自身が中二病を疑われそうなので、この話題は忘れよう。

まぁ「中二病」という言葉自体がこの時代には存在しないので、俺自身がそんな事を言っても生温い目で見られるだけだろうけどね~

長門守曰く、遠隔地ではこれ以上の変な噂になっているという。

「城を刀で真っ二つにした」と聞いた時には尾鰭だけではなく羽まで生えてメダカが鯨にでもなった様な気分がしたぞ。


「それで?お猿さんは如何した?」

「ああ関白様なら帰られたぞ」

「ふ~ん・・・」


なんか俺に話でもしたくて来たと思ったんだけどな、気のせいだったかな?

いや、他の者が居るから遠慮でもしたのかな?

まぁいいや。

その後は皆で酒を飲みながら夜通し語り合った。

次の日には美羽・春麗に「飲み過ぎです」と怒られました。


「堀左衛門督様が昨夜身罷られました・・・」


それは突然の訃報だった。

久さん(堀秀政)が疫病を患い、床に伏せっていると聞いたので見舞いに行こうとしていた矢先にその報が伝えられた。

丁度、海蔵寺かいぞうじ(神奈川県小田原市)という寺に本陣を布いて居たらしく、戦時という事でその寺で一旦葬られたそうだ。

俺は急ぎその寺に向かった。


「この度は父の為御来訪、誠にありがとうございまする」

「いや・・・突然の事でお主も大変であったな。病を患ったと聞いておったで見舞いに来ようと思っておったが・・・」


戦時であることから、情報が来るのが少しばかり遅い。

見舞いと称して「神饌」で治してしまおうと思っておったのに・・・

悔やまれて仕方がない。

そして、その日は寺に一泊させて貰うこととした。

そして、その夜、俺は夢を見た。


★~~~~~~★


暗く何処までも広がる空間。

神域の様な感じが一瞬したが明かに違うのは、神域は白一面といった感じの空間なのに対して今俺が立つここは常闇に包まれ兎に角暗い。

なのに自分の周りは薄ぼんやりと光っていて周りの闇を更に濃くしていた。


「もしや長さん?」


後から声を掛けて来る者が居た。

声をする方を振り向けば、亡くなった久さんの姿があった。


「やあ、久さん最後のお別れに来てくれたのかな?」

「いえ・・・私は・・・」


久さんがまるで迷子の子供の様な不安な顔をして此方を見詰めて来る。

久さんがここへ導いたのではないとすれば一体だれが?


「我じゃ!」


俺と久さんが話している横合いより声がする。

声を聞いただけで解る、間違いなく神の一柱かそれに類する存在。

そして、物凄く美しい方だろうと想像できてしまう程に聞き惚れてしまいそうになる程の美しい声。

見れば、恐らく神であろう存在だと俺は認識できた。


「何方様で御座いましょうか?」

「そうじゃな・・・巷では死神等とも呼ばれておるが、死者を迎える神は無数におるで、ダーキニーと呼ぶが良い」

荼枳尼天だきにてん様で御座いまするか?」

「そうとも呼ばれるの~まぁ元は羅刹女らせつじょじゃてそう敬うな」

「はあ・・・」


暗闇に大きな照明でも当てられている様に荼枳尼天様の周りは俺たちよりも明るく、まるで彼女自身が光り輝いているようにも見える。


「なに、宇迦うかに頼まれての~」

「うか、と言いますと・・・宇迦之御魂神うかのみたまのかみ様で御座いまするか?」

「おう!そう呼ばれておるな」


稲荷神様(宇迦之御魂神)に頼まれてと荼枳尼天様は仰った。


「なに、今生の別れが出来ず悔やんでおったのであろう?」

「・・・はい・・・」

「日頃より世話になっておる礼として宇迦が我に取成しを頼んで来たのよ」

「成程・・・」


成程などと言いつつもよく解っていない俺。

その心を読まれ荼枳尼天様より説明を受ける。

どうやら神々は俺という特異点と関わる機会を待ち望んでいるという。

どうして関わりたいのかは教えて頂けなかったが、稲荷神様経由で荼枳尼天様がその機会を得たのでやって来たそうだ。

まぁその見返りとして、社の建立とお供えを催促された。

俺は大平宮に荼枳尼天様を祀らせて頂くことを約束した。

そしてここが神域ではなく幽冥界と呼ばれる場所で、いわゆる「死後の世界」という場所で、この世とあの世の狭間にある場所に今居ることを教えてくれた。


「おっと、済まないね久さん」

「いえ・・・長さんが神と邂逅する話は噂に聞いておりましたが本当だったのですね・・・」

「え?嘘だと思っていたの?」

「いえ、そのような事は無いのですが・・・」


まぁそうだろうね~俄かに信じがたいと言うやつだね。

「神の啓示を受けた」とか「神と邂逅した」とか言われても通常は胡散臭い。

俺が皆にある程度信じて貰えたのは、その後に何かしらの結果が出ているからだと思う。

まぁ一部は歴史を知ってて放った言葉なども多いけど、神々が関わったことで神秘的な現象が起こったこともあるので、俺が神を騙ることは無いと思われているんだよね~


「まぁ普通は信じられないからね~ただ、何だか不思議と神々とご縁があってね」


久さんとは色々話し、今生の別れを済ませた。

そして、久さんはあの世へと旅立つ事となる。


「荼枳尼天様宜しくお願い致します。それと、宇迦之御魂神含め、今回、取成しして頂きました神々に感謝をお伝えください」

「お!宇迦以外も頼んで来たのによう気が付いたの~」

「まぁ何となくですが・・・」


荼枳尼天様はヒンドゥー教の神だ。

同じ宗教の神や元はインドの神々などは知り合いではないかと推察できる。

そして、ヒンドゥー教においては地母神、土地を支配し育む神の配偶神であり、豊穣を司る農耕神として祀られている。

しかし、日本ではこの荼枳尼天様は白狐に乗って現れる神とも云われており、狐との結びつき宇迦之御魂神様とも混同されるが、狐は古来、古墳や塚に巣穴を作り、時には屍体を食うこともあることから、人の死などの未来を予知し、それを告げるに現れる神としても崇められている。

狐と荼枳尼天様の結びつきは中国でも見られると聞いたことがあるし、日本というより大陸からそれも伝わったのかもしれないが、荼枳尼天様は死神的な権能もお持ちのようだ。


「さて、では参ろうか」


そう言って荼枳尼天様は久さんを導いて冥界へと旅立って行かれた。


★~~~~~~★


朝起きると泣いていたようだ。

荼枳尼天様と久さんの後姿を見えなくなるまで見送っていた間に止めどなく涙が溢れていたが、どうやら寝ながらも泣いていたようだ。

起こしに来た美羽からは心配されたが、「久さんと最後のお別れをしておった」と言ったら「そうですか」と言って微笑んでくれた。

また一人仲の良かったものが旅立った。

悲しくもあるが、仕方のない事だと言う事も理解している。

そして、俺は久さんの供養を済ませ小田原へと舞い戻った。


〇~~~~~~〇


名人久太郎死す・・・

本当はもっと登場させたかった人物なんですが、中々に登場させる機会が無く最後の時を迎えてしまいました。

さて、日本において「死神」といえば、日本神話の「イザナミ」こと「伊邪那美命いざなみのみこと」ではないでしょうか?

かの神は「黄泉津大神よもつおおかみ」とも呼ばれ、黄泉の主宰神と云われます。

日本の古典文学では「死神」というのは一つの題材で、古典落語の演目にも「死神」というものもありますし、江戸時代に発刊された「絵本百物語」という奇談本(怪談本)の中にも「死神」という話があるそうです。

歌舞伎の演目でも「盲長屋梅加賀鳶めくらながやうめがかがとび」、通称「加賀鳶かがとび」というものがあり、そこで「死神」の話を題材に話が進みます。

河竹黙阿弥という幕末から明治にかけて活躍された歌舞伎狂言作家さんが書かれた作品ですが、イメージ的には「死神」というより「悪霊」といった感じです。

話の内容的には、死神悪霊に取りつかれた者が自分の犯した罪を後から思い起こして後悔し死にたくなるという感じのものです。

おっと!悪いものの話をしているとそのものが寄って来るともいいますね。

「アジャラカモクレン、○○○、テケレッツのパー!!」

よし!これで大丈夫!!(知らんけど)

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