第389話

「ほう!あれが噂に聞く伊達家の当主か!」

「の様で御座るな」


北方隊で手持ちぶたさにしておった真田の次男坊(真田信繁)と共に韮山城攻めを見に来た。

長さんが一人で城攻めをするという噂話を聞き付けると陣借りしておる上杉家に願い出て陣を抜け検分にやって参った。

源次郎(真田信繁)もそれを羨ましがったので彼の親父である真田安房守殿(真田昌幸)や喜平治殿(上杉景勝)に願い出て許しを得、一緒に検分にやって来た。

序に小田原城検分と称して関白が拵えた遊郭に遊びに来ている最中、伊達の現当主が何やら面白い事をしておると言う噂を一早く聞き付けた俺たちは、その面白き事を見る為に見物客に交じってそれを見ている。


「慶次殿」

「何じゃ」

「彼は慶次殿と同じ傾奇者なのですか?」

「さぁな・・・しかし、黄金色の磔台を背負って市中を練り歩くとは実に傾いておる!!」


長さんの文で彼の在り様を聞いておったが、傾奇者のようには思わなんだが、中々に傾いておる。

恐らくは計算してわざとあのような行動を取っておるのであろう。

儂の勘がそう囁く。

伊達殿は小田原征伐の少し前に奥州で大暴れする若き君主として噂に登っておった。

どうやら源次郎(真田信繁)と同い年らしく、源次郎が対抗意識を燃やしておった。

源次郎と酒を飲むと自分の今の境遇のままでは世に名を馳せることが出来ぬと嘆く事が暫しある。

その際には立左りっさ殿(立花宗茂)やくだんの伊達殿の名が挙がることが暫し・・・


「もっと自由であれば!儂の名を世に轟かせることが出来たのに!!」


などと嘯くこと暫し、人質として渡り歩く彼の苦悩の言葉は酒の力を借りて湧き出る。

そんな源次郎が困惑しておる。


「傾奇者なのか?いや・・・しかし・・・」

「傾奇者なのかどうかは知らぬが、そう行動する何かしら意味でもあるのであろう」

「意味で御座るか?」

「そう、噂では関白が大層ご立腹との事じゃ」

「ああ!二カ月も遅参したことが理由であろうとの噂ですな」

「あの狒々猿が呼び出したと聞くし、少しでも叱責されない為に興味を引く為にあれをしておるのも知れぬな」

「まさか!!」


源次郎は承認欲求が強過ぎて視野狭窄に陥っている様で、「目立っておるの~」「羨ましい」等の独り言を囁いておる。

ふと見物する民衆の中に知っておる様な顔が見えたので、手招きするとその者がこちらに気付きやって来た。


「お銀殿久しいな」

「はい、ご無沙汰しておりまする」


藤林の諜報部の幹部の一人である女性である。

何か面白い話はないかと思い、彼女に聞いてみれば、長さんも伊達殿の詰問の場に呼ばれているという。


「ほう!それは面白そうじゃ!!」

「いえ、蔵人様は「何故呼ばれたか解らん!!」と言っておられるそうですよ」

「さもありなん!!しかし、何やら面白き事が起こりそうじゃ!」


俺がそう言うと、お銀殿は困った顔をしつつも「蔵人様ですから」と言う。

確かに長さんが絡めば何やら面白くなりそうと儂も思えるからそれを述べた訳ではあるが、配下の者たちも同意見とはな。

さて、長さんに後日話を聞くのが楽しみじゃ。

そう思いながら、黄金の十字の磔台を背負い道行く伊達殿の背中を眺める。


★~~~~~~★


「よう参った!!」


藤次郎殿(伊達政宗)が参上したという事で会見場の上座に座るお猿さん(豊臣秀吉)がそう声をかけた。


「伊達藤次郎政宗、お呼びにより罷り越しまして御座いまする」

「うむ!」


藤次郎殿は深々と頭を下げ対面するお猿さんにご挨拶。

お猿さんはそれに鷹揚と答える。


「時に何とも傾いた事を行ったと聞き及んでおるが?」

「御恥かしい限りでは御座るが、某の覚悟を形にしてお見せしたまでに御座いまする」

「ほう!覚悟とな?」

「はい」


藤次郎殿の性格的に今の死に装束は絶対に死ぬ目的ではないよね~と思う。

何と驚いたことに金の十字の磔台まで用意して持参したという。

そして、その金の磔台は俺の配下の者が用意したというではないか。

特注・お急ぎと言う事で、俺の方に稟議が回って来た。

勿論、面白そうなので俺の名で承認し、大至急と言う事で仕上げて貰った。


「その覚悟とは死ぬ事がー?」


あ~お猿さんの目が座る。

藤次郎殿を値踏みするようにまじまじと見つめておる。


「勿論、その覚悟は御座いまするが、関白殿下に合わせて趣向にて御座いまする」

「ほう!そうなのきゃ?長さんはどう思う?」


俺に振るな!!と言いたいが、最近何故か定位置になりつつあるお猿さんの横の席に俺の席が用意され、諸将居並ぶ中、見下ろす形のポジションで観戦しておりました。


「派手好きに合わせたんじゃないの?」


面倒臭くて適当に答えた。

お猿さんは確かに賑やかで少し派手な事を昔から好んだ。

しかし、何時の頃からかは知らないが、その派手な事というのが年々アップグレードされている様には感じる。

人を驚かせるのも好きだし、それでUPUPしているのかもしれないけど、お前は芸人か!!と言いたくなる位には何か狙った様にド派手な事を行おうとしている様な節がある。

そういう意味では藤次郎の金の十字架は大成功だと思うよ。

お猿さんが興味持たなければ、速攻で「改易じゃ!!」とか言いそう。


「そうきゃ!そうきゃ!!儂に合わせたの~」

「はい・・・」


顔には出ていないけど、藤次郎殿の内心は汗タラリといったところだろう。

お猿さんは徐に立ち上がり、藤次郎殿の方へと近づいて行き、手に持つ扇を藤次郎殿の首の辺りに添えた。


「もう少しばかり遅ければここが飛んでおったぞ」


そう言ってニッコリと微笑んだ。

そして、元の定位置に戻ると先程までの息の詰まるような雰囲気は消え去り、にこやかな顔でお猿さんは言う。


「して、誰の入れ知恵じゃ?」

「恐れながら、過去の人物の故事に倣いまして御座いまする」

「ほう!聞かせよ」


そう言われて藤次郎殿はキリストのゴルゴタの丘話を語って聞かせた。

お猿さんは興味深そうにその話を聞き途中途中で質問を入れるが、藤次郎殿が上手く答えられない。

まぁ俺が以前に彼と話した内容の聞きかじりを語っているので細かい事は恐らく知らないと思うから仕方ないね。


「ふむ・・・その話は伴天連の坊主にでも聞いたのぎゃ?」

「いえ・・・」


藤次郎殿が俺をチラリと見る。

お猿さんがその目線から何かを察したようで、俺に言って来る。


「何じゃ!長さんの入れ知恵か」

「いや、俺じゃないし!確かにキリストの話は俺が教えたが・・・」


俺が嫌そうに言うと、それが更にお猿さんの興味を持たれた様で、俺がその話を引き継ぎ、お猿さんの質疑応答も行った。

結局のところ、伊達家は会津の所領を失う事となったが、元の72万石を安堵されたので、伊達家としてはミッションは成功と言ったところであろう。


〇~~~~~~〇


イエス・キリストの処刑の地「ゴルゴタの丘」ですが、エルサレムの丘だと云われますが、「ゴルゴタ」というのはアラム語という言語では「頭蓋骨・髑髏どくろ」を意味します。

ラテン語では「Calvaria」と言いますが、そこから派生してゴルゴタを「カルワリオ」と言ったりしますが、英語では更にそれが派生して「Calvary(カルヴァリー)」と言います。

ゴルゴタと言えば故さいとうたかを先生の代表作、漫画「ゴルゴ13」でしょう!!

この漫画のタイトルで使われている「ゴルゴ」はゴルゴタの丘から取られ、13という数字はキリスト教では不吉な数字の一つを組み合わせ、「神に背を向け、13という不吉な数字を背負った男」として付けられたと云われます。

ギネス世界記録に認定された世界最長の刊行数の日本が誇る金字塔漫画です。

さて、話を戻し、この「ゴルゴタの丘」ではキリストが処刑されたのですが、数々の伝説が残っております。

キリストの最初の奇跡は「血を酒(ワイン)に変えた」と云われますが、最後の奇跡は恐らくこのゴルゴタの丘の一連のものでしょう。

自分で背負って持って来た磔台で処刑されたと云われますが、この処刑で使われたキリストの脇腹を刺し貫いた槍は「ロンギヌスの槍」と呼ばれるようになり、聖槍とも呼ばれますし、キリストの零れ落ちる血を受けた杯は聖杯と呼ばれ、磔台から降ろされた後キリストを包んでからの血が大量に浸み込んだ布は聖骸布と呼ばれて聖遺物となりました。

ロンギヌスの槍はキリストを刺した人物の名を取ったものですが、英語圏では俗称で「運命の槍(Spear of destiny)」とも云われます。

幾つか「聖槍」はある様なのですが、どれが本物の「ロンギヌスの槍」なのかは・・・

聖杯は実はこれ以外にも幾つかあり、最後の晩餐に使われたとされる杯や儀式である聖餐に用いられる杯(カリス)を聖杯と呼びます。

キリストの血を受けたと云われる聖杯だけでも聖槍と同じく複数ありどれが本物か・・・

聖杯の行方というのはある種のミステリーでもあるので中々興味深いですね。

それらを語ると長くなるのでこの話題はここで締めます。

キリストの最後の奇跡は処刑後に復活して(生き返り)、弟子たちと過ごした後、彼らが見守る中、天に昇ったと云われます。

さてさて、作中で「立左」と立花宗茂を表現しましたが、私の推し武将なのでこれについて説明!!

1582年頃に名を戸次弥七郎から近将監に改めたそうです。

それ以降は愛称的に「立左」と呼ばれるようになったそうです。

立花宗茂は他にも「柳河左近侍従」等とも呼ばれたそうです。

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