デスゲーム運営会社における慌ただしい3日間について

イカダ詫び寂

1日目 ①

 目が覚めて最初に入った景色は鎖に繋がれた男女複数人だった。


 今が何時か分からない。気が付いたら薄暗い独房のような場所に閉じ込められている。自分も例外ではない。手から伸びた鎖が、否応なしに拘束されている事実をつきつけてくる。


「……んだここは、オイ」


 人相の悪い輩が目を覚ましたようで、開口一番に文句を垂らしながら周囲を威嚇していた。


「ちょっと、なにこれ!?ここどこ!?」

「いやぁ……帰りたいよぉ……」


 女子高生だろうか。制服姿の二人が泣きだしそうになっている。他には初老の裕福そうな男性、ギャルのような女子大生と思わしき若い女性、30代くらいの屈強な男性が同じく鎖に繋がれている。


 パッと明りが点いた。モニターのようなものが頭上に現れる。


『皆様、おはようございます。よく眠れましたか?』


 仮面を被った謎の人物がモニターに映し出された。声はボイスチェンジャーで変えたような声だ。著しく地声が変な可能性もあるが。


「ちょっと!何よこれ!あんたがやったの!?」

『元気がいいことは何よりです。さて……』

「てめえふざけんなよ!ここから出しやがれ!」

「そうよ!デートの時間に送れちゃうじゃない!」


 ヤンキーのような男とギャルが捲し立てている。何とも強気な姿勢だ。


『……まず分からせる必要がありますね』


 仮面がそう言うと、ギャルの女子大生の鎖が光った。


「え……なにこ……ぎゃああああああああああああああああああああああ!」


 流れているのは電流のようだ。女子大生が電気で焼け焦げていく。プスプスと音を立て、女子大生はぐしゃりと崩れ落ちた。


『さて、静かになりましたか?人の話はまずちゃんと聞きましょうね』


 しん……と静まり返り、部屋からは人が焦げた匂いだけが充満していた。



『さて。皆様にはこれからゲームをしてもらいます。文字通りの命がけのゲームです。ルールは簡単で、皆様に配られた1~5と書かれたカードを奪い合ってもらいます。1枚ずつ順番に隣の人からカードを取ってペアが出来たら捨てる……要するにババ抜きですね。もちろん、ババになるカードもありますのでそのつもりで。そして最終的に1人になるまで戦ってもらい、残った人が勝者です!』


 ……ババ抜きだな。本当にオーソドックスな。


『もちろんこれは命がけのゲームですので、ババを引いて上がれなかった人は……さっきのかわいい子ちゃんと同じ目に遭いますので、そのつもりで』


 ぴくりとも動かない死体に視線が集まる。今の人数は6人。5回ババ抜きで勝たないと死んでしまうらしい。


 ……


 ダレるな……


『じゃ、皆さん頑張って』

「待ってください」


 女子高生の一人が仮面を呼び止めた。さっきの女子大生を見て口出しするとはなんと勇気ある行動か。


『なんですか?これ以上プレイヤーを減らしたくないんですが……』

「えっと、質問が何個かありまして」

『ゲームに関することだったらいいですよ』

「じゃあ、まず捨て札は開示して捨てるのですか?」

『え?』

「ペアが揃って捨てる際は他のプレイヤーに見られてもいいんでしょうか?見たところそのような器具が見当たらないので」

『あー……見えないように捨ててください』

「分かりました。あと手札についてですけど。1~5と書かれた数字を配るのであれば一人5枚になりますよね?この時点でドクロを持っているプレイヤーが分かりませんか?」

『……そうですね。ドクロ所持プレイヤーは運です。受け入れてください』

「カードは毎回新品に替えられますか?不正行為が容易い環境のように思えますが」

『……それもまた実力かと』

「それと」

『えい』


「え……きゃあああああああああああああああああああああ!あ……そん……な……」


 突如流れた電流は、粗が多いゲームに対する正論を遮り、無慈悲にも女子高生の身体を蝕んだ。やがて、その口から煙が出て、女子高生はバタりと倒れた。


『……』

「……」


 幾分かの気まずい沈黙が流れたあと、仮面は

『じゃあよろしくお願いします』

 とだけ残し、モニターは消えた。







「……はいカット!まひるさん!集合!」


 遠山は少し声を荒げて隣の部屋にいるまひろを呼びつけた。手に繋がれた鎖を外し、医療班に連絡を取る。D組とは言え、電気ショックの仮死状態だ。下手すれば本当に死んでしまう。


「うええ~せんぱぁ~~い」

「まひるさん……色々言いたいことあるけどとりあえず鼻水かもっか」





 今日は恒例の新人研修日である。


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