血脈のカタルシスト 運命のカナリア書編

冬夜ミア(ふるやミアさん)

モノローグ

運命とは何か?

 いつのころだろうか、運命という名の亡霊に憑りつかれたのは……。


 少なくとも幼少の頃には運命とは何かと考え始めており、ふとした瞬間にその考えに耽り込んでいた。そこで稚拙ながらもひとつの結論を見出した。


 運命とは、誰かが勝手に決めた不可知な雛形であり、あの世に旅立つ日が来ても決して理解することもない事象である。と、半ば諦めのような考えに落ち着き、そこで幼少の頃の運命についての考えを終え、日々の日常に戻った。


 そこから少年は青年へと成長してゆくにつれて、多くの知識や煩雑とした物事を理解できるようになり、ふたたび運命とは何か?という誰も知らない命題に思いを馳せるようになった。結果としていくつかの仮説が生まれた。


 たとえば、運命というものは自分が作り出したいわば妄想の一種であるとか、実は世界の外側には管理者がいて、ただ自分たちはそのシミュレーションに従っているだけで運命とはその概念を説明するために作られた言葉であるとも考えた。他にも人間関係、特に異性との関わりによって生じる因果律の類ではないかと、真面目に考察した日々もあった。


 当時の自分はこれほど優れた考えはないと心酔し、他の意見があるなら証明しろと無駄に息巻いていた記憶がある。今思えば恥ずかしい態度であり、それらの考えは運命という存在を舐め切った浅はかな発想であったと反省している。


 それに気づかされたのは高校生になったころ、運命の巡り合わせか、そういった世界観に詳しい人物、正確には存在に出逢い。自分は大きく価値観を変えられた。


 先述した意見は役に立たないとまでは言わないものの、その者たちにとって見れば言語化されている時点でその考えは鼻紙モノであるらしく、個人で愉しんだり、満たされない虚栄心を慰めるには丁度良いと温情を掛けられるほどに浅いんだそう。


 そもそも、五感、第六感でも感じ取れない領域を識ろうとしている段階で愚行の塗り重ねであって、仮にその運命というものが見えたところでその意に沿う行動や選択肢を取らねば何の意味もない。と、厳しく根底から一蹴されたものだ。


 そのことを聞いて自分は不貞腐れながらも賛同し、またしばらく運命とは何か?というくだらない命題に思いを馳せることはなくなった。


 けれど、人は何度も同じ考えを反芻してしまうようで今日もまた運命とは何か?という、どうでもいいはずの概念について性懲りもなく思案しているこのごろ。


 さすがにこう何度も運命について向き合ってきた経験上、こういう考えに陥る時は大概、暇なときか大きな事件が解決し落ち着いているかのどちらかだ。


 もういいだろうと投げやりたい想いがある反面、まだ運命とは何か?と思案できるこの感性があることへの小さな喜びがあるのもまた事実。そして、今日もその答えが出ないこともよく識っている。


 まったく、運命とは難儀なものだ。


 とはいえ、本書のテーマが『運命』であると同時に自分の半生を振り返る一冊になる都合上、建前でも『運命とは何か?』について言及、定義する必要がある。


 もちろん、明確なものではないことは充分に理解しているが、この本書を読み進めていく一つの指針として利用してもらえたら幸いだ。


 運命とは、誰にも把握することが適わない『不可知な流れ』と呪いにも似た『強制力』を含み。それは他者との関わりによって変化し、過ぎ去った運命を『過去』と呼び、まだ起きてもいない運命のことを『未来』と呼ぶ。その両極端を証明するのは『現在』今自分が生きて把握できる世界の領域と定義する。


 いわば、生命の視点を中心に過去と未来を規定づけて、正しいか間違っているかは抜きにして、まるでチャックやファスナーを閉めるように変化し収束した『生命の体験した出来事』を運命と呼ぼうじゃないかという考え方だ。 


 一例として自分の人生の内容を挙げるが、かつての自分は無難に生きたいと望んでいた。けどもそういった平坦な人生ほど自分の持つ運命に噛み合わず、無理に進もうとすると脱線したピンのように破損してしまい。起きる運命の内容もめちゃくちゃになってきてしまう。


 逆に見た目ガタガタで自分の溝に嵌らなそうな道の方がスムーズにピンは進み、たまに異物を挟むことはあれど、合っている道なら過去の運命を振り返って異物を取り除き、もっと先の未来へと進むことができる。


 いま思えばこんな車が走れば簡単にパンクしそうな道をよく歩いてこれたものだなと、我ながら感心し驚いてしまう。


 もちろん、そんな道を歩いているといつの間にかによく分からない突発的な事件に巻き込まれたりもするし、映画でもやらないようなアクションをやらされて危うく命を落としかける事態を引き起こす場合もある。


 また運命から逃げようとしても、予定調和が発動してか勝手に闇の帝王などと祀り上げられたりして、無関係だったはずの事件に無理やり参戦させられ、なぜか一級指名手配犯に仕立てられることだってあるのだ。


 そうやって厄介事を解決しているうちに持つ気もなかった家族や友人、超次元暗黒の住民との交流等などと、自分の正気を疑うような事態と関係性が構築されていた。


 本当、無難とはほど遠い人生を送らされているとつくづく思い知らされる……。


 とまあ、自分語りはここまでにして、本書の内容について簡単に語るとしよう。今回は主に現在の妻である『銀之字カナメ(旧名相坂カナメ)との出逢いと馴初め話』をオチに、その話に通ずる『銀堂家の騒動』や数年前に大規模テロ事件を起こした『源遊会および魅音座他組織が誕生した秘話』についても触れていく予定だ。


 あと、本書は自分の人生の節目と半生を含んだ一冊にする予定だから、なるべく隠し事の内容には進めていく。


 正直なところ、親しい人間や存在について綴ることは少々頬を掻きたくなるほどに気恥しい部分があるため、意図せずにはぐらかしてしまうところがあるかもしれないが、そこら辺は許容してもらえると個人的には助かる。


 それでは、本書をごゆるりとお愉しみください。

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