第14話 旅立ち
そしてとうとう学園に向けて旅立つ日が来た。
学園長と話したあとオレはとてもまずいことになった。
そう、筆記試験だ。
オレは魔力が無いため必要ないと断じ、親父たちもまぁいいかみたいな感じだったのもあり全く手をつけてなかったのだ。
試験日は明後日、馬車ではもう間に合わんところまでオレは追い詰められていた。
「お兄様、ハンカチは持ちましたか?お弁当は?呼びの靴は?」
「だァ!お前はお袋か!!大丈夫だって!」
「うふふ、失礼しました。お兄様のお世話を焼くことがしばらくできないのでつい。」
そう言ってイタズラ成功と笑うイーシャ。
「それにしても、本当に馬車はお使いにならないのですか?」
「オレが走った方が速いからな。」
「…相変わらずめちゃくちゃですね、お兄様は。」
そう言ってイーシャは呆れ気味に笑う。
だがすぐに気を引き締め、凛とした表情になる。
「こちらのことはお任せください。」
「ああ、頼んだぞイーシャ。」
「はい、お兄様。」
そしてオレはイルスに目を向けると、鼻を啜って少し目元が赤らんでいた。
「イルスお前…」
「べっ別に寂しいとかじゃねー!!…アレスも父上も兄貴も勝手にどっか行っちまうし、最近はなんか変な感じだ。」
「!」
意外だった、イルスは頭が悪いワケじゃない。
コイツなりに何かを感じてるのかもな…
「オレと親父が留守の間はお前がみんなを守るんだ。」
そう言ってイルスの頭を乱暴に撫でる。
「グスッ分かってる…!兄貴、次会うときは絶対勝つからな。」
「フッ、楽しみにしといてやる。」
イルスの言葉に兄として嬉しくなり、僅かに口角が上がる。
イルス横にいる、エレンとエレンの手を握ってよく分からんという顔をしているアンナ。
「エレン、お前はお袋に似ているしイーシャに負けないくらい賢い。お袋たちを支えてやってくれ。」
「うん、兄さんも気を付けてね。」
「…おにーちゃんどこか行っちゃうの?」
話を聞いていた、アンナはようやく理解したようだ。
絶望が滲んだ声を出す。
「ヤダぁ!!なんで!おにーちゃんはアンナといっしょにいるの!!!!」
そう言ってギャンギャン泣き出すアンナ、オレはアンナを抱き抱えて同じ目線にする。
オレに持ち上げられたアンナは、少し落ち着いたのか鼻を啜りながらも泣き止む。
「アンナ、お前はもうお姉ちゃんなんだろ?」
「…うん。」
「じゃぁお前の大好きなお姉ちゃんを手伝ってやってくれないか?」
オレが諭すように言うと少しの間俯き逡巡するアンナ、しかしすぐに顔を上げてオレの目を見る。
「分かった、アンナおねーちゃんのおてつだいする…だからおにーちゃんはやくかえってきてね…」
アンナは涙声になりながらもそう言ってオレの首に腕を回してギュッと抱き締めてきた。
オレはアンナの背をポンポンと優しく叩く、少ししてアンナが離れ、地面に下ろす。
エレンとアンナの頭を撫でてから、お袋の方を向く。
「ノル…もうすっかりお兄ちゃんね。」
「柄じゃねぇけどな。」
お袋の表情は心配と不安が見て取れる、しかし今のアンナとのやり取りを見て多少安堵したようだ。
オレはそんなお袋の手を取る。
「お袋、全部をアンタに背負わせる形になってすまん。オレが学園に行ってもイーシャとイルスがいる、エレンとアンナもな。」
「ええ、そうね…ノルのお袋呼びも、随分慣れちゃったわね。やめさせないとって思ってたのに…しばらく聞けなくなるって思うと不思議と寂しくなっちゃうわ。」
お袋が寂しげに微笑む。
「母上、オレは頭使うの苦手だけど手伝えることは何でもやるからさ。」
「そうですよお母様、私たちは家族ですもの!」
手を頭の後ろで組んでニヒヒと笑うイルスとフンスと意気込むイーシャ。
「フフ、ありがとう貴方たち。ノル、疲れたときはいつでも帰ってきなさい。ここが貴方の帰る家よ。」
お袋の言葉を聞いて胸が温かくなる。
「ああ…行ってくる。」
「行ってらっしゃい、ノル。」
オレは背を向けて歩き出す。
「ノル!アルスタット公爵家の誇りを見せ付けてやりなさい!!」
オレは振り返ることなく拳を空へ掲げた。
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