第5話 特異技能
アルスタット公爵家に通う魔法学の家庭教師は2人いる。
片方はイーシャ専属、もう片方はお察しイルスとアレスの専属だ。
ちなみにもう1人ずついる弟と妹はまだまだ幼いから貴族教育を受けていない。
イーシャの専属は真っ白なヒゲを蓄え、ゆったりとしたローブとデカい帽子を被った如何にも凄腕の魔法使いとって感じの爺さんだ。名前はたしかレウルス・グランデスとか言ってたっけな。
こちらはまだ良い、魔力が全く無く周りからすれば無能とも言えるオレと、7歳の現時点で既に位階3の魔法師である将来有望なイーシャ、その2人が一緒にいる場面を見てもヒゲを撫でながら微笑ましいものを見る目で見てくるだけだ。
だが逆に、イルスたちに付けられた家庭教師がマズい。
家庭教師と言うにしては若い女だ、背中がバックリ開いたミニスカドレスみたいなのを着て肩になんか羽織ってた。貴族の子供を教えるのにそんな格好で来んなよとは思ったが、公爵家の子息を任されるだけあって優秀なんだろうな。
しかし、こっちは魔力主義と言うべきか、魔力の総量であからさまに態度を変えてくる奴だった。
オレとイーシャが2人でいるところを見かける度、オレにだけ射殺すような視線を向けてきた。
更には、イーシャがそばに居ない時は
『公爵家の嫡子でありながら魔力が全く無いなんて…恥ずかしいとは思わないのですか?』
なんて嘲笑混じりに言ってきたこともある。
ムカついたからぶちのめしてやろうかと思ったけど、公爵家に雇われるってことは多分どっかの貴族家の人間だろうと思ったからやめた。
イルスとアレスが幼いながら歪んできてんのはコイツのせいなんだろうな、どうでもいいけど。
オレは魔力が無い、故に当然魔法に関する授業は受けられない。
だが、イーシャたちが魔法の授業を受けている間は特にやることも無いのでイーシャが授業を受けているのをよく眺めている。
親父やレウルスの爺さんにも許可は貰ってるし、何よりイーシャと爺さんと3人で話すのは楽しいしな。
今は中庭でイーシャが緻密な魔力操作の鍛錬をしているのを壁にもたれて眺めながら、オレは爺さんと話していた。
「なぁ、爺さん。」
「何かのぅ?坊ちゃん。」
「イーシャは将来どれくらいの使い手になりそうなんだ?」
イーシャが言っていたことがホントならコイツの才能は天賦の才だ、いつかは位階10も有り得るかもしれん。
「はてさて、お嬢様はまだまだ幼い故断言はできぬが…ワシの見立てではいずれ位階10にも届きうるじゃろうなぁ。」
それを聞いて、柄にもなくオレは誇らしくなった。
「そうか。…爺さんの位階はいくつなんだ?」
「ふぉっふぉっふぉ、他人の位階を聞いてしまうのはタブーじゃよ?」
爺さんに笑って諭される。
「じゃが、坊ちゃんとワシの仲じゃ。特別に教えましょうぞ、他の者には秘密じゃぞ?ワシの位階は10じゃよ。」
大して期待していなかったオレはそれを聞いた瞬間目を見開いてバッと爺さんに視線を向けた。
「ふぉっふぉっふぉっふぉ。」
爺さんは悪戯に成功したと言わんばかりにヒゲを撫でながら笑っていた。
ムカついたが、あの女家庭教師に何か言われた時と違って嫌な気持ちにはならなかった。
だが同時にあの女の位階も気になった。
「じゃぁイルスどもに魔法教えてるあの女は?」
「ふーむ…他人に位階を聞くのも良くなければ、他人の位階をバラすのも良くないんじゃがのぅ…」
爺さんはヒゲを撫でながら困ったように眉を下げた。
「気にすんなよ、オレが許す。」
「一体どこからそんな自信が湧くのやら…本当に内緒じゃよ?あの娘は見たところ位階6じゃな。」
爺さんは不敵に笑うオレを見てやれやれと言った感じで教えてくれた。
「…ん?見たところ?」
オレは爺さんの言葉に違和感を覚えた。
「魔力量を見るってなら分かる、親父もできるしな。でも使える魔法の位階まで分かるのか?」
オレがそう聞くと爺さんはしまったとばかりに目を見開いた。
「やれやれ、ノル坊ちゃんは本当に聡いのぅ…その通り、普通は分からぬよ。ワシは鑑定魔法が使えるんじゃよ。」
「(転生モノでありがちな奴だな…)そりゃ誰でも使えるのか?」
「位階7以上の魔法師なら誰でも使えるぞい。」
「てことは意外と使える奴は限られてくんのか…鑑定魔法は対象の情報をどれだけ見れるんだ?」
「まったく…普通聞くことを
「特異技能…?」
「読んで字のごとく、特異な能力のことを指すんじゃよ。持っている者はごく稀じゃが、魔法とは違う特別な能力を持って生まれる者がおる。世ではそれを特異技能と呼んでおるんじゃよ。」
「なるほどな…つまりオレの身体のことはとっくに知れてたってワケか。」
オレが少し怒気を孕んだ声で言うと、爺さんは帽子を取って頭を下げてきた。
「クセとは言え、坊ちゃんの秘密に触れてしまったのはワシの過失。如何様にもしてくだされ。」
そう言っていつの間にか手に持っていたパイプ煙草の煙を
オレはそのあまりに拍子抜けな反応に毒気を抜かれてしまった。
「お兄様ー!見てください!」
すると同時に、イーシャが手のひらの上で黒炎で作られた薔薇のようなものを嬉しそうに見せながら叫んでいた。
「…誰にも言うなよ。」
益々毒気を抜かれたオレは爺さんにジト目を向けながらそれだけ言ってイーシャの元へ歩いていった。
「ふぉっふぉ、心配の必要はありゃせんよ…話せぬよ、こんな能力があるなどと。」
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