Charisma

広茉杏理

プロローグ

2月25日 1

 月曜日の朝。

 息が白い。

 空も白い。

 二人の他には誰もいない。

 とことことこ。

 右手に水田。

 とことことこ。

 左手に川。

 とことことことことことことこ。

 細い道だ。

「ところで最近ね、面白い小説を見つけたの」

「どこで?」

 甘く冷たい声と、中性的なハスキーボイスとのやり取りである。

「小説投稿サイト。聞いたことない?」

 紺に金字のセーラー服は、灰色のダッフルコートに隠れて見えない。

 小柄で華奢だが、やはりコートが邪魔をする。

 うねりが強くて長い黒髪。唇は血の赤、肌は骨の白。際立つ容姿に描写は無粋だ。

「アレでしょ、オトナになれない子どもの巣」

 こちらは学ランで男装した美少女、に見える。

 やはり小柄だが、華奢かどうかは脱いでみなければ分からない。

 栗色の髪は前下がりのボブカット。銭湯に行けば選ぶのは男湯だ。

「オンライン上の文芸部みたいなもんよ」

「そういえばココロって文芸部に入りたがってたよね」

「ヤマトに止められたけどね」

 中津国魂ナカツクニココロ葦原神アシハラヤマト。酷いセンスである。

「部室がカビ臭かったんだもん」

「……おとなしい趣味の人たちになんか恨みでもあるの?」

「僕も君も騒がしい趣味は持ってないでしょ」

「答えづらいってことね」

 隣り合った自宅。

 生まれた頃からの幼馴染。

 ふた月経てば同じ誕生日を迎え、そのふた月後には同じ大学に進む。

「それで、最近見つけた面白い小説っていうのは?」

「話戻すなんて意外。興味あるんだ」

 校舎はまだ見えてこない。

「ココロが褒めるのは珍しいからね」

「じゃあタイトルだけ教えといてあげる」

「気が向いたら検索してみるよ」

「寝惚け眼のビスクドール、っていうの」

(猛烈につまんなそう)

 素直な感想は口を突けなかった。

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