第37話 女子会で知るイロイロな事実

「んじゃ、魔法王国の益々の発展と、エリア810で戦う魔女ちゃん、カリナの頑張りを祝して、かんぱーいっ!」

「「かんぱーいっ!!」」


  魔法王国、大樹レヴィントンの最上段ツリーハウス、四聖魔女のひとりである『夜の安らぎの黒』リリアス・メグル君宅にて、何故か僕、ステア・リード(体は魔女カリナ)は、小麦色の肌の女の人に肩を組まれた状態で宴会の最中にいた。


 僕に絡みつつ、山葡萄のワインを楽しそうに掲げているのは、やはり四聖魔女の一人、『希望を灯す黄金のあかつき』レナ・ウィックルさん。

 その向かいでは『天輝く陽の魔女』ミール・ロザリアさんが旦那様のダリルさんと居並んで座っていて、その隣にはリリアス君と並んで料理に香辛料と魔法を振りかけている中年女性、『暖かな夕餉ゆうげしゅ』ルルー・ホワンヌさんが「さ、召し上がれ」と料理を勧めてくる。


 そしてこの部屋のそこかしこで、リリアス君の執事や使用人の男の人たちが接待に動き回っていた。

 そんな僕らの上を、ふたりのナーナがまるでミツバチのように飛び回り、花にでも止まるみたいに料理に着地して、それを抱えて飛び上がり、競うようにもぐもぐしてる……やっぱリリアス君以外の四聖魔女さんにもナーナは見えないみたいだ。


 どうしてこうなっているのかと言うと、リリアス君に思わぬ秘密を打ち明けられたのもあって、今日はじっくりこの家で彼と話をしたいと思ったんだ。

 で、さっき声をかけてくれたミールさんに断りを入れておこうと思って、一度彼女の家まで行ってその件を伝えると、ミールさんは嬉々として「じゃあ、あと二人も呼んでパーティしましょう」と提案、いや即座に実行に移してしまったのだ。


 止める間もなくレナさんやルルーさんと合流したミールさんが、そのままリリアス君の家に押しかけて来てこうなったのである。


 と、言ってもこの四人が集まって食事会をする事は別に珍しくなく、四聖魔女としての情報交換も兼ねて度々パーティやってるらしい。

 そしてその会場には結構な頻度でこのリリアス亭が選ばれるとか……理由はまぁお察しで、執事や使用人の男の人がお目当て(特にレナさんとルルーさん)なんだろう。

 古い文献で言う『こんぱにおん』ってヤツなのかな?


 で、今回の宴会のネタとして、最前線であるエリア810で戦っている僕がやり玉に挙げられているわけだ。特にレナさんは攻撃魔法の専門家で、自分が開発した魔法の戦場での戦果を色々聞きたいらしく、僕に積極的に絡んで来る。


「どうよ、アタイの開発した『恵雨礫イタザーザ』は。さぞ帝国の兵士共をやっつけてんだろ?」

「あ、ええ……まぁ、それなりに」

「ンだよ歯切れ悪りーなぁ、ちゃんと使いこなしてんのかぁ?」


 恵雨礫イタザーザって言うのは水魔法の一種で、水滴を弾丸のように撃ち出すものだ。至近距離なら鉄板をもへこませる威力があるのだが、いかんせん射程が短く、離れたらせいぜい横薙ぎの雨くらいのものでしかない。帝国兵が銃や戦車砲で撃ちまくって戦闘している状況で、至近距離まで近づかないと有効打にならないこの魔法は、810でも使う人はあまりいなかった。


「違うんだよ! もっとこう、ぐわーっ! と使って、ドドン! って当てるんだって!!」

 うん、さっぱり分からない。レナさんはどうも感覚でモノを言いうタイプらしく、他の三人が知的な魔女さんなのに比して、どうも肉体派なイメージが強いなぁこのヒト。


「ささ、戦いに備えてたんと召し上がれ」

 ルルーさんは得意の料理を次々と出してくれる。なんでもあのゴレムステーキも若い頃の彼女が編み出した料理魔法で、今のこの国の家庭魔法の第一人者だそうだ。

 見た目も言動もとても穏やかで、まるで古い絵本に出て来る「おばちゃん」や「おばあちゃん」のイメージがある。世界に魔力が溢れる以前の絵本の話だけど。


 で、ミールさんは空瓶でジャグリングしながら、ステージで踊る男衆にピーピーイェイイェイと黄色い声援と投げキッスを送っている……ホントにエキセントリックな人だなぁ、お酒が入ってるのもあるんだろうけど。

 で、隣のダリルさんはと言うと、別段気にする風でも無く、そんな彼女をにこやかに眺めている。上位魔女なら一妻多夫制が当たり前なお国柄だけに、今ぐらい他の男に目が行っても許せるのだろうか。


 ちなみに家主のリリアス君はと言うと、特にハメを外す事もなくルルーさんやダリルさん、ミールさんやレナさんにも積極的に話題を振っている。その内容は主に機械帝国との戦争や、国内の秩序の在り方、そして将来に向けてのプラン等だった。


 見た目一番若い、せいぜい13歳くらいのが、四聖魔女で一番まともにこの国を憂いてるっていうのはどうなんだろうか……男なのに。


「そう言えば、女王様ってどういう方なんですか?」

 国を憂うで思い出したけど、彼女たちもこの国のトップじゃないんだ。ここが『王国』である以上、その全権はあの女王リネルト・セリカ様にあるはずだ。

 魔法王国の総意が彼女の判断一つで決まるなら、この国を調査、体験するために来た僕としては、そのへん聞いておきたい所だ。


「あー、未だクソ真面目に帝国滅ぼせー、とか言ってるな」

 レナさんの第一声に、え? と思わず首を傾げる。いかにもイケイケで帝国兵倒せー、なノリに見える彼女にしては意外な意見だ。


「仕方ないでしょう。我が魔法王国がよって立つのは、自然への調和と帝国の否定なんですから」

「そーですね。国民のもうほとんどが戦争に無関心ですが、女王様は立場的に、どうしてもねぇ」


 続いてのルルーさん、そしてミールさんの言葉にさらに驚かされる。この国の魔女さん達は……

「戦争に、無関心なんですか?」


「そうねぇ。貴方は若いから知らないでしょうけど、この国で生きてる大人の魔女たちは、特に機械帝国を倒さなくてもいいって思ってる人が大半なのよね」

「女性って、なんか現状維持に甘える体質なんですよ。女王様も必死に焚き付けてるんですけどねぇ」

「てかお前も女だろ、ぎゃっはっは。お前と女王は真面目だなぁ」


 驚きの事実だった。色々と話を聞くに、この国で機械帝国に脅威と敵意を抱いてるのは、主に魔法学校で育てられた若い世代が中心で、ある程度大人になるとそれほど戦いにも、また自然との調和にも積極的じゃないというのだ。

 機械帝国じゃ、辺境の庶民からして魔女を恐れ、勝利を切実に願っているというのに。


 そうだ。この魔法王国に入ってからずっと感じていた違和感。それは帝国に比べてどこか無気力無関心なイメージがあり、日々をそれなりに生きていければいいという空気があった。欲求と言うか積極的なのは衣食住と、あと男性に対する欲くらいのものだ。


「みんな自分は自分、と思ってるからねぇ」

「アタイだってそうさ。例え帝国に負けても、どっかで気楽にやるつもりだし」


 あ、そうか! と納得する。帝国国民と違い、王国の女性は全員が魔女、つまり魔法を仕えて、帝国の侵攻に対してのを自前で持ってるんだ。最悪空を飛んで逃げれば、よほど運が悪くない限り逃げ延びられるだろう。だからある程度『なるようになれ』という風潮があるのか。


 その点、機械帝国は違う。庶民が銃や武器を持ってるわけじゃなく、魔女が侵攻して来たらもう抵抗の手段が無い。だから厭戦気分にならずに戦い続けることが出来てるんだ。


 もしかしたら、その考えの違いを上手く生かせば……


「さって、宴もたけなわだし、あたしゃそろそろお楽しみにするよ。リリアス、男借りるぜ~」

 そう言って二人の使用人を両脇に抱えて部屋を出て行くレナさん。それに続いてルルーさんも、後ろに控えている男の子ふたりに、「じゃあおいでなさい」と笑いかけ、別の部屋へと消えて行く。


 うわぁ……そういえばこの国じゃ男性は女性が楽しむために存在するって事だけど、二人はなのか。なんか男としてイヤな光景だなぁ。


「じゃあ私とダリルはお暇するわ。カリナ、また明日」

「あ、はい」

 挨拶を交わして玄関に向かうミールさんとダリルさん。彼女の頬は酔っている以外の原因で赤く染まっており、その目も潤んでいる。あっちもこれからお楽しみなのか……まぁあっちは夫婦だからいいんだろうけど。



「じゃあ、ナーナ、お願い」

「うん」

 食卓に残ったリリアス君が自分のナーナにそう告げると、そのナーナの体がスゥッ、と青く光り始めた。

「え、あの……」


「大丈夫。君に害は無いよ」

 ちょっとドヤ顔なリリアス君が、さらに言葉を続ける。

「レナもルルーも、今日がっかりだろうねー。ま、僕の家の人だから、手を出させるわけにはいかないからね」

「……どういう、こと?」


 確かに、今まさに二人に連れ込まれた男の人たちは貞操の危機だ。その彼らをここから守るって、どういう?


「このナーナの魔力が溢れている時、男性は

「え、えええっ!? それって、何か新しい魔法とか?」


 驚く僕に、リリアス君は静かに首を振って、そして、こう答えた。



「違います……ナーナは、いえ、魔力は……んです」






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