第017話 冷たい瞳の中に

逃げ回っていると1人の男子生徒が見えた。


「止まれ。誰かがいるぞ。」


そう言われて音橋も気付いたらしい。


「どうしますか。相手は1人です。もしかしたらリングを奪えるかもしれませんよ。」

「いや、ここは通りすぎるぞ。」


相手の情報がない限りこちらからわざわざ関わりに行く必要もない。


男子生徒はこちらに話かけてくる。


「こんにちは霧道 歩さん。あなたはリングを奪いにこないんですか?」


何故俺の名前を知っている。

俺はこいつを知らない。


「フフ、あなたは面白いですね。安心してください僕は襲ってきた人間のみ倒していますから。」

「なんだ、霧道君の知り合いなんですか?」

「えぇ。そうとも言えますし、違うとも言えます。」


いや、俺はこいつのことを知らない。恐らく今まで接触したこともないだろう。


「顔に出過ぎですよ霧道さん。知らないのは当たり前ですし、疑問が残るのは当然のことですが。」

「よく顔に出過ぎって言われるんだ。気を付けないといけないな。」


こいつの指には大量のリングが嵌めらている。

恐らく、こいつが倒して手に入れたものだろう。


そこに、俺達を狙っているチームが現れる。


「いたぞ!あいつらだ!」

「2人って聞いていたが、3人いるぞどうする。」

「クラス・フォースの人間だろ。構わず行くぞ!」


「せっかく楽しく話しをしていたのに、残念ですね。少し失礼しますね霧道さん。」


一瞬。こいつは俺から視線を逸らし、敵対している奴らの方を向く。そのあとは何が起こったのか分からなかった。


「”原初の凍氷げんしょ とうひょう 凍結した大地ガイアフロスト”」


いや、理解したくなかった。

辺り一面は一瞬で凍てついき、敵対チームを飲み込む。

その影響で気温がグッと下がったような気がする。


「お待たせしました。自己紹介がまだでしたね。僕は、氷室 祐ひむろ ゆう、クラス・ファーストです。」


クラス・ファーストの奴か。

俺のことを知っていたのも事前に生徒の情報を集めていただけに過ぎないだろう。


ここでようやく、音橋も氷室が只者ではないということ察したようで、警戒し始める。

逆に俺は警戒を解いた。ここで抵抗してたとしても勝てる未来は見えない。


「ところで、氷室お前はなんで1人なんだ?」

「僕達のチームメイトは僕にリングを3つ渡してリタイアしました。リタイアしても最後にチームで持っているリングの数がptらしいので。」

「随分信頼されているんだな。」


実際に俺が同じ立場でもそうしていただろうな。少し羨ましい。


「羨ましいって顔していますね。さすがにptは上げられませんが近くにいますか?お守りぐらいできますよ。」


魅力的な提案だが遠慮しておくことにした。


「悪いな、これから俺達はしないといけないことがあってな。」

「そうでしょうね。少し我儘を言ってみただけですのでお気になさらないでください。では。」


俺達はここで氷室とは別行動をすることになった。氷室が友好的で命拾いした感じだ。

どちらも移動を始めようとしたが、氷室が振り向いて声を掛けてくる。


「今日初めてお会いしましたが、霧道さん面白い人ですね。また、いつかお会いしましょう。」


そういうとゆっくり森の奥に消えていく。


緊張が解けたのか音橋がその場に座りこむ。


「霧道君って本当にランク最下位ですか?あの人とあんなに普通に話せるなんて。」

「友好的だったし、勝負を仕掛けられたらそもそも俺達に勝ち目はないだろ。」


どうやら、音橋が疲労しているので隠れられる場所を探して休もう。


「人数がどんどん少なくなって来ましたね。私達のクラスは何人ほど残っているのですかね。」

「俺達以外全滅かもしれないぞ。来井だってリングを渡したままどこかでやられているこもしれないな。」

「本当にこのただのリングを取り合ってみんな必死ですよ。それに霧道君がいるってだけの理由で狙われますし。」


音橋は3つのリングを眺めながら呟く。

そこには、金、銀、銅しっかりと3つのリングが揃っている。


「やっと見つけたぜ霧道。しっかりリングも持っているようだな。」


1番厄介な奴に見つかってしまった。


「京極か。どうした、俺に何か用。今、余裕がないんだけどな。」

「霧道!今回こそは負けねぇーからな!」


俺達がリングを出した瞬間を見られたらしい。


「どうしますか、霧道君。ここで戦っても不利になるだけですよ。」

「交渉したいのは山々なんだがな。仕掛けてくるようだから逃げる方法は常に探すか。」


そうこうしていると京極チームが勝負を挑んでくる。


「”瞬間移動 シャッフル” リングは貰っていく。リングまで貰って悪いがただの好奇心なんだが俺達と手合わせ願えないか。」


あっという間に音橋の手の中からリングを奪った京極。

そのまま立ち去って欲しかったのだがな。


「随分と俺達を高く評価してくれているな。おだてても何も出ないぞ。」


煙幕を展開しようとした瞬間に京極に奪われてしまう。


「残念だが、お前のパターンは読めているからな。全力でいくぞ。」

「「”瞬間移動 人形猛獣 ビーストロード”」」


ゲートの中から大量の人形が出てくる。しかも、そのゲートを使い生まれる不規則な攻撃。


「とりあえず逃げさせてもらうぞ。”錬金術師 代償の錬成”」


俺は最初に現れたチームを参考に土壁の防御を作りだす。


ガキィーン


しかし、いとも簡単に破壊されてしまう。

急いで盾と短剣を錬成して、音橋にも渡しその場を凌ごうとする。

犬飼と京極の連携がうまく、連撃が止むことはなかった。

今までで多くの体力を消費している俺達は長期戦は無理だ。


仕方ないこの手はなるべく使いたくないのだがな。


「待て、待ってくれ。交換条件だ。試験時間も残り少ない。俺達に構っていて時間を使うのはもったいないだろ。ここに銀のリングがあるからそれと引き換えに逃してくれ。」

「渡しにきた途端に俺達を刺そうって計画か?でも、ptがより多く欲しいのも事実だから投げて渡せそれで見逃す。」


意外にも京極は俺の案に乗ってくれるらしい。

残り時間を考えると50ptをもらって他のやつらを狙いにいった方がランクが上がるのは確かだ。

ましてや、クラス最強の京極と多彩な攻撃と向上心を持っている犬飼なら尚更である。


「音橋、悪いがリングを渡すぞ。」

「そうですね。10ptでもいいので他の欠けているチームを探してptを狙いましょう。」


音橋も了解してくれたのでリングを投げて渡す、ついでにおまけを付けてな。


「やっぱり何かしてくるのかよ。”瞬間移動 ゲート”」


器用に俺の投擲物だけを後ろに弾く。

だけどその距離なら食らうぞ。


〜〜〜♪


「”虹色の音色 スタンメドレー”決まりました!」


俺が投げたのは予め音橋の能力を録音していたボイスレコーダー。

チャンスを逃さず俺はフラッシュバンを投げる。



「やっと動けるようになったぜ。あいつらリングを奪いにくるかと思ったけど逃げていったな京極。」

「あぁ。素直に渡せば本当に何もしなかったんだけどな。まあいい、この調子でリング集めるぞ犬飼。」


◇◆◇


「なんで京極君達のリング奪わなかったんですか。せっかくのチャンスが台無しですよ。」


真剣勝負ではなかったことに音橋は少しご立腹のようだ。


「あそこで無理にリングを奪っても京極達にすぐ捕まって返り討ちになるだけだ。それに俺達のどちらかが倒せれたらこの試験の成功確率がグッと減る。」


ptに目が眩み無闇矢鱈に勝負を仕掛ける奴らもいるがそれで貰えるはずのptを失っては元も子もない話だ。

だからこそ、俺達は生き延びてptを死守する必要がある。


音橋がいなくなってはサポートしてくれる人間がいなくなってしまうので、無駄な戦闘はしない。

最悪、音橋がいなくても俺だけは絶対に生き延びなければならない。


今回の試合が終わるまでは何があってもだ。

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