【英雄採用担当着任編】第14話 決着

大太刀を構えるスターを前に、ゼットフォーは逃げるようにビルの天井に向かって黒い波動を撃ち放つと、一気に跳躍した。

ビルに開いた大穴からスターが上がってくる様子はない。両手を天に掲げ、球状のエネルギーを形成する。それを濃縮し威力を高めるように、そして攻撃範囲を広げるように拡張していく。


まるで黒い太陽だった。


生成に要した時間は、およそ5秒。20mほどまで膨れ上がったそれをゼットフォーはビル目掛けて解き放つ。ゆっくりと、破壊を楽しむような速度で黒い太陽は落下していく。


しかしビルに直撃する直前、太陽は真っ二つに割れ霧散した。

今この時においてそんな事ができるのは、1人しかいない。


「ほう、さっきのビームより威力はありそうだ。器用なやつめ。技のレパートリーがあるってのは楽しそうだなぁ」


規格外が放った規格外な1撃を、スターは容易く切ったのだ。

ゼットフォーは同じ高さまで跳躍してきたスターから逃げるように高速で横移動を始める。


「ぬ、お前さん羽も翼もないくせにちょろちょろ飛び回るなんてズルいぞ?俺は跳べるが飛べん!まぁ、こうすりゃ似たような動きはできるがな。」


重力に従うように、スターが落下の予兆を見せた時だった。

手のひらを開くと、大気を叩くように手を動かした。

次の瞬間、落雷のような音が響くとスターはゼットフォーに向かって一気に空を移動した。衝撃波を利用したそれは、イカれた芸当だった。


ゼットフォーは追従を交わすように急旋回を繰り返す。

だが、スターはひたすら大気を叩きつけ高度を合わせつつ、執拗に後をつけてくる。加えて魔人にとって最悪なのは、己よりも早いということだ。


「空の鬼ごっこってのもいいもんだなぁ!廻にも今度教えてやらねばならんな!ははははは!」


魔人は空中に機雷を撒くように凝縮したエネルギーを散布する。

スターはそれをすぐさま一閃すると爆発が起こる。なんの問題もない、そんな表情を浮かべながら。


側から見れば、戦闘機がドッグファイトをしているような光景だっただろう。


「・・・もう終わりにしていいか?廻を起こしてちょっと話したいんだ。


スターが目を瞑り、刀を両手で振り上げる。その姿勢を保ったまま、重力に身を委ね落下していき、魔人との距離はどんどん離れていった。

刀は本来、間合いに入らなければ相手を切断することなどできない。

だが使い手次第では、そんな自明の事を、真理を捻じ曲げることもできる。

目を見開き、刀を振り下ろす。空を切るような一見すると唯の素振り。


「あばよ、ゼットフォー」


地面に着地したスターが空を見上げる。

視界の先、真っ二つになった魔人が地に向かって堕ちていった。





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