【英雄採用担当着任編】第13話 再々会
「ッぐおおおおおおおおおおああああ!!!!!!!!」
タマヤが雄叫びを上げながら、竜の火炎から芳賀を守った時のように光の障壁でゼットフォーの攻撃を受け止める。障壁の大きさに収まり切らない黒色のエネルギーが頭上を真横を抜けていく。
「後ろにくっついてろ小僧!!!触れたら死ぬぞ!!!!!」
「は、はい!」
障壁の影に入るように芳賀はタマヤに身を近づける。
凄まじいエネルギーの奔流によって、後方は滅茶苦茶な事になっている。
竜の炎が如何に生やさしいものだったのか思い知らされた。
タマヤが必死に喰らいつく。障壁にヒビが入れば即時修復し、ただ耐え忍ぶ。タマヤも大概怪物なのかもしれない。【Z】の名を冠する者の攻撃を受け切る堅牢な守りは並大抵の英雄では持ち得ないだろう。
いつまで続くとも知れない障壁の展開と修復にタマヤも疲れを見せ始めていた。相手が攻撃を止めるか、タマヤが折れるか。やがて拮抗する綱引のような戦いは終わりを迎えようとする。
「こ、攻撃弱まってませんか!?」
「あぁ、出力が落ちている!もう少しだ」
本当にもう少しだったのかもしれない。だが、それが当てはまるのは普通の魔人であればこそ。規格外には規格外の理由がある。
「野郎!また出力上げてきやがった!クソ、無尽蔵か!」
ここまでの高エネルギーを放出し続けても尚ゼットフォーの攻撃は止まらない。それどころか威力がどんどんと増幅していく。障壁に亀裂の入るスピードが加速する。
断裂、修復。崩壊、修復。欠如、修復。陥没、修復。
破壊と再生を繰り返すタマヤの障壁はついに限界を迎える。
「小僧、伏せ——!」
闇が芳賀とタマヤを飲み込んだ。決壊したダムのようにゼットフォーの攻撃が街に広がっていく。形容するなら正に大災害だった。
手応えを感じたのかゼットフォーは攻撃を休止する。
対象の殲滅したと思ったのだろう。その時ゼットフォーの眉間が僅かに動いた。
唯一抉れることの無かった地面の上、芳賀とタマヤが五体満足で倒れている。
タマヤは最後の力を振り絞り芳賀を守り切ったのである。
「・・・こ、小僧、オイ小僧!」
かろうじて意識を保っているタマヤは芳賀に呼びかける。だが、反応はなかった。完全に気を失っているようだ。
抱えて逃げようにも体が動かない。しかしここで彼を死なせてはいけない。
今死ぬべき人間ではないとタマヤの直感が告げていた。
芳賀の手を引きながら地面を這う。まだ死んでいない。最後まで諦めない。
生き残ることが例え糸を手繰り寄せるような可能性だったとしても。
アイツが来れば。
「——ッ!何しやが」
無慈悲にも淡い期待は打ち砕かれた。
間合いを一瞬で詰めたゼットフォーがタマヤの首を掴み持ち上げる。
目が合った。魔神はタマヤをじっと見つめている。何を考えているのか全くわからない無機質な表情を浮かべながら。
「——◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️?」
タマヤは思わず目を見開いた。
魔人が憐れむような表情を覗かせながら口を開き、言葉を発したのだ。
「・・・お前らの言語か?何、言ってるかわかんねえよ」
そう言いながらタマヤは唾を吐き捨てた。
ゼットフォーは瞳を閉じると、何かを諦めたかのようにタマヤを地面へと叩きつけた。
「——がッ」
あまりの衝撃に景色が歪む。ぼやける視界に自分が吐き出したであろう血が映る。
そこでタマヤの意識は完全に途切れた。
続いてゼットフォーは気絶している芳賀へと近づいていった。
手を突き出すと闇がうねりを上げながら得物を形成する。空間から漆黒の刀身、品格のある細身の剣が姿を現した。
作り上げた得物の先端で芳賀の胸を貫こうとした時だった。
「!!!?」
芳賀のポケットがら突如溢れんばかりの光が溢れ出る。
眩く青く燦爛と輝く光は芳賀を包み込みむ。
魔族の本能だろうか、ゼットフォーは大きく後退した。
それは正解だったのかもしれない。
倒れる芳賀の周囲に光の粒子が集まっていく。
光は徐々に人のカタチを成していく。ゼットフォーはすかさずタマヤの障壁を破った攻撃を繰り出した。これまでない程の威力。おそらく全力だろう。
魔人はそうするべきだと判断した。そうでもしなければ立場が逆転し得るとと考えたからだ。
突如、闇を一刀するような光が立ち上がる。ゼットフォーの視線の先、
何処から現れたのか、黒いスーツを身に纏った2人の男と女が佇んでいた。
「——めぐるん!めぐるん!ずっと、ずっと会いたかったよぉおおおおお」
腰まで届く艶やかな黒髪と澄み渡る空のような瞳。女が倒れた芳賀を抱きしめながら号泣していた。
「おうおう、でっかくなりやがって。しかしヒョロイのは相変わらずだなぁオイ。」
太陽のように赤い髪と瞳、タマヤよりも更に一回り大きい男が嬉しそうに芳賀の顔を覗き込む。
「あぁ、この抱き心地、大きくなっても変わらないわぁ。ん・・・ちょっと頭臭うわね、シャンプーしないと。」
「ヴェロ、洗髪より先にやることあんだろう?ほれ、そこにいるアイツ」
「えー。アイツ私大っ嫌い。スター、さっさとやっちゃてよ。私めぐるんの膝枕してるから」
「しゃあねえなぁ。貸し1つだぞ?ちょっくら行ってくるからちゃんとその逞しい太ももで枕するんだな!」
「あははは!ブッ殺すよ?さっさといってらっしゃーい!」
突如現れた2人の人間はゼットフォーを前にして全く緊張感のない様子だった。
それが意味するところは2つ。
相手の実力を測り得ない愚か者であるか、或いは——。
「よぉ、クソ魔人。お前はちっとも変わらねえな?その達観したような目つきも、装飾まみれのその服も。ひょっとするとあれか?同じ服ずっと着てんのか?はははは!物持ちがいいんだか、不潔なんだか、それとも1週間分をローテーションでもしてんのかぁ?」
「!!!!!」
ゼットフォーは驚嘆した。男がいつの間にかゼットフォーの顔を覗き込むような距離にまで近づいていたからだ。そして次の瞬間ゼットフォーは苦悶の表情を浮かべる事になる。
「ほれ、軽く1発。」
男が腹に拳を打ち込むとゼットフォーは音速に近い速度で吹っ飛んでいった。
無人と化した建物をいくつも突き破りながらやがて減速し、壁にめり込む。
魔人は呼吸ができない様子で倒れ込むと吐血を繰り返す。苦しみから解放される間もなく足音が近づいていくる。
「お前さんに子供はいるか?親にとって1番辛えのは子の成長を見れない事なんだよ。時間は巻き戻らねえ。創れたはずの思い出を奪った事を俺達は許さねえ。まぁ廻とまた会えるきっかけを作ってくれた礼に楽に死なせてやるよ。」
男は身の丈あるほどの太刀を取り出す。
「俺はなぁ、殴るより斬る方が得意なんだ。」
一方的な暴力が幕を開けようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます