英雄譚株式会社〜魔族が侵攻する地球で史上最強だった英雄は力を失う。魔族に抗う為選んだ道は英雄採用担当!?

みやびん

【プロローグ-1】圧殺面接

面接。それは誰しもが一度は経験したことのある戦いの舞台だ。

面接官という名のボスが繰り出す質問こうげきに耐えながら、自らの存在価値を示していく。簡単な自己紹介から始まり、志望動機、強み、弱み、など深掘りされて丸裸にされる。小一時間ほどの戦いを終えると、合格なのか不合格なのかどちらにも取れる態度に悶々としながら、「この質問されたってことは合格じゃないか?」と自分を納得させるためネットを徘徊し一喜一憂する。

面接から日が経つにつれて、不安は膨らむ一方だ。

「まだ面接から1日しか経ってないから多分大丈夫」


「——1週間か。いや、まだ分からないぞ。」

「——2週間。流石に長いな。」


この不安は内定を勝ち取るまで残念ながら続くのだ。

勇気を持って告白した結果を焦らされているかのような辛さだろう。


そして、世の中には実に様々な面接官がいる。中でも悪質なのは「圧迫面接」を行うタイプだ。


「で?なんでウチに入りたいの?」

「え、全然何言ってるかわかんないんだけど。」

「弱いんだよね、経験がさ。」

「それってさっき言ってたこととめっちゃ矛盾してない?」


まるで殿様のようにふんぞりかえった態度で候補者を詰めるような面接官と出会ったならその不運を呪うしかないだろう。


だが、世の中にはそれを超える面接もあるのだ。


砂沼 実さぬま みのるです!ほ、本日はよろしくお願いいたします!」

おかっぱでヨレヨレのスーツを着た20代の男が背筋をピンっとしながら椅子に腰掛けていた。まるで監獄のような空間で、囚人の長のような風貌の男が腕組みしながら砂沼と名乗る男を睨みつけていた。

(これ以上面接に落ちたらやばい・・・。なんとしてでも受からないと。怖いけど怯むな・・・というかなんでこんなに睨んでるの?僕なんかした?面接時間も遅れてないし時間ぴったりだし、書類もちゃんと用意したし・・・。あ、圧が強い)


面接官の男が突如書類を机に叩きつける。

「おんどりゃあ◉△×※!!!?!」

面接官の大音声が部屋にけたたましく響く。鼓膜がジンジンと痛むほどの声量だ。


「じじじじじじじ自己紹介しますねええええええええ!!!!!ぼぼぼぼくは砂沼」


「さっき聞いたわボケカスコラァ!!!!!!!!!!!質問に答えんかい耳引きちぎるぞボケナスコラァァァァ!!!!」


(質問!?おんどりゃあしか聞こえなかったよ!てててていうか、これ、あ、圧迫面接だよね!?そうだよね)

冷静になろうとするが面接官の罵詈雑言が思考を妨げる。

あたふたしながらなんとか回答を捻り出そうとする砂沼の頬を何かが横切った。

背後で木製の椅子が粉々になっていた。


「殺す」

「——え?」


面接で聞いたことのない言葉No.1だろう。だが間違いなく面接官はその言葉を放った。


「早よ答えんかいボケコラカスコラおおおおおん!??」

面接官は鼻息が荒くなり、肩を怒らせる。肥大した筋肉がシャツのボタンを弾き飛ばし、砂沼の額に激突した。


(圧迫なんて生やさしいものじゃない・・・こ、これは圧殺面接!!!!!!!)


「本日はありがとうございましたあああああああ!」


「待たんかいボケコラあああああ!!!」


砂沼は人生史上最も早い一礼をすると、全速力で部屋を飛び出していった。

だが面接官が追いかけてくる。まるで怪獣だ。地面を叩き割るんじゃないかぐらいの勢いで迫ってくる。


「おおおおおお見送りでけけけけ結構です!!!」


「お前が決めることじゃねええんだよ!!!ぶっ飛ばすぞおおおお!!!」


「なんで!?」


捕まったら多分本当に死ぬ。そう予感した砂沼はひたすら走った。


「おうおうおういい走りっぷりじゃねえかよおおおお!?強みは逃げ足ってか!?」

「ひっ!?」

面接官は並走するように砂沼をつけてくる。あぁ、面接中に走るなんて想像もしなかった。目の前に階段がある。砂沼は思い切って飛び越えた。

(着地したら右!着地したら右!)

「がははははは勢いあるな小僧!!!!!」

砂沼のさらに上を面接官が舞っていた。

「ぶはははははは!貴様が弊社に志望したりゆう——」

舞いながら質問を繰り広げようとする面接官は窓に突っ込み、ガラスを突き破って外に放り出された。

呆気に取られている砂沼もなんとか我に帰り事務所を全力で抜ける。


「ありがとうございましたーーー!」

受付のお姉さんにお礼を言いながらビルを出ると、息が完全に切れるまで走り続けた。面接官が追いかけてこないはるか地平線の彼方を目指して。


「はぁはぁ・・・オエッ・・・ああああああ次の面接もう行きたくないよぉ・・・。」


地面にぺたりと座り込み息を整える。だが砂沼の戦いはまだ終わらない。

鞄からスケジュール帳取り出し予定を確認する。


【英雄譚株式会社 1次面接 14:00~15:00】


「・・・ここの所長も怖いって噂だよなぁ。嫌だな。。。ああ、面接なんてクソくらえだ・・・。」


小石を蹴飛ばすと、絶妙な反射で砂沼の額へとぶつかった。

この不幸な男は後にとして、大きな争いへと巻き込まれていく事をまだ知らない。



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