【英雄採用担当着任編】第5話 英雄

「ナビ、付近の戦況は?」

「ちょっと待ってね・・・!ここから300m先、複数の竜種との戦闘が発生してるわ。スーパーの裏手らへんね。MAPデータ作成完了!閲覧どーぞ!」


竜種。危険性は魔族の中でも高い。堅牢な鱗を纏い銃などの近代兵器で傷をつけることが難しい種も存在する。一瞬の油断が命取りになる。骸など非にならないほどの脅威だ。目的地に近づくにつれ、戦闘音らしきものが大きくなってきた。建物の隙間に身を隠しながら徐々に近づいていく。

するとおぞましい咆哮がはっきりと聞こえてきた。おそらく竜のそれだろうか。直ぐにその声の主がその姿を現した。全長10mほどの化け物が、地面をトカゲのように這いつつ火炎を吐き散らしている。全身を緑色の鱗で覆い、翼を広げながら己の力を誇示するように、文明を破壊する息吹で街を黒く赤く染め上げていく。


「おいコラテメェ!無駄に街を焼くんじゃねえぞクソが!!!!!」


そんな破壊の象徴たる竜に全く怯むことなく、一人の男が身一つで近づいている。

生物的強者と弱者。ただそれを決めるだけの出会いだった。

竜は男を睨むと咆哮で威嚇する。同時に強風が吹き、停車中の車が横転した。

しかし、その男は動じることなく、歩み続ける。


「ハッ!ちゃんと歯を磨いたのか?もうちょい口臭に気を使えよ、雌ドラゴンにモテねえぞ。」


男は人間を軽く丸呑みできるほど大口を開けた竜へと一気に距離を詰める。

だが近づくや否や、竜が再び業火を吐き出すと、男は爆炎に飲み込まれていった。


「——死んだね。」


その様子を見て芳賀はぼそりと呟いた。その言葉が意味するのはだと言うことだ。


突如、爆炎から巨大な氷柱が地面から突き出すように顕現する。打ち消された炎の中には無傷の男が立っていた。先程まで熱波に覆われていた空間が冷気に包まれる。氷の粒子が空中を舞い、幻想的な情景を創造する。

「全然足りねえよ、お前程度の火で俺を焦がそうなんて無理無理ッ!」

男が拳を突き出すと同時に氷柱が形成される。明確な殺意を持って氷柱の先端が竜の顎から脳天までを貫く。悲痛な慟哭を響かせるまもなく、人類の脅威は瞬く間に絶命した。


「一撃一撃。うぅー寒ッ。オイ聞こえるか、一体倒したぞ。脅威的には体感B+ぐらいだな。今から東側のサポートに行く。俺の分残しておけよ!」


男は通信を終えると竜の亡骸に目もくれず、その場を後にした。

紛れもない、彼は人智を超えた力を操る対魔族戦における要。人類の希望。

力を持たざる者に手を差し伸べ、安寧を守るもの。


——即ち、英雄である。


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