【英雄採用担当着任編】第4話 相克
「マスター!起きて!起きて!——衝撃吸収機構の稼働率93%、脚部に軽度の打撲。脳への損傷なし、骨折等の重度損壊なし、バイタルサイン安定。良かった!ねえ!起きてってば!」
建設途中で伽藍堂とした無機質なビルの床で仰向けになりながら芳賀は気を失っていた。ナビの必死の呼びかけに、徐々に意識が回復し、胴体をゆっくりと起こす。
辺りには衝突して砕け散った窓ガラスの破片が散乱していた。
「————ぼっちゃまだったり、マスターだったり、ご主人様だったり呼び名に統一性ないよね。ああ、マジで死ぬかと思った。普通あんなに飛ぶ??てか窓じゃなかったら本当に死んでたよね俺」
「いっつも迂回せずに突っ込むからでしょ!馬鹿!」
「ははは、ごめんて。それより状況は?」
「魔紋から出てきた魔族と既に戦闘状態に入ってるみたい。飛竜種、骸形、昆虫種、ざっとその3種よ。概ね事前予測通りのレートみたい。」
「OK。よし、俺も行かないと・・・。うわぁ最悪だ」
身一つで魔族に挑むのは自殺行為だ。だが、背負っていたケースは大破し中にある武器も無事ではなかった。
「レールガンダメっぽい。近距離戦嫌だなぁ。お、ブレードはいけるね。あとは手榴弾はどこに———あやべ。ピン抜けてない!?」
「あと5秒で爆発す———」
ナビが言うと同時に芳賀はダッシュしていた。階段を降りたその刹那、
手榴弾が爆発し強烈な風圧が芳賀を襲う。
「うおおおおおお死ぬ死ぬ死ぬ!」
階段を派手に転げ落ち、天井を仰ぎ見ていると爆発で破損したのだろうか、ヒビが徐々に広がるとコンクリートの塊が頭上付近に落下してきた。あわや顔面直撃といったところだ。
「———もう帰ろうかな。」
「はぁ・・・全部自業自得じゃないの。」
折れそうになる心に鞭を打って、芳賀はビルの階段を駆け下り市街へと出た。
魔族の侵攻に備え、住民達が避難したが故に、ゴーストタウンのように静まり返っていた。時折獣のような慟哭、爆発音や衝突音、肉を断ち切るような音が聞こえてくる。英雄と魔族の衝突が始まったのだろう。狩るか狩られるか。そのシンプルな舞台を最大限警戒しながら芳賀は突き進む。
「10m先、一軒家の曲がり角に骸形の反応が2体。気をつけて!」
建物の影に身を隠し、様子を伺う。確かに2体、成人男性ほどの背丈の異形の骸、人骨に似ているようで似つかない歪な姿の魔が周囲を探索していた。芳賀は一軒家の壁面を伝い、屋上へ身を乗り出し、標的を見下ろす。まだこちらには気がついていないようだ。確実に急所を貫く。人間と魔族の幾重にもわたる相克、その過程において、人間も知恵を得たのだ。どう戦えば相手の命を奪うことができるのか、その術を。
呼吸を整え芳賀は腰の得物に手を伸ばす。刹那、跳躍をしながら柄を強く握り締める。燦爛と輝く焔が刀身を徐々に形成する。1000度を超える熱量を帯びたそれは魔族とて容易く切り刻む。哨戒を続ける骸は違和感を覚えた。視界が地面に近いところにまで下がっている事に。芳賀による一閃が2体の魔族の胴と頭を切り離していたのだ。
「よっしゃ!上手く行った———ってうああああ」
骸の胴体が最後の力を振り絞り、芳賀の足を掴んで持ち上げる。宙に浮いた芳賀は一瞬動揺するが、すかさず骸の手を切り落とす。地面に背中を打つように落下したあと、足から上を何度も切りつけてバラバラにした。
骸は完全に沈黙する。
「・・・イタタタ。カッコ良く締まらないぁ。」
そう言いながら立ち上がり魔族の亡骸を見つめる。
「・・・何に使うんだよ。ほんと」
骸の略奪品だろうか。切り離された手が小型の炊飯器を掴んでいた。
芳賀は骸の残骸を拾い上げ、小型のケースに格納する。
「ナビ、分析頼む。次は飛龍の鱗でも取りに行きますかね!」
芳賀は幾度にもわたって戦地へと飛び込み、魔族の骸を収集し続けている。
全ては家族を取り戻すために。
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