ヨークシャーテリアの住むメープル農場第1話
@peacetohanage
第1話
3月の朝、まだ雪のカーペットが辺りを埋め尽くす頃、メープル農場に住む一匹のヨークシャーテリアが、大きなバケツを持ち出してせっせと仕事をしていました。
何を隠そうこのヨークシャーテリアこそ、メープル農場の主人なのです。
まだ吐く息は白く、まるで羊毛の様にもくもくと霧散をしました。
「さて今日から20日間、沢山のメープルウォーターを採取しなくちゃな!そうしてメープルシロップや、メープルスプレッドや、メープルシュガーを作らなければならない。今年も一仕事だぞ?」
ヨークシャーテリアのバケツが、雪解け水に似たメープルウォーターで一杯になる頃、メープル農場を訪れる者の姿がありました。
一匹のリスです。
リスは白い枝先をちょろちょろ渡って、真っ逆様にメープルの幹を駆け降りるなり、ちょうどヨークシャーテリアの目前に着地をしました。
「おや?リスさん。今日も精が出ますな?私は今年もメープル作りの真っ最中なのです。あー忙しい!」
「おはようございます!実は頼みがあってやって来ました」
「さて、それはどんな頼みかな?」
ヨークシャーテリアはバケツを持ち上げました。
そうして話の最中であるにも関わらず、ロッジに向かってさくさくと歩き出します。
リスもちょろちょろとその後を追い掛けました。
「あなたの出来立てのメープルシロップを、少しだけリス一人分だけ分けてください!」
「何と!それは出来ない。残念ながら…」
リスは思わず立ち止まってしまいます。
「何故です?たったリス1人分ですよ!良いじゃないですか」
「まだメープルウォーターを煮詰めてシロップを作っていないのだよ。今日はメープルウォーターばかりを採取する予定なのさ」
「それは困ります!待ちに待ったメープルシロップですよ?最近はメープルシロップが待ち遠しくて、夜もおちおち眠れないのです。今日だって一体全体寝付けるかどうか?」
「それは困ったな!今すぐどうにかしなければ…。メープルシロップはまだ無いけれど、このメープルウォーターで良ければ、好きなだけたんとお飲みなさい」
そう言って、ヨークシャーテリアがついに足を止めました。
そうして大きなバケツを地面に置くなり、リスを手招きします。
リスはちょろちょろと駆けて行って、バケツのフチまであっと言う間に上り詰めました。
「良い香りだ!匂いはまるでメープルシロップの様」
「味はシロップより薄いが、勿論ミネラルは沢山含まれているよ」
「それじゃ、いただきまーす!」
リスはメープルウォーターに口を付けると、ごくごくとまるで砂漠のラクダがオアシスを見つけた時の様に一気に飲みました。
次に顔を上げた時には、すっかりと元気に満ち溢れています。
「わぁ!美味しい。やっぱり甘さは足りないけれど、これはこれで飲みやすいぞ。大好きなお菓子とぴったし合いそうだ」
それを聞いたヨークシャーテリアも、すっかりと満ち足りた表情になりました。
「良かった、良かった!どうだい?まだ飲むかい?」
「いいえ、もう結構です!今ので充分です。また明日もメープルウォーターを飲みに来ても良いですか?」
「勿論だとも。いつでも飲みに来なさい。そうだ、メープルシロップを作ったらすぐに渡すからね」
「ありがとう!ヨークシャーテリアさん。やっと今日はぐっすりと眠れそうだ」
こうして2人が互いに手を振り合って別れた後、ヨークシャーテリアは再びメープルウォーターを採取しに、ロッジからバケツを持ってさくさく向かいました。
まだまだメープルツリーからは雪解け水が溢れて来るからなのです。
春の花が咲く頃には、メープルウォーターの採取が無事に終わっている頃でしょうか?
おわり
ヨークシャーテリアの住むメープル農場第1話 @peacetohanage
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