第23話

 凄まじい音と煙を上げて目前の建物が崩壊した。

 その様子を見て、瀬戸は高笑いをする。


「ハーッハッハッハ! バカな奴だ! 足手纏いを助けたせいで死ぬなんてな!」


 あまり手を煩わせることなく殺せたことに瀬戸の機嫌は良い。

 さすがに『勇者』といえど、あれほど巨大な瓦礫に埋もれてしまえば生きてはいない。


(……どんな能力を持ってたのか分からないが、まあいい。不気味な奴はさっさと殺すに限るしな)


 基本的に瀬戸はそういう警戒心の強い人種だった。彼が初めて犯罪を犯したのは高校二年生の頃。自身の見た目を最大限に活用して、いろんな女を利用し欲を満たしてきた。


 だがある日、詐欺罪で逮捕され、少年院に入れられることになったのである。そこで反省していたなら、今の瀬戸はいないだろう。


 しかし、すでに瀬戸は女を征服する快感に溺れてしまっており、少年院を出てからも、悪い連中と付き合い、様々な悪行に手を染めていった。用意周到な彼は、警察に捕まらずに、次々と女性を騙していく。


 それでも彼もまた人間であり、どうしても綻びは出てくる。ついつい、警戒心を緩めてしまったことから、とうとう結婚詐欺がバレてしまったのだ。結果、その女性を衝動的に殺した。


 身勝手な殺人に加え、詐欺など様々な余罪を考慮し、裁判では無期懲役の刑に処せられた。


 警戒心の緩さから失敗した瀬戸は、次からはそんな失敗などしないように、自身が手を下す事柄に関しては手を抜くようなことはしなかった。


 十束に対しても、最初は彼が小磯を倒した時は焦りを覚えたが、すぐに冷静さを取り戻して、敵を殺すことだけに集中した。


 相手に力を出させずに、こちらは全力を以て潰す。その一心で攻撃を繰り出したのだ。だが、十束の不気味な力のせいか、瀬戸の攻撃は空を切った。

 まさか攻撃が通じないなどとは考えられなかったので、ここは一旦退却した方が良いと思った矢先、十束は愚かにも瀬戸に背を向けた。


 要救助者を発見したのか、偽善を働かせ、そいつを救助しに行ったのである。瀬戸は今のうちに逃げるかと考慮したが、状況が瀬戸を味方した。

 今すぐにも崩れそうな瓦礫の下へ、わざわざ十束が潜り込んでくれたのだ。これなら楽に殺せると踏み、結果、その思惑は見事に達成できた。


「クク、ざまあないねぇ。女なんて利用してなんぼだろうが。助けて自分が死んでるようじゃ、アイツも大したことのない雑魚だったわけだ」


 警戒心の無さ故に、考えもなしに突っ込んで小磯は負けた。そして、十束もまた同じように考えなしに女を助けようとして巻き込まれた。

 瀬戸は、遺体となった小磯に冷たい眼差しをぶつける。


「油断は大敵って教えてやったのにな……バカな奴だ。それにあの刀の奴も……愚かすぎる」


 瀬戸は小磯から瓦礫場へと一瞥すると、別の戦場へと向かうべく踵を返す。


 ――――ズシュゥッ!


「――っ!? なっ……んで……っ!?」


 愕然とする瀬戸は、突然走った胸の激痛に困惑し、確認してさらに目を丸くする。

 何故なら、そこから見たことのあるような刀身が突き出ていたからだ。


「…………油断は大敵、だろ?」


 背後から聞こえてきたその声に、瀬戸は身体を震わせる。


「お、お、お前ぇ…………生ぎで……がふっ!?」


 そこにいたのは、瓦礫の下敷きになったと目されていた十束であった。



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