パスティア王国へ
フィーで高速移動できるため、一旦すぐ近くにある伯爵領の都市へ逃げ込むことにした。聖獣を解放したせいで宮殿が見事に崩れ悲惨な状況になっているからだ。責任からは逃げるに限る。
「聖獣といってもユニコーンだったんだがな。力はさほどでもない。しかし、角が欲しかったらしく何度も切り落とされていた」
「ああ、ユニコーンは角が薬の材料になりますからね」
「俺が精霊力を使って新しい立派な角を形作ってやったら、黒いユニコーンに変化しちまったな」
「闇堕ちしてるじゃないですか。そりゃあ宮殿も破壊しますわ。恨みがありますからね」
到着した伯爵領では狼の化け物が出たと騒ぎになったが、冒険者ギルドの私に対する特記事項を見て、衛兵が安心させて回ったようだ。
かなり混乱していたので今後はちょっと遠くへ止めよう。
「今回は私とクロエさんを乗せるためにだいぶ大きかったですからねえ」
「ワンワン! グルルルルル」
今は都市の内部にいるのでフィーは黄金色の大型犬になっている。さすがに喋れないのでリアクションで意思を伝えようとしているな。
「今度はフライで飛びますから。許してください」
「フゥー! フゥー!」
「おいで、フィー。撫でてあげる」
「ワンワン! ハッハッハ」
クロエさんに撫でられてうっとしているフィー。
「はい、イチゴベリースペシャルパフェの方ー」
「はいはい! 私私! うひょーソースがおいしそー!」
そう、我々は喫茶店の前にある席でくつろいでいるのだ。
ついでに密談もしている。
「で、次どこの国へ行くわけ?東はブルンツ勢力が完全に封鎖してるんでしょ」
「ああ、東は、東の世界樹から南の海岸線までブルンツ系統の勢力図だ。さすがにいけねえな。西は、というと」
「北から順にパスティア王国、ソラリス王国、トルセン共和国、ですね。凄いですねこの地図。かなり正確なようです」
「うちの都市製ですからね。頻繁に変化するので国境線は不正確です。で、その三カ国で一番温和な国はどれなんですか? ここまで来ればブルンツの影響はありませんね。アガトーとの軋轢ならありそうですが」
「私の知識だと、この三カ国はパレル……ティア? だったかな。ナントカ同盟を結んでいて、アガトー帝国と、対立ではないんですけど、渡り合っているとか」
ソフィアが手を上げる。
「どうしました、ソフィア」
「その三カ国が同盟を結んでいるなら同じような扱いよね。それなら、パスティア王国しかないわね。妖精に祝福された大国で、妖精と共生している国なの。妖精女王である私がいれば何の問題もなく亡命させてくれるわよ」
「え、じゃあパスティアに行きましょうよ! もう決まりじゃないですか!」
「そうですね、パスティア王国へまいりましょう」
今度は夜間に小さくなって飛ぶ。方位磁石スキル『コンパス』を使って北西方面へと向かう。
宿場町から外れなければ大凡大丈夫だろう。
途中、崖崩れがあった。
「道をふさいでいますね。土をどかすのを手伝いましょう」
「お人好しねえ。まあいいわ。やりましょう、荷馬車とか通れないしね」
広範囲にエネルギーを発射するスキル『エーテル・バースト』を使い、大雑把に土を消し飛ばす。攻撃系のスキルはこういうときにも使えて便利だなあ。
大雑把に片付けた後は、丁寧に土を排除していく。
「大きなストーンゴーレムさん、お願い!」
二メロスくらいある、大きなストーンゴーレムが出現した。
「訓練してるな、クロエ。特に岩も無いのにこの大きさのストーンゴーレムを出すとは」
「訓練してます。ソフィアさんと契約しているだけじゃやはり物足りないので」
「普通私を呼べるだけで十分なのにねえ。私強い子大好き!」
「私も妖精女王大好きです!」
クウゥゥン。
などと和気あいあいとしながら土を片付けていく。
途中交易隊が通りがかったので手伝って貰ったりなどした。
「よし、こんなもんでしょう。あとは崖崩れを起こした斜面を固めるだけですね」
「はいはーい、私がやるわ。整形魔法サージェリー、固定魔法コーティング!」
整形魔法で斜面が綺麗に整えられ、それを固定魔法で固める。固定魔法がいつまで持つかわからないけど、斜面から水が抜けるまでは持つのでしょう。
「これでいいな。いやー暇だった。戦闘特化だとやることが無い」
「ずっと私のお尻を見てましたね、フィーさん。そういうことすると女の子が泣いちゃいますよ」
「いや見てない見てない。そんなことしてないしてない」
「ふーん、ならいいんですけど。精霊に聞いてみましょうか、私だってそれくらいは出来ますよ?」
「すみません目で追ってました」
このエロいぬー! とマジカルハンマーが投げ飛ばされ、キャウーンと鳴くフィーであった。ま、魅力的なのは認めますけどね。
移動して宿場町へ到着。崖崩れのことを報告しておいた。
「それでエド、今回はどんな報酬を得たんだ?」
「宿場町から少額のお金、ですね」
「賢者さまって何かを手伝ったりお救いになる際に報酬を頂くことが多いですよね、なぜなんです?」
「それはですね――」
報酬を貰っておけば貸し借りは無くなるだろうとおもうのです。
私は賢者で、私が求めているのは誰かを助けることで、感謝の言葉じゃないのです。
相手様に貸しを作ってしまったら本当の意味で助けた事にはならないだろうと思います。
「――だから賢者としての務めではない限り、報酬を頂けるのであれば頂いているのですよ」
「ただまあ、賢者の務めがかなり助けることの範囲を覆っているんで、報酬無しが結構多いんだよな。俺が頑張っても無償の愛だったってこともよくある」
「賢者である以上務めは果たさないといけませんからね。これは使命ですから」
次の日また高速移動して西の辺境伯爵領地へ。
ここはソルナリ辺境伯領土ほど発達していない。
馬車も鉄道馬車ではない。
軍事都市ではあって、大規模な兵舎が何棟も建っているのが確認できた。西は西で軋轢があるのだろうか?
貿易も盛んと言うほどではなさそうだ。
西のものなどが商品として並んでいるわけでもない。
昔ながらの農業と畜産業、林業でまかなっているのだろうか、だとしたら重税になる規模の軍隊だな。
特に問題なく国境を通過することが出来たが、辺境伯と一度面会して宮殿のことを聞かれた。
真実を伝えておいた。これで両側から攻められるのか。
帝国は広いし各辺境伯の陣地構築がしっかりしているから、内乱中に敵対国が攻めてきて領土が少し削られるかもしれない。だが、滅亡することはなさそう。
だが、今の皇帝陛下はギロチン台かもしれませんね。
パスティア王国に着いた私達。今度はどんな試練が待ち受けているのか、いないのか。まあ、どんなものが来てもクロエさんは守り切る。
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