奇跡の出会いと賢者の旅路~婚約破棄された王女を処刑から助けたんだけど、なにこれ、王女が可愛すぎる。マジかわいい。五千年ぶりに惚れそう~
きつねのなにか
出会いと逃亡編
逃走の始まり
こんな、こんな酷いことがあって良いのか。
私は賢者として世界を旅している者。
賢者様もご一緒にと言うことで、ブルンツ王国第三王子、ゼイグリッド・ネイル・ブルンツ様の結婚式へ招かれた。王の間へと案内された。どんな結婚式かと期待した。
しかし目の前で行われている行為はなんだ。
両腕を後ろ手で縛られ、顔に布が被された女性が面前の前に出てきたかと思ったら、顔が醜い、太っている、虫唾が走る、貴様の国レベルでこのブルンツ王国と結婚できると思ったのか等の罵倒。
そしてその場で婚約破棄。理由は婚前行為をしなかったという些細な物。
国によってはしない国もあるだろうに。
「無様だなクロエ・レイノルズ。蹴り倒しても呻くだけでなにも喋らない」
「酷いこというなゼイグリッド。顔に布をかぶせられ全身を殴打されたのだ、話せるはずもない。そろそろ慈悲を与えてやりなさい」
「わかりましたフィオレンツォ王。それではこの雌豚をこの場で嬲るとしよう!
静まりかえる来客席。
「なんだ、面白くないとでもいうのか? 皆供の諸国を攻め滅ぼしても良いのだが?」
その言葉を聞いて徐々に巻き起こる拍手。呼ばれてここにいるのは属国か。自国に害が出るのが怖いから拍手をしているように見える。
「それでは宴の始まりといこうか! さて、その処女の味、たっぷり堪能してから殺してやろう。婚約破棄は、公開調教の後、極刑がお決まりのコースだ」
ゼイグリッドが 自身のちっさい剣を抜刀し、クロエという者に調教するために突き刺しかかろうとするその寸前。
「待った!」
声と同時に風の塊を発射するスキルである『エアシュート』を放ちゼイグリッドを吹き飛ばす。
つい手を出してしまった。賢者は政治に中立不干渉であれというが、見逃せなかった。
「これはいくら何でもおかしいでしょう。私は結婚式に招待されたはずですが」
「ってぇ……。貴様この俺様にスキルを使ったな! しかも王の前で! 極刑に値する! 殺れ!」
「先に剣を抜いたのは貴方だと思いますが。ちっさい剣をね」
「なんだと貴様!殺せ殺せ殺せ!」
「フィー」
そういってフィーを呼ぶと、首回りが青い、巨大な狼が出現した。
「フィー、私が彼女を助けるまで守っていて下さい。回復スキル『ケア』で済めば良いのですが」
「スキルを使えばお前一人で助けられるだろう」
「フィーがいれば威嚇になるので」
「しょうがねえな」、と言いつつ巨大な咆哮を放つフィー。私達に斬りかかろうとしていた兵士達は一斉に怯む。
何しろ巨大だからだ。
二メロスある私の背丈よりずっと高いところにフィーの背はある。
「なにを怯んでおる、ただの犬ごときに怯むんじゃない!」
果敢に突撃してきた兵士はフィーのサッとした殴りで上半身と下半身が分断されたり、噛みつかれて四肢が欠損したりしている。尻尾をぶつけられ、壁まで吹き飛ばされている兵士もいた。
遊んでいるなあと思いつつ、女性のところへ向かう。会場は既に阿鼻叫喚な状況となっていた。
「大丈夫ですか? 意識はありますか?」
「もうひゅぐ、らふになりゅんでひゅよにぇ……」
「歯が折られてる。残念ながら貴方は賢者エドリック・フキュウハの保護下に入りました。楽に死なせはさせませんよ」
触診すると、体中が骨折していることがわかった。拷問を受けたか。
フィーを自分の元に呼び寄せると、周囲のものにわかるような大きな声で
「この子は今から賢者エドリック・フキュウハの子です。賢者の物です。嫌なら奪い返しなさい」
と宣言した。
「ふざけるな、そいつの自国に攻め入って滅ぼすぞ!」
「やめろゼイグリッド! 賢者とのもめ事経由で戦争を起こすと、賢者一族総動員で国を滅ぼされるぞ。やるならその女を殺さねばならぬ」
「おわかり頂けましたか。それでは、くれぐれもこの娘の母国に何かするような馬鹿な真似はしないように。我々不老族も不毛なことはしたくないのです」
と言って彼女を抱きかかえたままフィーの背に乗り、城から駆けていった。
道中女性がもの凄く呻いていたがしょうがない、あの場所で骨折を治すのはさすがに無理があった。
それでもフィーが猫の形になってくれたおかげで振動は最小限ではあるのだが。まあ、響きますよね。
入り組んだ城下町に入ったところで一度足を止め、女性に深く強い回復効果がある『ミド・リジェネート』のスキルを掛ける。『ハイ・リジェネート』や『フル・リジェネート』まで力を強めると再生が早すぎてかなりの痛みが出る。精神が持たないだろう。
「痛いですが頑張って下さい。皮膚の細かい傷一つなく回復しますから」
「私が、死なないと、ゲホッゲホッ、国が、攻められて」
「早速ですが歯は再生したようですね。今、貴方は賢者である私の保護下に入っています、賢者は保護下の人物を死地に送り出すことは致しません。それに脅してあります、通信通話スキル『メッセージアプリ』で仲間にも連絡しました。あなたが死ななかったせいで国が滅ぼされることはありません」
彼女を抱き抱えながら後ろ手に縛られていた紐をほどき、顔に被さっていた布をとる。
え、綺麗。
金髪に翡翠の目、雪のように白い肌がなんともいえない。肌もつるんぷりんとしている
不覚にも賢者エドリック、あまりの綺麗さに動揺してしまった。まだ六千数百年しか生きていないから修行が足りなかったか。
「綺麗だ……」
「ありがとうございます。私はアルカニア王国の第一王女です。我が国では、ゴホッゴホッ、代々綺麗で優秀な者を性別、階級、関係なく、ゴホッゴホッ、ゲフッ、王室に入れていますので」
「余り喋らないでください。治している最中なので、吐血や嘔吐に繋がってしまいます。でも、ご説明ありがとうございます、素晴らしい家系なのですね」
しかし――。
「――ここまで綺麗な人を見たのは五千年ぶりかもしれません」
つい出た言葉を恥じらうように、彼女は身じろいだ。少しは動けるようになりましたかね。
「小娘には悪いが、痛みが引いてきたならすぐ移動するぞ。追ってが来ないとも限らん。小娘の服も変えたいしな」
「大丈夫です、動けま――でも、死なないと母国が」
「よーしよし、わかったわかった。よし。エド、速度を上げたいから手綱、鞍、鐙の用意を。俺が小娘を乗せて走る。エドは走れ」
わかりました、ということでボディバッグから言われたものを用意。まず鞍だけフィーに取り付けて、そこに少女を乗せる。そしてフィーが巨大化し――。
「ひあぁぁ! 落ちる!」
「しっかり鞍を掴め。これでもゆっくり大きくなってるんだ。デカイ馬より大きくなるからな」
「えぇ、私乗馬の経験なんて」
「俺は馬じゃねえ、馬よりもずっと知能が高い精霊王だ。お前を落とさず走ることなんざ余裕よ。それに本物の馬になるわけじゃない。人を乗せて走るのに最高な形になるんだ」
フィーがこんなに優しく世話をするなんて珍しいですねえ。何か思うところがありそうです。
「フィーは走るの得意ですから。乗っている人が両手を離していても落としませんよ」
「そういうことだ。手綱は保険だ。鐙で俺をしっかり挟めよ。よし、隣の宿場町まで一気に行くぞ」
では隣の宿場町まで行きましょう。宿屋、酒場、冒険者ギルド、ギルド内の人生やり直し支援に金融事業。
彼女が再出発するのに必要な物は何でもある。
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