魔にからかわれし愛する君へ
明日葉ふたば
第1話 魔法の言葉
「全員起立!気を付けっ、礼っっ‼」
「お願いっしますっ!」
ここはノースパドリシア王国に建設されし教育機関。テトラダイス。
建物の外観も内装も名前に恥じぬ正四面体っぷり。もしサイコロとして転がせることが可能であれば、どの面に
そんなこの場所は身体能力、魔法能力を共に備え持つ実力者を養成する学校である。抜きん出た実力を付けさせ、あることを達成させる目的がある。
「この授業では
「はいっ!」
先生の鼓舞により俺達は湧き立ち、団結力が高まり、一層一つになる。
そう。この国ではヘランズと呼ばれる正体不明の結社が頻繁に襲撃しており、手を焼いているのだ。時には有名施設を、時には土地を、時には特定の人物を標的とし、死者が出ることも多々ある。非常に大きな問題だ。
だからこそ俺達の育成が国家指導で行われている。
「それじゃまず手始めに皆の魔法能力をチェックしようかしら。真面目にさえやれば、どれだけ結果が悪くても再試にしたりはしないわ。さっきも言ったけど、ふざけたらしこたま叱るから真面目に取り組みなさい」
いきなり能力を見せろと言われて俺達生徒はざわついた。なにせそんな話聞かされていなかったからだ。
「メルは良いよな。魔法、大得意だろ?」
「その代わり私武術はからっきしだし。レムスだって魔法こそ苦手かもだけど、武術なら誰にも負けないじゃん」
「その点、アルトは良いよなあ。武術も魔法も大得意。隙がないもんな…………一応」
「皆にはできないような超広範囲魔法まで使えるんだもんね…………一応」
「一応一応言うな!」
隣で楽しそうに俺を
「課題はそうね………、初等装飾魔法『フラワーガーデン』でいいわ」
そう告げた先生は俺達生徒を順番に並ばせた。先頭から順にその魔法を放ち始める。
初等装飾魔法『フラワーガーデン』。
詠唱は『咲き誇るは花の庭、
この世界の誰もが知る、最も基礎で最も重要な魔法の一つだ。自分の正面に一平方メートルの花壇を創る魔法である。
一〇人、二〇人とそつなくこなしていき、残るは俺達は最後の三人。順番はレムス、メル、そして俺が終わりを飾る。
二十数個の花壇が広がった校庭を前にレムスが立った。
「この魔法が失敗すればあなたは死ぬ。その気持ちを
「はい」
気合を入れた俺の友人が一歩前に出て詠唱を始める。
『咲き誇るは花の庭、始原の大地を塗り替えよ!』
一クラスは三〇人程。俺達含め二九人の生徒に見守られる中、彼は自信満々に魔法を放った。
スッと吹き抜ける風に髪がパサパサと舞う。
ボフッ!
ガス欠のような音と煙が発生。
そして─────。
風邪に流され徐々に薄れていく煙の揺らめきの中から現れたそれを見る。
小さな花壇ができているどこまでは良かったが、土台である
「クソっ!やっぱうまくいかねえ!」
クラスメイトに笑われながら、彼は俺達の隣に帰還する。
「プフッ、相変わらず下手くそね。良い見世物だったわ」
「メル、後で覚えとけよ……」
そんな彼女が呼ばれるのを見送りながら恨みがましそうな台詞を残していた。
俺とて大っぴらに笑うことこそしなかったが、
今度はメルの番だ。
彼女の
そんな彼女が唱え始める。
『咲き誇るは花の庭、始原の大地を塗り替えよ!』
大地のうねりが聞こえた気がした。
ブロンドの長髪がサラサラと靡く。
ポンッ。
今度はしっかり地に足の着いた音が発生。
そして─────。
華麗なる花が満面に笑んだ、それはそれは見事な花壇が
フフンと自信満々な顔で俺達の元へ戻ってくる。
「どう?レムスとなんて比べるまでもないけどね」
「うるせえなぁ、分かってるよ。お前と肩を並べられるとは思ってねえ」
「私のせいで自信喪失させたのならごめんねー。じゃ、最後はアルトか。頑張って!期待して待ってる」
「俺も期待して待ってる」
「ああ、行ってくるわ」
先生に呼ばれ俺は前に踏み出した。
大地の巡りを感じ、空気の流れを感じ、大きく息を吸って静かに吐く。
その工程を三度繰り返し前を見据える。
「準備は出来たかしら?それじゃ始めなさい」
「はい」
短く応じて俺は右手を前に突き出しながら、腹の底から声を響かせて唱えた。
『咲き誇るは花の庭、始原の大地を塗り替えよ‼』
誰よりも雄々しく、誰よりも激しく、大地を震わす勢いで叫ぶ。
俺の一際大きな声に圧倒されてか、先生も生徒達もおぉと感嘆を漏らしていた。
手応えや良し。
ボンッ!
不抜けた音ではなく、正しく何かが創られた音が発生し、白煙が漂う。
それが空気の対流によって徐々に晴れていく瞬間を見届ける。
その先に─────。
花壇に鼻が咲いていた。
全貌が見えた途端、メルとレムスの大爆笑が聞こえる。
「もう最っ高!ほんっと期待通りで最高だよっ、アルト!お腹痛い‼」
「いつも通りだけどマジで予想がつかねえ。ナイスだぜアルト。お前は期待を裏切らないな」
「二人とも後で裏庭な?」
あまりに奇妙で、あまり不気味なそれにクラスメイトが言葉を失う中、旧知の縁である二人だけは腹を抱えて笑っていた。
いや、まあ馬鹿にしてるわけじゃないのは知ってるからいいんだけどさ……………。
そんな中、この惨状を見たメトラ先生は瞳を閉じ、俺の肩をトントン叩く。
そして同情心丸出しで一言だけ告げた。
「君に幸あれ」
魔にからかわれし愛する君へ 明日葉ふたば @Asitaba-Hutaba
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