第32話 お手本

 私が操作するのを時雨はすぐ横で見つめている。

やばい、めっちゃ恥ずかしい。


 私の方を見ている時雨を気づかれないように一瞬だけ横目で見てみる。

私が横目で確認した瞬間、時雨の目線は下の方に向いていた。

多分時雨は多分クレーンの方ではなく、レバーを操作している私の手を見ているのだろう。


 なんで私の手ばっかり見てるの!?

着眼点バグってるでしょ!


「時雨?」

「はい」

「クレーンの方見てて」

「どうしてですか?」

「……えっと、その……、恥ずかしい。そんなにじっと見られると」

「そうですか、それは申し訳ございません」


 そう言うと時雨は機体の方へ向き直った。

ふう、これで操作に集中でき……。


「え?」

まだアームを下ろす場所を決定していないのに勝手に下りていってしまった。


「なんで?」

私の純粋な疑問が言葉として漏れだした。


「何か誤算でも?」

「……」


 まだ位置を定めていなかったので当然狙いの景品に触れることなくアームは再び上昇していく。


「ああー、もう」

「ちゃんと見て操作してましたか?」


 誰のせいだと思ってるんだよ!

時雨に見つめられて操作に集中できるわけかいでしょ!


「ちょっと集中できてなかった」

「まだ5回残ってますし問題無いと思いますよ」

「……うん、もう1回やってみるね」


 時雨のフォローでメンタルへのダメージを軽減し、再びレバーを操作し始めて2回目のプレイを開始した。


 今回は順調に景品の真上にアームを配置することができた。これなら何とか取れなくても動きはあるかな?


 意を決してアームを下ろした。

開いたアームは景品をとらえて持ち上げた。


「おっ、持ち上がりましたね」

「後は落とさないでくれるといいな」


 そのままアームは景品を掴んだまま最初の場所まで戻ってきた。

これで下の穴に入らなかったら怒るからねと思いながらひたすらアームの動向を見守った。


 アームが開き、景品を下へ落とした。

一瞬穴の縁に引っ掛かってちょっとドキッとしたが、引っ掛かっていない部分の重量に耐えきれずに景品取り出し口へ落ちてきてくれた。


「よーし、取れたよ」

「いいお手本ですね」


「でも、後4回どうしよ」




















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る