第16話 いちごのクレープ

「ははっ、そうですねー」

「あっ、そろそろ30分経つね」

「話に夢中になってると時間はすぐに過ぎ去ってしまいますね」

「すぐに過ぎ去るって言っても話してたの10分ほどだけどね」


 また冷蔵庫を開け、寝かせておいた生地、いちご、ホイップクリームを取り出した。


 ここからが本番、ここで失敗してしまったらここまでの準備が台無しになってしまう。


 フライパンの上にサラダ油を引いて、しっかり広げたら生地をフライパンに生地をほどよい量流し入れ、できるだけ綺麗な丸の形になるように伸ばしていく。


「フライパンもしっかり使えててえらいね」

「IH調理器は便利ですね」


 ここにはコンロの代わりにIH調理器が使われている。

ドラマなどでしか見たことが無かったので、文明の利器に触れた気がして少しワクワクしてしまう。

気がするだけじゃなくて、本当に触れてるけど。


 生地が固まってきたので、フライパンと一緒に用意しておいた皿に生地を移していく。


「フライパンからの移動もなかなかに上手だね」

「ありがとうございます」


 生地の上にホイップクリームやいちごを乗せていって、生地で上に乗せたホイップクリームとイチゴを巻いてブーケの様な形に整えればようやく完成。


「完成しました」

「おつかれー」


 岩永さんが完成したことを確認し、こちらへ歩いて来る。

「見た目も結構良いね。クレープ屋とかで出しても問題なさそう」

「味はどうなんでしょうね」

「早速味見してみようかな」

「はい、お願いします」


 岩永さんがいちごのクレープを両手で持ち、口へと運ぶ。

岩永さんがクレープを咀嚼している。さて、どんな評価を受けるのだろうか。

私はメンタルが強い方ではないので、見た目は良いけど味は生ゴミ食べた方が美味しいとか言われたらもう立ち直れない。


 岩永さんが1口分のクレープを飲み込み、残りを皿へ置いた。


「どうでしたか?」

「うん、良い味してる」


 ニュース番組のアナウンサーくらい色々感想を言うと思っていたので拍子抜けだった。

それだけですか? と聞きたくもなったが、感想を述べるのが苦手なタイプかもしれないので喉まで上がってきていたその言葉は何とか飲み込んだ。


「不味くないですか?」

「うん、美味しいよ。私の中の合格ラインは余裕を持って超えてるよ」

「それは、よかったです」


 さっきまでの緊張が一気にほぐれた。

あれほどの料理が作れる岩永さんの合格ラインを超えることができた。

これは誇るべき事なのだろう。

西園寺さんに料理を振る舞える日もそう遠くなさそうだ。

 





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