第93話 ユースタスさんと男の人
とりあえず威嚇を止めたフルフル達と小さいモコモコ。でもドスの効いた目で見ることはやめず。その間も双子はとても嬉しそうに、男の人と何かを話したり、おもちゃで遊ぼうとしていた。
と、少ししてスカーレットさんが、今ここでできることは終わったのか、別の準備をしに行くと籠を持ち、檻の鍵を閉めて出て行こうとした。その時何故か、俺の手首にバングルみたいな物をつけたスカーレットさん。しかもごめんなさいねと言ってきて。
何だと思ったが、バングルを付けたスカーレットさんは、檻の扉の鍵穴部分を見て。
『あれが付いているし、すぐに戻ってくるから大丈夫よね。……あの』
『分かっている。さっさと行け』
おお、ここにきて初めて男の人の、はっきりとした言葉を聞いたな。スカーレットさんは軽くお辞儀をすると、結局檻に鍵はかけずに広間から出て行った。
と、それはスカーレットさんが出て行ってからすぐだった。いきなり男の人が話し始めたんだ。双子の方を見たまま。だから何でそっちを見ながら? 誰に話しかけているんだ? って思ったんだけど。分かっていなかったのは俺で、ユースタスさんはきちんと分かっていた。
『まったく、面倒なことばかり。お前もそう思うだろう?』
「……」
『そしてふざけた事をする者達ばかりだ。自分の事しか考えていない』
「……」
『まぁ、奴のことはそのうち消すつもりだが』
『「……」
『本当だったら今すぐにでも、我々以外の者達を全て消してしまいたいところだ』
「……」
何だ? 誰に話しているか知らないが、ずいぶん物騒な事を言う奴だな。全ての者を消したいだなんて。俺達の国を襲ってきたジェフィリオンもどうかと思うけど。今の言葉だけならこの男もかなりヤバい奴だ。
『おい、いつまで黙っているつもりだ。奴は気づいていないが、我は騙せんぞ。それにあまり時間はない。次にここへいつ来られるか分からないのだ。お前も我に聞きたいことがあるのではないか? ならば今、この時間を大事にした方が良いのでは?』
ん? 俺に言っているのか? いや、そんなはずないよな。俺は赤ん坊、話せるとは思わないはずだ。いや、騙されないと言っているから、もしかしたら俺が別の世界からきた、本当は大人だって気づいているとか?
まさかな、流石にそこまでは分からないよな。……いや、鑑定の魔法があるくらいだから、もし鑑定の力が強くて、俺の鑑定結果を詳しく見ることができたなら。そういうこともあるかもしれない。最初の鑑定の時は大丈夫だったけど。
そう考えた途端、俺の心臓がドキンッ!と跳ねた。もし本当にバレていたら。そしこ何とかここから逃げ出して、父さん達も元へ戻れたとしても。俺が地球からの転生者で、実は大人だったなんてバレたら。
父さん達に気持ち悪いと、地球なんて父さん達が知らない世界からきたなんて不気味だって、追い出されることになったりしたら。俺はまだ父さん達と家族でいたいのに、それだけはなんとしても避けたい。
嘘をついているのは心が痛むけど。それでもせっかく家族になれたんだから、本当の家族として生活したいんだよ。
なんてドキドキ、嫌な気持ちになっている俺の肩。モコモコ達や小さいフルフルとの話しが終わって、戻ってきていたリーシュのユースタスさんが、大きな大きな溜め息を吐いた。
『はぁ、お前に隠し通せるとは思っていなかったが、いつから気づいていた? 最初からか?』
『そうだ。その子供に、お前が突撃した時から気づいていた』
『では何故、奴に、ジェフィリオンに黙ったままでいる?』
『我にも色々あるのだ』
何だ何だ? 色々考えていて、ユースタスさんと男の会話をよく聞いていなかった。
『さっさと変身を解け』
そう言われて、ユースタスさんが変身を解いた。え? 変身を解いて良いのか? と、話しを聞いていなかった俺は、今度はこっちのことであたふたしてしまう。だって正体がバレないようにしていたんじゃないのかよって。
『ふん、エルフが人間と共に居るとは珍しい。しかもあの状況で追いかけてくるほどとは』
「私のこの子を守ると、この子の家族と約束したのだ。私は最後までそれを実行するだけのこと」
『それでも、エルフは基本、仲良くしている種族の頼みしか聞かないはずだ。そしてその頼みも、自分の意にそわなければ、絶対の断るはず。お前達はどれだけ長い間、人間達から距離を置いている?』
「お前には関係ないことだ。そして今回私はこの子を守っているということも、お前には関係ない」
『まぁ、我にとってはどうでも良いことだがな』
「それで話しとは?」
『お前の考えていること、我と同じだろうからな。余計な事をされて、こちらが動きづらくなると困るのでな。少し話しをしておこうと思っただけだ』
「にょう? ゆしゃ、こあ、おちゃど?」
今のは、あのユースタスさん、これは一体どういう事なんだ? って聞いたんだ。そりゃあ聞きたくもなるだろう。急に変身を解いて、話しを始めたんだから。
「何だ? グレンヴィル、少し静かにしていられるか? 私達は話しをしなければならないのだ。誰もいない今しか、こうして話すことはできないからだ」
まぁ、それはそうだろう。ジェフィリオンはいないし、スカーレットさんも出て行って。ここには俺達しかいないんだから。だけどこの男のは、本当の姿を見せて良かったのか?
『そうだ、そこの赤子は黙っていろ。お前にはどうせ分からないことなのだから』
そんなの聞いてみなくちゃ分からないじゃないか。
「だーよね、しょゆ、だにぇ」
『煩い赤子だな。静かにしていろ』
今のは、何でだよ、そういうこと、言うんじゃいよ、って言ったんだ。赤ん坊だって、話す時は話すんだぞ。伝わるかは別として。
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