第89話 ようやく動き出したスカーレットさん

『抱っこしても大丈夫かしらね』


 そっと俺達の側に座ったスカーレットさん。嬉しそうな顔をした後に、また心配そうな顔になってしまった。


 まぁ、そうなるよな。俺は周りのことや、みんなが話していることを、しっかりとと理解することができるけど。普通の赤ん坊は難しいことを理解できるわけもないし。

 家族以外の人間が、しかも今までに会ったことのない人が、自分に触れてこようとしたら、泣くかもしれない。


 ここは、一応少しは警戒しながらも、スカーレットさんと接触しようって決めたんだから、俺から行動してみるか。


 俺はぬいぐるみを一旦置き、ハイハイの格好をする。すると大きい方のフルフルが、俺が今まで持っていたぬいぐるみ。地球でいうところのイルカみたいなぬいぐるみを、俺の背中にひょいと乗せてくれ。


 どうやらフルフルは、このぬいぐるみを、俺が気に入ったと思ったらしい。最初に触ったのが、このぬいぐるみだったからな。

 よくよく見れば、みんな自分好みのおもちゃを、ちゃんと手に取っていた。だから俺も気に入っている物だと判断したんだろう。


 俺はそのぬいぐるみを背中に乗せたまま、スカーレットさんの隣へ。移動すると、まず横にぬいぐるみを落とし、しっかりとスカーレットさんの隣に座ると、再びぬいぐるみを手に取った。それからとりあえず声をかけてみることに。


「たあ!」


『な、何かしら?』


「こおぅちゃ!」


『これは挨拶なのかしら?』


 そうそう、今のはこんにちはって言ったんだよ。


『そのぬいぐるみが好きなの?』


 いや、別に好きってわけじゃなくて、目の前にあっただけなんだけど。まぁ、みんなもそう思っているし、ゆいぐるみ自体は可愛いから、そういうことにしておこう。


「ちゃよう、ありゃ」


 今には、ぬいぐるみありがとう、と言ったんだ。それから俺はみんなのぬいぐるみとおもちゃもありがとうと言った。もちろん伝わることはなかっけど、最初の接触としては良いんじゃないだろうか。

 

 そんな短い会話をした後は沈黙が。さて次はどうするか。もう少ししっかりと、スカーレットさんに寄り添うように座ってみるか。


 俺はお尻を上手い具合に動かして、もう少しスカーレットさんに近づき、もうほとんどくっ付いているんじゃないかって所で止まる。少しビクッとしたスカーレットさん。


「グレンヴィル、これからあなたを抱っこしようと思うのだけど、良いかしら? そっと触れるから驚かないでいてくれると良いけれど」


「ちょよぉ」


 今のは、良いぞと言ったんだ。


『まるで、今のは返事みたいね。もしかして良いよって言ってくれたのかしら? 本当に大丈夫かしら。でもこのままじゃ何も進まないし。ここはやってみるしかないわね』


 そう言ったスカーレットさん。触れてはいけに物を触れなくちゃいけないって感じで、そっとそっと、俺の方へ手を伸ばしてきた。だけどすぐに手を引っ込めちゃって。それを何回も繰り返すんだ。

 

 そんなに心配しなくても大丈夫なんだが。まぁ、泣かれたらって躊躇するのは分からないでもないけど。それじゃあいつまで経っても前に進めないぞ。というか本来ならこっちが警戒したまま、近づかないっていうのが普通なのに。


 ほらモコモコ達と小さいフルフルも、俺じゃなくてスカーレットさんを心配して、近づいてきたよ。しっかりとおもちゃは持ったまま。それからいつもより、動きは小さいし力強さも弱いけど、応援のダンスをし始めたし。


『あら? 何で私は応援されているのかしら』


 いや、だからね。それはスカーレットさんがなかなか、俺を抱っこしないからだよ。俺の肩に乗っているユースタスさんなんて、聞こえないようにだけどため息吐いてるし。しかたない、ここはまた俺が。


 俺は再び伸びてきたスカーレットさんお手に、自分お頭を押し当てた。ビクッとするスカーレットさん。俺の頭に触ったまま、動かなくなってしまった。

 そんなスカーレットさんの膝に、パシッとしっぽアタックするから小さいモコモコ。それから小さいフルフルが『くう!!』と大きな声で鳴いて。そうしてまたビクッとしたスカーレットさん。


『大丈夫、大丈夫よ』


 それは俺に言ったのか、それとも自分に言い聞かせたのか。頭から手を離したスカーレットさん。

 1度俺に触れたからなのか、今度はそっとなのは変わらねいけれど、躊躇うことなく、俺の体に触れてきて。そのまま俺を抱き上げ、しっかりと抱っこの体勢に。


 心配そうに俺を見てくるスカーレットさん。なんだ、しょうがないな、最後まで手がかかるんだから。よし、俺がこの世界へ来て、初めて覚えた技を披露してあげようじゃないか。赤ん坊が唯一できる攻撃、必殺ニコニコだ!


 父さん達曰く、俺には2つの笑い顔が。それはとっても可愛い笑い顔と、変なニヤリ顔だと。まぁ、ニヤリ顔については、時々鏡でニヤリ顔を見せてもらったが、俺には何が変なのか分からなかったが。


 と、それは今は良いんだよ。今している顔は、父さんん達がとても喜ぶ顔なんだぞ。他の人に自慢するほど。これならスカーレットさんだって大丈夫だろう。


『……笑ってくれた? 笑ってくれたの? ありがとう、ありがとうね。これからよろしくね』


 スカーレットさんの表情が心配から、心配顔プラス笑い顔に。それから俺のことをギュッと抱きしめてくれた。ギュッとといっても、優しいギュッとで。母さんとまではいかなかったけそ、それでも俺のことを考えてくれている抱きしめ方だった。


 その後少しの間、抱っこされていた俺。抱っこが終わるとすぐにスカーレットさんは準備を始めたんだ。元気よく、鼻歌を歌いながら。その辺、ちょっと姉さんと似ている気がした。姉さん元気かな? 怪我や何かが起きて、苦しんでいないと良いな。

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