第88話 スカーレットさん

『きゅう!』


『くきゅ!』


『ぷぴ?』


『ぷう?』


『くう!』


「他にも色々と、用意してくれたらしい。それと、これに関してジェフィリオンは何も言ってこないらしい」


 え? 何でだ? だって人質なんだろう? 人質ってもうっとこう、なんだろうな。小説で見たような感じじゃないのか? 劣悪な環境だったり、食事も満足に取れなかったり。下手したら暴力だって。


「……人質にする上で、生かしておかなければならないからな。もし双子が死ねば、シードラゴンんは無理矢理にでも奴隷契約を解除し、奴を殺しにくるはずだ。そうなれば奴もタダでは済まない」


 そりゃあ、怒ってそうなるか。子供がもしもそんなことになったら……。それは絶対のあってはならないことだけど、小説みたいなことになったらな。


「この檻から逃げることが難しい双子。我々もどう逃げるか、まだ調べられていないが。ならばここにしっかりと閉じ込めておいた方が、親シードラゴンに命令しやすいだろう。そのために、少しのことは目をつぶっている、といったところか」


 なるほど、みんなが余計な事をしないようにしているってわけか。まぁ、もしここにユースタスさんがいなければ、俺だって誰かに世話をしてもらわないといけないわけで。

 モコモコ達や小さいフルフルだってそうだ。それにみんなが消されるなんてことになったら俺は……。


『きゅう!』


『くきゅう!』


『ぷぴ?』


『ぷう』


『くう!!』


 今度は何を話しているのかと思ったら、この女に人、スカーレットさんについて、色々教えてくれているらしい。


 スカーレットさんはこれまで1度も、双子シードラゴンに対し、暴力や手をあげたことはなく。もちろん魔法で痛みつけてくることもなかったと。

 それどころか、さっき言ったように、本当の優しく接してくれて、いつも双子達を心配してくれているって。


 1度、ここへ来たばかりの頃、これは話しを聞いた感じ、ストレスだと思んだが。双子の片方が、具合が悪くなって大変だったらしい。回復魔法を使っても、何故か完璧に治ることはなく、数日間ずっと寝込んでいて。

 その時にスカーレットさんは、寝ずに看病してくれて。ずっと抱きしめてくれたいたらしいぞ。


 さっきの話、俺達が勝手に考えたことだけど。双子シードラゴンのことを、生かしておきたいからジェフィリオンは、毎日回復魔法をかけるよう、部下に命令していて。


 でもその部下は、回復しにくる度に、どうしてこんな毎日、回復魔法を使わないといけないのか。このまま衰弱して死んでしまえば、海は平和なのにって。まぁ、子供達の前で酷い事を言ったんだよ。


 そうしたらスカーレットさんが、後でそいつとその仲間に、何かされるかもしれないのに。そいつがジェフィリオンに告げ口して、ジェフィリオンに罰を受けるかもしれないのに、双子を庇ってくれたらしい。


 小さい子供に何の罪がある。この世界で生きる上で、こんな小さいうちから良いも悪いもない。悪というのなら、双子にとって自分たちこそが悪だと。親から無理やり引き離して脅し、言うことを聞かせているのだから。


『この子達の罪は何? 何もしていないでしょう!! それと比べてあなたは、何故海の国を出されたか、よく考えると良いわ!!』


 そう最後に言ったスカーレットさん。次の日傷だらけで双子シードラゴン達の前へ来たって。双子は何で傷を治さないのかって最初思ったみたいなんだけど、多分傷を治さない事も、スカーレットさんに対する罰だった可能性が。


 双子シードラゴン達もそう考え、自分達の見方をしてくれたスカーレットさんが、自分達のせいで、傷つくのは見たくないって。

 それにこんな目に遭っても、その後も優しく接してくれたスカーレットさんに、双子シードラゴン達は少しずつだけど、心を開いたようだ。


「なるほど、今のところ問題はないようだな。完璧には信用できないが、あまり離れているのも、逆に何か問題を生みかねない。ここは少し近づいてみるか。何かあれば私は何とかすれば良い」


 そうだよな。今までの話しから、スカーレットさんが悪い人には思えない。だけど俺もユースタスさんじゃないけど、完璧にはまだ信用できないかな。

 俺にだって大切な家族がここにはいるんだ。モコモコ達と小さいフルフルを、俺のできる限りで守らないと。盾くらいにはなれるはずだ。


「グレンヴィル分かるか? あの女、スカーレットには近づいても良い。もし何かあれば、私が対処する」


「ちちゃ、ちゃ」


 今のは、近づいて良いんだな、分かった、と言ったんだ。それから小さく頷いて。


「分かったのか、分からないのか、やはり分からんな」


『ぷぴ!』


「そうなのか、分かったと言ったのか。……我々の話しをどれだけ理解できているのか」


 そんな話しを、少しの間していた俺達。スカーレットさんの方を振り向けば、スカーレットさんは心配そうな、でもそれでも俺達に優しく笑いかけてくれていた。俺達は小さな声で話しているから、スカーレットさんは気づいていないはず。


『何とか、少しでも近づけると良いのだけれど。そうしないとご飯をあげられないわ。それに体も綺麗にしてあげないと』


 俺は静かにハイハイを始める。それに続くモコモコ達と小さいフルフル。そして籠から出されている物の前で止まると、そっとぬいぐるみに手を伸ばした。みんなもそれぞれおもちゃに手を伸ばす。


 それを見たスカーレットさんが、今度はホッとした顔で笑った。


『それはあなた達のよ。それで遊んで良いのよ』


 俺達はそれから、色々と籠の中の物をチェックした後、いよいよスカーレットさんの前へ。スカーレットさんは少し緊張した感じで、俺にそっと触れてきて。これがスカーレットさんとの出会いだった。


 でもまさか、この後すぐに、また新しい? 出会いがあるなんて、俺は全く考えてもいなかった。しかも今回の重要人物に会うなんて。

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