第83話 双子シードラゴンとお尻振りダンス

 俺は普通に疑うことなく、ユースタスさんが言った誰かは、人だと思っていた。うん、者って言っていたしな。だけど俺は、ここが地球じゃない、別の世界だってことを忘れていたよ。


 向こう側の檻に入れられている人は、人じゃなくて別の生き物だった。魚のドラゴンって言ったら良いのか。

 大きさは俺よりちょっと大きいくらいで、色はルスよりも薄い水色だ。それから目はまんまるで、モコモコ達のようにとても可愛く、口を開けるとにっこり笑っている感じになって、さらに可愛かった。


 そんな可愛い魚ドラゴン? が2匹、お互いのしっぽを絡ませ、俺を見ながら泳いでいた。


「グレンヴィル?」

 

 ユースタスさんの声に、思わずビクッとしてしまう。だってまさか檻に魚系の生き物が入っているなんて思わないだろう?

 ただユースタスさんの声に、現実に戻ってきた俺は、魚ドラゴンを指さして、魚ドラゴンについて聞いてみる事に。


「ちゃ!!」


「ん?」


「ちゃあ!!」


 魚って言ってるんだよ。返事の時にも『ちゃ!!』とか、『ちょあ!!』とか言うけどさ。今のは魚って言ったんだ。


『ぷぴ!!』


「ああ、魚って言ったのか。グレンヴィル、確かに魚だが、ただの魚ではない。この者達はシードラゴンの子供だ。双子のシードラゴンだ。そしてグレンヴィル、お前の国を襲ったシードラゴンは、この者達の親らしい」


 え? 今なんて言った? シードラゴンって言ったのか!? あのシードラゴン? 街を国を襲ってきた、あのとんでもない力の持ち主のシードラゴンだって!? え? だってこんなに小さいんだぞ! 俺よりちょっと大きいだけなのに。

 可愛さだって、モコモコ達や小さいフルフルと変わらないくらい、とっても可愛いのに。


 それにあのシードラゴンが、この子達の親だって? 本当なのか? というかシードラゴンはこんな姿をしていたんだな。国を襲ってきたシードラゴンは大きすぎて、一部分しか体をみていなかったから、全く分からなかった。


「ち? ちよ、おきな!」


「今度は何だ?」


『ぷぴ、ぷぴ、ぷぴぴ!』


 すぐさま今の俺の言葉を、ユースタスに伝えてくれたモコモコ達。ちなみに今のは、シードラゴン? 同じじゃない、全然大きさが違う! と言ったんだ。


「シードラゴンの子供は、これくらいの大きさが普通だ。先程聞いたら、歳は1歳だと。人間でいうところの5歳くらいだ。私も双子は初めて見たがな」


 人間で言えば5歳? 小さい俺達の中で、1番歳上なのかよ。いやいやいやその前に、本当に、本当にシードラゴンの子供なのか?

 と、こんな風に軽くパニックになっている俺。すると双子のシードラゴンが檻ギリギリまで近づいてきて、俺に向かって何かを言ってきた。


『きゅ?』


『くきゅ?』


『きゅきゅきゅ!!』


『くきゅくきゅ!!』


『ぷぴ!!』


『ぷう!!』


『くう!!』


 何だ何だ、急にどうしたんだ。


「お前に挨拶をしているぞ。こんにちわと、よろしくねと言っている」


 ああ、挨拶だったのか。俺はすぐに2匹の挨拶をした。


「ちゃ!!」

 

 俺がそう言うと、俺が挨拶をしたと、モコモコ達が双子シードラゴンに伝えたかは分からないが。双子のシードラゴンはその場でクルクルと宙返りをして、また何かを言ってきて。


 今度は、挨拶できた。人間初めて。人間話しができない。でもモコモコと小さいフルフルが教えてくれる。友達になれるかな? 一緒に遊びたいね。などなど、色々言っているらしい。


 何だろう、この違和感は。最初のシードラゴンがあれだけ大きく、攻撃的で。国を襲ってきたってのがあるから。シードラゴンの印象は、小説と同じ怖いって感じなんだけど。シードラゴンの子供はかなりフレンドリーで、それのせいで変に感じているのか?


 双子のシードラゴンが下へと降りていって、モコモコ達と小さいフルフルもそれに合わせて檻のギリギリまで行くと。お互い向かい合って、小さな声で歌を歌い始めた。

 モコモコ達と小さいフルフルは、いつものダンス付きだ。双子シードラゴンはイルカが鳴くようにキュイキュイと歌っている。


 みんなの様子から、このシードラゴンは危険なシードラゴンじゃないんだろう。危険だったらモコモコ達はダンスなんてしないだろうからな。

 それどころかあのけっこう怖い、威嚇をするだろう。何度俺はそれをやられたことか。特に姉さんの歌の時に。でもそれをしないって事は、本当に危険はないはずだ。


 おっと、双子シードラゴンが、モコモコ達と小さいフルフルに、ダンスを習い始めた。今みんなは、お尻振りダンスをしているんだが。

 こう、こう振るんだよと、ゆっくりしっかりとお尻振りを見せて。双子シードラゴン達は、お尻の代わりにしっぽを振って真似をしている。


「グレンヴィル、シードラゴンの子供は、大人のシードラゴンのような力を持っていないのだ。今はきっとモコモコ達と同じくらいの力しか持っていないだろう。危険はないから安心するといい」


 そうなのか。そう言えばルス達もフルー達もそうだもんな。大人のみんなはとっても強いけど、小さい子達は力がないから、みんなに守ってもらっている。シードラゴンって聞いて、少しパニクってかまえちゃってごめんな。


 と、俺がそんなことを思っていると。小さい方のモコモコが俺を呼びにきた。ユースタスさんが俺を下に降ろしてくれて、ハイハイして小さいモコモコに付いて行く俺。

 みんなが集まっている場所に着くと、一緒にダンスをやれと言ってきた。そう、お尻振りダンスだ。


 ええ~、ここでかよ。しかも俺達の捕まってるん状態なんだけど。なんでこんな時のお尻振りダンスを? いやみんなは楽しそうだから、怖がっているよりは良いんだろうけど。俺は別にやらなくても……。


 と、そんな俺の気持ちを、楽しんでいるモコモコ達に伝えることもできず。早くやれと言ってくるモコモコ達に負け、一緒にお尻振りダンスを始める俺。

 檻の中、お尻を振る俺達。そんな俺達を、もしここに他にも誰かいたのなら、2度見するんじゃないだろうか。

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