第74話 その時、ある海の街では(別の街で起きていた出来事)

『あんた、一体なんなのよ!! 私の大事な人形をよくも!!』


『お前の人形? 奴隷の間違いだろう。しかも色々な用途で使うな』


『私が私の人形をどう使おうが、あんたには関係ないじゃない!!』


『まぁ、関係ないちゃあ、関係ないが。それでもそれを見せられるのはな。……生きている奴らを生き人形にしやがって。挙句子供にまで手を出しやがって』


『ふん。私は良い男も、こういう時に使えそうな子供も大好きなのよ。あんたに文句を言われる筋合いはないわ。それよりも私の人形を返しなさい!!』


『お前こそ何を言ってやがる。大体お前の、今の状況が分かっていないのか? お前はもう終わりなんだよ。さっさと諦めて、他の奴らを解放しろ』


『そんな事するわけないじゃない。お前! 行きなさい!!』


『たくっ、……だからそれは意味がないと、さっきから言っているだろう』


『何で、何で私の魔法が消されるのよ!!』


『おっとっと。おい、こいつも頼む』


『はっ!!』


『それでザカライア様、あれはどうするおつもりで? はぁ、あれをあれと言うのも嫌なくらいですが。もっと良い呼び方はないですかね』


『どうするって、あの女は人の話しを聞かないからな。面倒だが力ずくで抑えるしかないだろう。というか『あれ』だと分かりにくから、女で良いじゃねぇか』


『話しを聞かないのは、あなたも同じでは? それに女など。あれにはもったいない。本当にいい呼び方はないですかね』


『うるせぇ、俺は良いんだよ。はぁ、お前の気に食わない相手の呼び方、どうにかならんか?』


『それで?』


『……取り戻した子供達と、今女の元に残っている子供達。皆助けられれば、かなりの子供達が親元に帰れるだろう。必ず助けてやらないと。っと、話しをしている時に邪魔しちゃいけないと、親に教わらなかったのか?』


『煩い!! 私の人形を返しなさい!!』


『ですから、それをあなたが人に言える立場ですか。いつも人の話しを聞かない貴方が。挙句勝手に解釈して、何度も面倒を起こしたことか』


『おい、だから俺は良いんだよ。それに俺はきちんと話しを聞いて……』


『私を無視するんじゃないわよ!!』


『たく、煩えなぁ。とりあえず、今からあいつを生きたまま捕まえる。そうすれ今言った通り、ば子供達は皆助けてやることができるし。このドタバタが終われば、全員は無理かもしれんが、それでもかなりの子供達が、親元へ帰れるはずだ。そしてそれも終われば、こいつには生きたまま、地獄を見せてやる』


『その顔が怖すぎて、大好きな子供に怖がられ、泣かれない日はないと言っても良いほどのあなたですが。それでも子供を大切にし、子供が事件に巻き込まれれば、事件の犯人を地獄のそこまで追って行く。貴方の相手が、あれだったとは。あれも運がないですね』


『おい、最初の方は余計じゃないか?』


『さっさと捕まえてください。じゃないとあれが使った魔法のせいで、他の情報を伝えることができないのですから。……キュルス様のお子様が危険です』


『分かっている。よし、一気に片付けるか』


『な、何なのよ、何なのよ!! キャアァァァッ!!』


『大人しく捕まっておけば、いや、最初の警告の時に、子供だけでも引き渡していれば。子はどこの国にとっても、世界にとっても大切な存在。それをあのように使うなど。この戦いが終わったら、ザカライア様の作り出す地獄で、一生を過ごすといい』


『おい、終わったぞ』


『予定よりも時間が過ぎています? おい、これをあそこへ入れておけ。それとさっき来た者は? 私達を偵察に来ていたあの馬鹿です』


『はっ! すでにあそこへ入れてあります!』


『良いですか、警戒を怠らないように。ブレンデン様から影の者をお借りしています。彼等と2人の見張りを。ザカライア様と私は離れますので』


『はっ!!』


『では行きますよ。時間がありません。戦いの中を抜けていきますので、その中で攻撃を受ける、なんて馬鹿なことにならないように』


『……俺はお前の上司なんだが?』


『さぁ、行きますよ』


『おい……』


      *********


『まさかあの男が戻って来ていたか。これは私のミスだ。あそこを落とせなかったのは大きい。別の場所を予定よりも早く終わらせる必要がでてきた。……やはり私が動くか』


 次の作戦に移るため、少し後ろへと下がった私の所へ、ザッカリーから連絡が入った。


 そのザッカリーの報告によると、キャロルとは相性の悪い。いや、殆どの者に相性の悪い、そんな相手が今キャロルの相手をしているため、キャロルはかなり押されていると。


 まさかあの男が、この国に戻って来ていたとは。あれだけ監視していたのに、いつの間に戻って来たのか。

 男の名はザカライア。海に生きる者達の中で最強と言われる男である。その能力は魔法だけではなく、すべての戦うことに秀でていて、奴を止めるのは不可能という者達まで。


 その面倒な男ザカライアだが。今回の作戦を立てる上で、もちろん奴がいないことは、しっかりと確認をしていた。

 もし奴がいたならば、奴が何かの用事でこの国を離れた時に、計画を実行しようとまで考えていたほどだ。そのために確認はしっかりとしていたが。まさこの私が気づかないとは。


 面倒なことになったと思いながらも、ザッカリーの報告は、その時はそれだけですぐに終わり、その後またすぐに連絡が。

 しかしここで異変が起こる。いくら声をかけてもザッカリーからの返事はなく。向こうから連絡をしてきたのにおかしい。そう思い、私はすぐに通信を切ろうとした。


 が、通信を切ろうと瞬間、ザッカリーの微かな唸り声が聞こえ。私は急ぎ通信を切ると、次の準備には移らずに、今の問題を考えることに。おそらく奴の部下にでも、ザッカリーはやられたのだろう。


 そしてキャロルも、あの男が相手ならば、やられた可能性が高い。計画通りにことが進んでいたのなら、このまま次の作戦に入っても良かったが、キャロルがやられたと考えるならば、やはり計画を変更する必要がある。


『……作戦を早めるか』


 もし奴がこちらに来てしまえば、子供を攫うのが難しくなってしまう。そうなれば、その後のことにも支障が。それだけは避けたい。確実ではないが、今動かなければ……。

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