第35話 モコモコ達のお尻ダンス

『う~にょ!』


『ぷぴぃ~!』


『にょ~お!』


『ぷうぅ~!』


『……リズ、あれは一体何ですか?』


『ああ、少し前からぁ、ずっと練習していらっしゃるんですよぉ』


『何故?』


『何故と言われてもぉ。グレンヴィル様がと言うよりも、モコモコちゃん達がぁ、グレンヴィル様に、やって欲しいみたいですぅ』


 父さんが仕事で海へ行ってから5日。父さんが魚に変身した時の衝撃から、ようやく落ち着いてきた俺だけど。新たな問題が発生した。まぁ、本当に大変な問題ではないんだけど。俺がちょっと大変ってだけで。


 俺はそれをしているくらいなら、ようやく1歩踏み出せたハイハイを、もっと極めたいと思っていた。それと父さんが帰ってくるまでに、もう少しハイハイできるようになって、帰って来た父さんを驚かせたいって思っていたんだけど。

 ハイハイの練習は、俺が考えていた半分くらいの練習しかできていなかった。そう、今言った問題のせいで。


 一昨日、お昼のご飯を食べてから、庭に行って日向ぼっこをしていた俺と姉さんと母さん。もちろんここは、人間の俺が暮らせているとは言え海の底。それでも朝、昼は明るく、夕方、夜もあって。どうやって太陽の光が届いているのかと思ったら。

 太陽の光じゃなくて、魔法だったんだよ。後はここに住んでいる人達と、そしてとっても仲がいい魚のおかげだった。


 いや、少し前にみんなで買い物通りに行った時、俺がその塔を見つめていたら、気づいた母さんが簡単に説明してくれて。


 そこには高い高い塔があるんだけど。そに塔は魔法を研究する施設らしくて。この国の魔法が得意な人達が集まって、色々魔法の研究をしたり、魔法じゃないと解決できない事件が起これば、この塔で働いている人達が対処したりと、色々してくれていて。


 でも、そしてここで働くのは、とても大変らしい。かなり難しい試験に合格しないと入れないんだ。入れても数年に1回試験が。その試験がまた難しくて大変で。この国で1番難しい試験って言われているって。


 ただ、ここに入る人達は確かに魔法が得意な人達が多いけど、得意というよりも、魔法マニアって言った方が正しいみたいで、落ちる人は、まぁいないとか。あまりのマニア具合に、普通の人はあまり近づかないって。


 で、その魔法マニアの人達が、水時計があるから時間は分かるけど、でも人は光を浴びないと、元気に生きていけないってことで。

 ついでに水時計がなくても、外で仕事をしている人達が、大体の時間が分かるようにって事で、光魔法を使って、ドームの中を明るくしてくれているんだ。


 で、暗い海の中、どうやって朝昼夜を正確に伝えるか。これは海に生きる者の先祖の人達が、水時計と合わせて、海の底で暮らし始めた頃からやっている方法、それが今も続けられて。魚に時間を教えてもらうんだって。


 時間によって、生活する水域を変える魚達や、行動を変える魚達がいて。例えば朝、海面近くにいる魚が、海の野底にいる時は外が夜。

 それこそ太陽の光が届かないのに、お昼になると時間通りに、クルクル群で回って泳ぎ出す魚達。などなど、時間によって、行動を変える魚達が。


 だから祖先の海に生きる者達は、水時計とさなか達、そして実際に陸へ行って、時間を合わせて。それが今もずっと続けられている。

 そして1年に1回、時間にズレがないか確認をして、しっかりと調節しているから、時間を間違える事はないんだって。


 その光魔法のおかげで、俺達は日向ぼっこができるんだ。で、昨日の日向ぼっこ、モコモコ達も日向ぼっこは大好き。もちろん俺達と一緒に日向ぼっこをしていたんだけど。


 何故か昨日は、日向ぼっこで気分が良くなり過ぎたのか、モコモコ達は踊り始めてさ。最初はそれを微笑ましく眺めていた俺。でも途中で俺のモコモコ2匹が、踊りながら俺の方へ。

 ちなみにその時のダンスは、お尻をフリフリ、手足を交互にぴょこぴょこ動かして、歌を歌うって感じだった。


 そして俺の方まで来ると、何かを訴えてきて。何かと思っていたら、小さいモコモコの方を手で指す大きい方のモコモコ。それから何回か手を指した後、小さいモコモコと同じ立ち姿をして。

 小さいモコモコを指しては、その後同じ動きをする。それを何回も繰り返してきたんだ。


 どうやら俺に同じ格好をしろって事だったらしい。ほら俺はハイハイの格好をできるようになったから、自分達の立ち姿と、俺のハイハイの格好が似ていて。だから俺にも同じ格好をしろって。


 それでゆっくりだったけどなんとかハイハイの格好をした俺。その後何と、俺にお尻を振れと言ってきた。まさかそんな事を言われるとは。


『あらあら、モコモコ達はグレンヴィルと一緒に踊りたいみたいね』


 と母さんが。それから。


『きっとグレンヴィルもやったら可愛いわね』


 とも。は? 俺がお尻振りダンスを? と思ったんだけど、母さんの言った事は正解だったらしい。モコモコ達は何度も頷いて後俺に。『さぁ、やれ!』と言ってきたんだ。


 それからは時間があると俺に練習しろと、言ってくるようになったモコモコ達。お尻振りと一緒に手足を動かすのも要求され、歌まで歌わせられる事に。まぁ、手足の動きはハイハイの練習とも関わってくるし、それは良いんだけど。何で俺がお尻を振らないといけないんだ。


 今は歌の練習をさせられている俺。それをカータレットさんが見て、リズに何をしているのか聞いたって感じだ。

 俺がちょっとサボろうとすると、サボるなとモコモコ達に怒られれ。ため息を吐く俺。母さんがため息が上手くなったと言っていた。ため息なんか上手くならなくて良いんだよ。俺は仕方なく、練習を再開させた。


 だけどこの前言っていた、今の俺が知る由もないある事件。そのある事件を解決するのに、このお尻振りダンスが一役買うなんて、誰がこの時思っただろうか。いや、誰も思わないだろう。

 だけど確かにこのお尻振りダンスが、一役買う事になったんだ。

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