第23話 な、何だって、俺が死ぬ!? 息吹のパルとは?
良い匂いだけの、そしてミルクだけで終わった食事。なんとなく窓から外を見てみれば、ここへ来た時よりも暗くなっていて。向こうの方に灯りが。ここへ来た頃よりも、更に綺麗に光っていた。今は何時なのか。
『さぁ、移動しようか』
父さんの声にみんなが立ち上がる。あれだけあったたくさんの料理は全てなくなり。そしてモコモコ達の方にあった、果物らしきものも。山のように置いてあったけど、全て完食されていた。あの小さな体の中のどこに入るのか。
食堂から出た俺達が向かったのは、さっきモコモコ達が挨拶をした部屋だった。さっきはモコモコ達のために移動されたテーブルが元の位置に戻っていて。父さん達がソファーに座ればすぐに、カータレットさんと別のメイドさんが、お茶を運んできてくれた。
『さて、明日からのことだが。私が休みのうちは、できる限りグレンヴィルと一緒にいるつもりだ。何かあれば買い物にも行けるしね』
『そうね。でもやることはやってからにして。最初の数日は良いけれど、あなたにはやることが色々あるでしょう?』
『分かっているよ。それは後でやる』
『ちゃんとしてもらないと、アンディーも迷惑よ。ねぇ、アンディー?』
『旦那様、前回のように、書類が机に山積みになっておりますのであしからず』
『……』
書類……。山積み……。地球での俺を思い出す。父さん、父さんがどんな仕事をしているか知らないけど。うん、ファイトッ!! きっとその書類の山は、考えているほど山じゃないはずだ。無になってやれば、すぐに終わるはずだよ。そう、無になるんだ父さん!!
『でも、確かに。きっとこれから必要な物が、どんどん出てくるでしょうね。なにしろグレンヴィルは人の子。いくら私達と生活が似ていても、違うところも多いもの。でもとりあえず、
帰ってくる時に話していた、あれを揃えた方が良いわね』
『そうだな。アトウット、明日ピレンターを呼んでくれ。それとお前達に話しが。まずはアトウット、アンディー、カータレット、リズに渡すつもりでいるんだが。お前達のは『息吹のパル』を持ってもらおうと思っている』
ここで新しい言葉が。俺は、側で寄り添って寝始めたモコモコ達を、手が動かせる範囲で撫でながら話しを聞く。
『私達はもちろん問題はないが、この子は人間だ。もしここに何かがあった場合、息吹のパルがなければ、息ができずに死ぬことになる』
な、何だって!? 俺が死ぬ!? またかよ!! 息吹のパルっていうのがないと、息ができなくて死ぬってどういうことだ!?
『確かにあれがなければ、人間はすぐに溺れてしまいますからね。長く潜られる方もいますが。それでも限界は』
『グレンヴィルが大きくなって、自分で対応できるようになれば問題ないでしょうけど、それまでは何かあれば、私達が対処しなければいけないわ。だからグレンヴィルの近くにいる人には、必ず1つは持っていてもらいたいの。それとね』
『帰り道、やはりグレンヴィルが気にしてな。今はまだそんなに動けないから大丈夫だろうが。もう少し動けるようになれば気にして、自分で何とかして外してしまう可能性も。それにあまり気にして、ストレスになるといけないから。私達の誰かが側にいる時は、外してあげても良いと思っている』
『その時に緊急事態が起きたら、随時置いておく物と、あなた達が持っている物、どちらかをつけてあげられればと』
『そうですね。あれは水の中で人間が息をするのに大切な物。ここでは良いですが、もしここに海の水が入ってくれば、問題ですからね』
あっ!! そういえば!! そうだよ俺、海の中で暮らすことになったけど、息ってどうやってるんだ? ここは空間だから普通に息ができてる? でも今カータレットさんが言った通り、もしここに海の水が入ってきちゃったら?
『ピレンターの所には、随時15個の息吹のパルが置いてあるからな。種類もたくさん用意してあるから、明日グレンヴィルに合わせて買おうと思う』
『それがよろしいかと。多くて困ることはありません。グレンヴィル様も安心して過ごすことができると。息吹のパルは肌に身につけているだけで、海の中で湖でも、水の中でずっと息をし続けることができますからね』
『この子を助けた時、運良く息吹のパルの付いているネックレスを持っていて良かったわ。これがなければ今頃グレンヴィルは、溺れてこの世には』
母さんが俺の首からネックレスを外して、真ん中の真珠のような物を触る。そうか、今までの話から、その真珠のような物が、みんなが息吹のパルと言っている物で。
どういう仕組みかは分からないけれど。これを身につけることで、俺のような海の中で息のできない人間は、息ができるようになると。
俺が捨てられて殺されかけた時、俺を見つけてくれた父さん達が、たまたまこのネックレスを持っていてくれて、そのおかげで俺は助かったのか。あの時、女の子を見た気がしたけどあれは幻じゃなくて、きっと姉さんだったんだ。
そうか、そうか。父さん、母さん、姉さん。俺を見つけてくれて、そして助けてくれて、本当にありがとう!!
『承知しました、明日1番でピレンター様をお呼びします』
母さんが俺の首にネックレスを戻す。さっきまでは気にして何回か触っていたネックレス。うん、なるべく触らないようにしよう。これがなくなったら困るからな。
そして話しがひと段落つき、父さん達が2杯目のお茶を飲み終わる頃、リズが母さんを呼びに来た。母さんというか俺を。俺の寝る準備ができたらしい。
みんなでぞろぞろと部屋を出て、俺の部屋へと移動する。俺の部屋は、どんな部屋だろう。楽しみだな。それに父さん達が買ってくれた寝具で寝るのも楽しみだ。
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