第15話 帝国の進撃と未知の来襲
旧ミズガル王国領上空。
ムスペル帝国軍の侵攻により支配下に置かれた現帝国領土の上空には、現在帝国軍の浮遊する艦艇の大艦隊が集結していた。
中でも特に目を引くのが伯爵家が所有する四隻の巨大な超弩級戦艦と帝国正規軍の移動司令部とも呼ばれている超超弩級戦艦の姿。
ブレスベルク伯爵の所有する超弩級戦艦"グリトニル"。
フルングニル伯爵の所有する超弩級戦艦"ギムレー"。
フィアラル伯爵の所有する超弩級戦艦"ヒミンビョルグ"。
ガラール伯爵の所有する超弩級戦艦"ブレイザブリク"。
いずれも全長千メートルを超える巨大な戦艦だ。
その巨大さゆえに浮遊城という異名も持っている。
そして、伯爵達の超弩級戦艦をも上回る超超弩級戦艦"グラズヘイム"。
全長二千メートルを誇る超巨大艦。
世界最強の軍隊であるムスペル帝国軍でも三隻しか運用されていないヴァルハラ級超超弩級戦艦の二番艦だ。
この艦は帝国正規軍の動く指令部であり、皇族の御召艦にも使われている。
そんな巨大な艦艇達と随伴する大量の浮遊駆逐艦達によって陽の光は遮られ、かつてミズガル王国だった大地は巨大な影に覆われていた。
『シグムンド殿下、まもなくアウルゲルミル家の"ヴァーラスギャルヴ"が到着します』
「公爵殿自らおいでになるとは……おそらくシグルドの件だな」
しかし、帝国の圧倒的な力を示すかのように、また新たな艦隊が帝国艦隊へと合流した。
『アウルゲルミル家所有超超弩級戦艦"ヴァーラスギャルヴ"並びにアウルゲルミル艦隊が到着しました。これより、"グラズヘイム"との接舷を開始します』
ヴァルハラ級超超弩級戦艦三番艦"ヴァーラスギャルヴ"。
帝国貴族の頂点。
十三家門唯一の公爵家であるアウルゲルミル家の所有する艦だ。
この"ヴァーラスギャルヴ"と随伴する護衛艦隊が加わったことにより、二人の皇族が率いる帝国正規軍と帝国十三家門の内の五家の貴族軍の軍隊がミズガル王国に集結したことになる。
先の戦で被った大損害もこれで穴埋めされた。
それほど規模が大きい訳ではないミズガル王国に対してあまりにも過剰な戦力だった。
「これはこれはアウルゲルミル卿。わざわざご足労頂き感謝致します」
「こちらこそ急な来訪で申し訳ないシグムンド殿下」
シグムンドが一人の男を"グラズヘイム"に出迎える。
その男、アウルゲルミル公爵は、ムスペル帝国で皇族に次ぐ権威を誇る、帝国貴族の頂点に立つ十三家門の筆頭、アウルゲルミル家の当主だ。
「いえいえ、こちらこそ、弟のことを心配して頂き感謝しています。シグルドが良い縁を結べたことがとても喜ばしい」
そして、アウルゲルミル公爵はシグムンドの弟であるシグルドの婚約者の父親でもある。
「しかし、本当にあのシグルド殿下が負けたのですかな?」
アウルゲルミル家を継ぐ予定のシグルドの敗北。
その報告は、アウルゲルミル公爵としても信じられないものだった。
そこで、帝国最強とも謳われる皇子の身の無事を確かめるために重鎮であるアウルゲルミル公爵自らミズガルへとやって来たのだ。
「はい。シグルドが敗北し重症を負ったのは紛れもない事実です。幸い、古代文明の遺産である再生装置のおかげで全快しましたが、かなり酷いものでした」
「ミズガル王国に、シグルド殿下に勝つ猛者がいたとは……これは油断なりませんな」
アウルゲルミル公爵の顔色が変わる。
その顔色の変化を見て、シグムンドもまた神妙な表情を浮かべた。
そして、シグムンドはシグルドを倒した敵の特徴をアウルゲルミル公爵へと伝えた。
「その通りです。シグルドから聞いた話では、敵の未知の鎧兵器は、青い魔力の輝きを放ち、背後に幾何学的な光輪を展開していたとのこと。おそらく敵が発掘した新型の鎧兵器かと」
「な……!?」
その特徴を聞いた瞬間、アウルゲルミル公爵は驚愕の表情を隠せなかった。
「青い魔力の光!?……と、なると可能性が高いのは……」
「どうしました?」
公爵の動揺した様子に疑問を抱いたシグムンドが何事か尋ねる。
もしかしたら、何かを悟ったかもしれない。
そう思ってのことだった。
しかし、アウルゲルミル公爵はすぐに元通りの落ち着いた様子を取り戻し、何事もないと笑顔を浮かべた。
「……いや、少し未知の鎧兵器について気になりましてな。それほど強力な鎧兵器なら、久方ぶりに私自ら出ることになるかもしれませんな」
「な!?公爵自らですか!?」
突然のアウルゲルミル公爵の発言にシグムンドは驚愕した。
確かに、アウルゲルミル公爵は若かりし頃優秀な鎧兵器操縦者として名を馳せていた。
そして、アウルゲルミル家は、最上位の特殊型の鎧兵器を保有している。
今回も、超超弩級戦艦と共にその鎧兵器を持って来ているはずだ。
とはいえ、アウルゲルミル公爵は帝国の重鎮。万が一のことがあっては帝国にとって大きな損失となる。
「構いませんとも。私とて皇帝陛下に仕える騎士の一人。腕はまだ衰えていませんよ。それに、我が娘もシグルド殿下の仇を討つと張り切っていましたからな」
しかし、アウルゲルミル公爵は出撃する気を変えるつもりはないようだ。
「……感謝致します。アウルゲルミル家が所有する、かの鎧兵器"フェンリル"の力があれば、例え未知の鎧兵器であろうと必ずや屠れるでしょう」
獲物を見定めたかのようにギラついた瞳を向けてくる未来の義妹の父に対し、シグムンドは折れざるをえなかった。
確かに危険ではあるが、アウルゲルミル家が保有する鎧兵器"フェンリル"の力は想像を絶するもの。
万が一は起きないだろうとの判断だった。
「では、私は一度"ヴァーラスギャルヴ"へと戻ります」
「わかりました。間もなく、ケルムト前線基地への攻撃を開始します。公爵も軍の展開をお願いします」
「承知しています」
自身の艦"ヴァーラスギャルヴ"に戻ったアウルゲルミル公爵は、シグムンドから言われた機体の特徴を思い出す。
「……光輪の展開は陛下でも不可能だ。あれは天上世界への扉を開く鍵——"王権"を持つ者でなければ展開されないもの」
アウルゲルミル公爵は、敵の機体の正体に心当たりがあった。
「……我がアウルゲルミル家で確保出来れば良いが、万が一のこともある。陛下の忠臣たる帝国貴族の威信にかけて、何としても回収せねばな」
まるで、長き時を経て待ち望んだ獲物を見つけたかのように、アウルゲルミル公爵は獰猛な笑みを浮かべた。
帝国の魔の手は、すぐそこまで迫っていた。
『聞け!これより我が帝国軍はミズガル軍ケルムト前線基地へと攻撃を仕掛ける。ケルムト基地はミズガル侵攻における要所の一つだ。ここを落とせば我等の戦略目標に大きく近づくだろう!』
時を同じくして、ムスペル帝国軍の進撃準備も整った。
その攻撃目標は、フリッカ達第七鎧兵器部隊が拠点にしていたケルムト前線基地。
『皇太子シグムンド・ムスペルヘイムの名の下に命じる!全軍進撃せよ!』
空を埋め尽くす大艦隊がついに動き出した。
だが、姫もフリッカもただ魔の手が迫るのを座して待つタイプではなかった。
「……!?艦隊前方に次元歪曲反応なるものを確認!!」
「なんだそれは?」
「わかりません!初めての警報ですので……」
突如として、ムスペル帝国艦隊の各艦に激しい警報音が鳴り響く。
ムスペル帝国軍の大半の者は、その警報の意味も何が起きたのか全くわかっていなかった。
「これは一体……」
再び起きた異常事態に、シグムンドは前回の無人鎧兵器暴走の件がチラつき頭を抱えた。
そして——
「次元歪曲反応……まさか!?」
事態を理解したアウルゲルミル公爵は、驚愕と同時に一つの確信を抱いた。
「
瞬間、艦隊前方が眩い虹色の輝きに埋めつくされる。
それは、次元を超えて巨大質量が移動した証。
次元跳躍時に見られる光景だ。
『フリングホルニ
「ケルムト基地の部隊には影響がないように起こしてね」
次元に空いた穴から出て来た艦の中で、銀色の少女が無慈悲な命令を告げる。
そして——
『過剰な次元歪曲に伴う"次元震"を発生させます』
この日、ムスペル帝国艦隊は、虹色の未知なる大災害に見舞われた。
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敵艦隊への単艦突撃はかっこいいですよね!
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