【優秀賞受賞】じつはいろいろありまして……

あるふぁ

1/1 元日は家でゆっくり

「涼太先輩! 涼太先輩!」


 ひなたに呼ばれて目を覚ます。

 起きてから最初に目に映ってきたのは、質素な部屋の風景とひなたの姿だった。特に気になるのはひなたの様子。ニコニコしているが、いつもの笑顔とは違ったものなので非常に怖い。

 ベッドから体を起こすと、晶の姿が。晶はというと、俯いていて様子がおかしい……


(何が起こってる?)


 俺は寝起きの脳をフル回転させる――が全然状況が掴めない。

 見知らぬ部屋。様子のおかしいひなたと晶。いったいどういうことだろうか。

 無闇矢鱈むやみやたらに考えても埒が明かないので、昨日の記憶を辿ってみることにしよう。


 昨日は――ってあれ? 何やってたっけ? 記憶にモヤがかかっていて思い出せない……


「状況がわからず混乱しているようですね?」


 不気味な声でひなたが言う。


「…………」

「教えてあげますよ。涼太先輩はなようなので」


 ひなたは『鈍感』をやたら強調してくる。


「昨日、私たちは変装して、私は晶を。晶は私を演じていました」

「…………」

「それなのに、涼太先輩は一向に気づかなかった……そんなの……そんなの……」


 俺は一切、身に覚えがない――てか、気付かないわけなくね? 義妹いもうとの晶を弟だと勘違いしていた俺が言えることではないが……


「だから、私たちは涼太先輩を監禁することにしたんです!」

「私たちの入れ替わりに気付かない、兄貴が悪いからね?」

「涼太先輩」

「兄貴……」

「涼太先輩」

「兄貴……」

「涼太先輩」





「兄――――」

「兄貴――――」

「兄貴、起きて――――」


 晶にそう呼ばれ、目を開ける。

 俺は目を開けてすぐに周囲を見渡す。晶は今日も今日とてベッドに潜り混んできたけれど今日は気に留めていられない。

 そして、俺がいるのは自室だとわかり一安心。アレが夢だとわかり、本当に安堵した。まあ、あのひなたちゃんがそんなことをするわけがないのだが。

 本当にリアルな夢だったな。

 というか、俺って夢の中でも大きな勘違いをしてるのか……


「兄貴! 話聞いてる!」

「ああ悪ぃ」


 晶はなにか話していたようだ。

 咄嗟に怒られたので、光惺のような返事になってしまった。


「もう!」


 毎回思うことだが、この義妹は怒る顔も可愛すぎて、怒られた気にならない。


「明けましておめでとう、晶」

「僕が先に言おうとしたんだけど! ……まあいっか、兄貴、明けましておめでとう!」

「おせち用意してあるから、食べよ!」

「そう言いつつ、作ったのは美由貴さんなんだろ?」

「そうだよ。それをレンチンしたのが僕!」

「…………」

「何、その目は?」

「いや、何でも」

「寒い中早起きしたんだよ! 六百も前に起きたんだからね!」

「寒い中起きてやってくれたのはありがたいが……」


 現在、午前十時十三分である。昨夜、俺も晶も夜ふかししていたので当然ではあるが……


「それじゃあ、食べよっか」

「そうだな」


 俺もベッドから降りた。普通に寒かった。






  * * *






 今は食事中。

 テーブルに並べられていたおせち(一部晶が料理レンチンした)が少しずつ無くなっていく。


 二人ともずいぶん食べ進めたところで、話題は初詣に移る。

 前々から二人で行こうって話だったからな


「今日、はつもう」

「イヤ! 行かない! 寒いのイヤ!」


 即答だった。というか、まだ話し終わってすらいないのだが。

 まあ、晶の気持ちも分かる。地球温暖化が叫ばれてる現代だけど、寒いときはとことん寒いらしい。

 寒いだけならまだしも、雪が降っている。電車が止まるほどではないにせよ、結構な量の積雪が予想されているらしい。

 晶は寒がり――暑がりでもあるが――なので、行きたくないようだ。


「じゃあ、明日はどうだ? 予報では晴れらしいぞ」

「明日にしよ!」


 晶は乗り気だった。寒いのが嫌というだけで、初詣には行きたいらしい。




 二人とも食べ終わり、皿洗いをしていると晶が話しかけてきた。

「兄貴は、何の夢見たの?」

「この言い方だと晶は見たみたいだな」

「うん。でも、富士も鷹も茄子の夢も見なかったな……」

「話を止めるようで悪いが、初夢は、今晩見る夢のことを言うんだぞ」


 ちょうど洗い物が終わったので、検索して画面を見せる。


「ホントだ!」

「諸説あるらしいが、それが一般的とのことだ」

「それはそれとして――兄貴が見た夢、教えてよっ!」

「……いや、大した事ないから。ちょっと変な夢を見ただけだ……」


 そう言って質問をかわそうとするが、そう上手くはいかないらしい。


「――言うまで逃さないから」


 晶は俺を後ろから抱きしめる。背中に柔らかい感触がしているはずだが、俺はそれどころではなかった。

 晶は無意識だろうが、俺にとっては、あの夢を思い起こさせるには十分だった。


「…………」

「あ、分かった。僕と付き合う夢を見たから照れてるってことだね!」

「…………」


 この沈黙は呆れと安心。

 現実の晶は、俺を気遣ってくれる。ちょっと――ではない気がするけど――暴走するときがあるけれど。現に今も。


「本当に、僕と付き合う夢だった!? 僕としては、夢だけじゃなくて現実にしたいっていうか――――」


 沈黙を肯定ととったらしく、晶のプチ暴走(?)はしばらく続くことになる。 この後、晶にボロ負けしたり、からかわれて自分から墓穴を掘ってまたからかわれたりしたが、語ると長くなるので割愛させていただこう。

 ――嘘です。語ると長くなるのは本当ですが、今でも羞恥心に苛まれるってだけです。はい……




 晶と過ごす初めての元日。

 ゆっくり過ごせると思いきや、無意識にドキドキさせられたりして、ゆっくりはできても気は休まらなかったのだった――いつものことだが……






──────────

 1月1日( 月 )

 今日は一月一日! 明けましておめでとう!

 新年早々変な夢を見た。兄貴に「ひなたちゃん」って呼ばれる夢。

 それしか覚えてなかったけど、ずっと悲しかった記憶がある。

 兄貴は、ずっと晶って呼んでくれるよね……?

 兄貴は、ずっと離れないで一緒にいてくれるよね……?

 そういえば、兄貴が僕から離れないように必死で繋ぎ止めてた気がするかも……でも、正直思い出せない。

 兄貴も変な夢を見たらしかった。内容は教えてくれなかったけど……。寝起きの様子もおかしかったし、何か良くない夢を見たのかも。

 そういう夢はストレスが原因の場合もあるらしいから僕が癒やしてあげたい!


 夢の話はここでおしまい! ここからは今日嬉しかったことを書く!

 やっぱり、兄貴と過ごせたことかな。兄貴と過ごすのは楽しいし、今まで、お正月は独りだったから……。

 兄貴、今日も一緒に過ごしてくれてありがとう!

 あ、そうだ! 明日、一緒に初詣に行くことになったんだった!

 本当は今日行く予定だったけど、兄貴に変えてもらった。今日は流石に寒すぎて行きたくなかった……

 明日は晴れるみたいだし良いことありそう!

 タイミングが合えばひなたちゃんとも会えるかも!

 今日は早く寝て明日に備えよう! いい夢見たら、明日兄貴に話すぞ〜

──────────






(次話 『初詣は義妹と』)

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