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「何がいけなかったんだろう」
キューはグーと話しました。
「ぼくたち、友達になれたよね。ニンゲンと」
「うん」
「何で逃げられたんだろう」
答えは出ませんでした。キューたちはただ、ニンゲンたちと楽しく遊んでいただけだったからです。
そんなキューたちをよそに、テーが独り言を口にしました。
「ぺっぺっ! なんだ、ここの水。変な味がする。魚でもこんなまずくはないよ。誰か何か陸の生き物を殺したのだろうか。かわいそうに。生まれた場所で死ねないなんて、これ以上かわいそうなことはないよ。殺したのは人間だろうか。ばかだなあ」
「しょうがないよ。ぼくたちとサメの区別もつかないんだから」
誰かが応えました。キューはテーの言葉にどきりとしました。
それからしばらくの間、キューは何もできませんでした。ニンゲンたちもキューたちを怖がっているのか、なかなか遠くまで泳ごうとはしませんでした。キューは頻繁に岸のほうを見つめては、恋しそうに「キュー」と鳴くのでした。
島の近くに長居するうち、餌が少なくなってきました。そろそろ他の場所へ移らなければなりません。ですがキューは諦めきれませんでした。他の仲間たちもニンゲンとの別れが寂しく、何度も島のまわりを回っては切ない声で鳴くのでした。
そんなある日、どこかから一匹のイルカがやってきて、群れに入れてほしいと頼みました。そのイルカは「アイル」と名乗りました。
「おしゃれな名前だね。どこから来たの?」
「この島の水族館。すぐ裏にあるの」
すいぞくかん、という言葉はテーでさえも知りませんでした。
「すいぞくかん、って、どんなところ?」
キューは興味津々で訊きました。
「いろんないきものがいるわ。あたしがいたところはイルカしかいなかったけれど、他のところだと、ときどき上にトドやアザラシが出てきて、一緒に見世物をするらしいのよ。あたしはやらなかったけどね。でもとにかく、人間たちがよく面倒を見てくれるのよ。ご飯もおいしいし、あたしのけがだってほら、この通り。すっかり見えなくなってるでしょ」
ほんとだ、と群れの仲間たちは口々に言いました。
「ニンゲンが僕たちの世話をしてくれるの?」
「そうよ。でも一度入ったら出られないと思っておいたほうがいいわね」
「なんで?」
アイルは口をとんがらせました。
「知らないわよそんなの。ただ周りのイルカたちはみんなそう言ってたわ。あのイルカもこのイルカも……ってね」
「へえ……」
仲間たちはだんまりになりました。が、ここでテーが口を開きました。
「じゃあ、どうして君はそこを出られたの」
アイルは少し考えました。
「水族館で生まれたんじゃなくて、ここに流れ着いたからじゃないかしら。よそものだからよ、きっと。自分でもあんまりよく覚えてないんだけど、体中傷だらけで、ふらふらになりながらここの岸辺に打ち上がったの。気づいたら水族館の中にいた。人間たちがあたしのことをすみずみまで調べて、けがを治そうとしてくれたわ。おかげで治りが早かったの。あたしが泳いでる、透明な部屋の壁越しにね、人間たちの姿が見えるのよ。ぼんやりとだけど。みんな笑ってくれたり、手を振ってくれたり、楽しかったな。でも海のほうが広くていいわね。やっと戻ってこれたし、見知らぬイルカにも会えるなんてさ」
キューはすいぞくかんに行こうと決めました。アイルの言葉の終わりのほうはキューには聞こえていませんでした。
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