エピローグ



 離縁騒動から数ヶ月ーー。

 名実共にマンフレットの妻になったエーファだが、未だに初夜は済ませていない。それはマンフレットから「無理をさせたくない、少しずつでいい」と言われたからだ。ただ寝室は同室となり夜は同じベッドで寝ている。たまに夜中に目を覚ますと隣で寝ている彼の息遣いが荒い時があり、更には「エーファっ……」と譫語の様に言っているので少々心配になる今日この頃。

 

 マンフレットが家督を継ぎ公爵となり、義弟のリュークは宣言通り縁を切られた。但し、放り出すだけでは何か仕出かす可能性がある為、遠方の知人の仕事場に預けて働かせていると話していた。平民に混ざり、かなり厳しい労働を強いられているらしいが同情はしない。ただ少しでも真っ当な人間になる事だけを願っている。理由は分からないが、マンフレットは両親とも縁切りをしたらしく、もう二度と会わないと話していた。

 因みにエーファも両親とは縁を切っているが、マンフレットとの離縁が無くなったと知るや否や意気揚々と屋敷にやって来た。だがマンフレットから資金援助の打ち切りを宣告され、すごすごと帰って行った。近い将来、ソブール家は没落するかも知れないが、縁を切られたエーファには無縁の話だ。


 そして最近またレクスが屋敷を訪れる様になった。始めは気まずさを感じていたが、彼の持ち前の明るさと気さくさのお陰でマンフレットとの仲も戻りつつある様に見えた。





 

「マンフレット様、キャロットケーキが焼けました!」

「あ、あぁ……美味そうだな」


 中庭のニンジン畑がまた収穫時期を迎えたので、採れたての新鮮なニンジンを使ったエーファ特製キャロットケーキを作った。


「朝採れたばかりの新鮮なニンジンを使用しているそうですよ」


 ギーが補足説明をすると、マンフレットの顔が引き攣った様に見えたが気のせいだろうか。


「沢山採れたので、実は今日はオマケに新鮮なニンジンジュースを絞って見ました」

「……」

「あはは、良かったね〜マンフレット!」


 軽快に笑うレクスから小突かれるが、彼は無反応のまま暫くジュースが注がれたコップを凝視していた。そして突然立ち上がったかと思えば一気にそれを飲み干した。


「マンフレット様⁉︎ どうされたんですか⁉︎」


 だが次の瞬間、テーブルにパタリと伏せ悶える。

 まさかジュースに毒⁉︎ エーファは慌てふためくが、レクスから「余りの美味しさに感動しているだけだから、心配いらないよ」と言われた。


(マンフレット様。悶えるくらい、そんなに美味しかったんですね)


 やっぱり採れたては違うと別の意味でエーファも感動をした。


 にゃ? にゃ? にゃ?


 一度は仲違いをしてしまったマンフレットとエメだったが、今はまた以前の様な仲の良い関係に戻っている。エメは未だテーブルに伏せているマンフレットの脚を不思議そうにしながら何度も突っつく。そんな微笑ましい光景に、エーファは幸せいっぱいに笑顔を浮かべた。

 これからもこんな平穏な日々が続く様に心で願いながらーー。





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