第16話


 最近良く食堂でマンフレットと出会す。屋敷には食堂は一箇所しかないので別段驚く話ではない。以前にも食堂で鉢合わせてしまった事もある。ただこの一ヶ月くらいの間、急激に増えた。何時だったか、彼と食堂で鉢合わせると驚いた事に一緒に食事を摂る事を許可された。それから一週間後くらいに、また彼と食堂で鉢合わせて一緒に食事を摂り……更には五日後にまた。その三日後、その二日後、遂には毎日鉢合わせる様になった。エーファはマンフレットの迷惑にならない様に彼と鉢合わせる度に少しずつ時間をずらして食堂に行く様にしているが、何故か必ず彼が居る。こんな偶然あるのだと驚くばかりだ。そして今日もまた彼と一緒に食事をしている。




 食堂にはエーファの使うカトラリーと食器の音だけが響いていた。

 非の打ち所がないとはこういう事なのだと実感をする。何時もながらに終始無表情で黙々と食べる彼の美しい姿勢と完璧なテーブルマナーに脱帽する。それに比べ自分は情けない。今日のメインは魚のムニエルなのだが、かなり苦戦していた。どうしても骨が上手く外せない。テーブルマナーは一応は習ったが、無論普段の食事で使う事はなく実践する機会は少なかった。何分自分で調理していたのでこういった料理は食べ慣れておらず、使用人達が食べている賄い料理の様なものばかりを口にしていたからだ。


(もし今此処に私じゃなくて、お姉様が座っていたら……)


 彼を見ていて不意に姉を思い出した。家族と一緒に食事をした記憶なんて数える程しかないが、家族で他家に招かれた時、姉の隣りに座り何度か見た記憶が蘇る。彼と同じ様に美しい姿勢と洗練されたテーブルマナーで完璧だった。マンフレットもブリュンヒルデも、ただ食事をしているだけなのに絵になる。想像するだけで素敵な夫婦だった事は分かり切っている。

 最近はマンフレットと接する事が増え、少しだけ会話もして貰える様になった。彼にとっては迷惑な事だと分かりつつ、エーファは内心嬉しく感じていた。それなのにこんな醜態を晒していたら、これまで以上に幻滅されてしまう。


(ど、どうしよう……上手く切れない……骨が引っかかってる……)


 ちゃんとしなくてはと焦り緊張のあまりエーファはフォークを床に落としてしまった。静まり返る食堂にカランッと情けない音が響く。


「奥様、どうぞ」


 すかさずニーナが優しく声を掛けて新しいフォークを差し出してくれた。エーファは礼を述べてそれを受け取るが、そのまま俯き食べるのを止めた。ニーナや他の使用人達が戸惑っているのが伝わってくるが、怖くなってしまい身体が動かない。残りはマンフレットが食べ終わり、食堂からいなくなったら食べれば良いと諦めた。やはり彼と一緒に食事をするなど無謀だった……。


「旦那様?」


 すると何故かマンフレットは席を立つ。まさか余りのエーファの醜態振りに耐えきれず呆れてしまい一緒に食事する気が失せたのかも知れない。そんな事を考えていると彼は何故か此方へと近付いて来た。


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