第33話 決着
自ら放った聖魔法の光が収まったあと、アリシアの視界の中にはもうテオドールの姿はなかった。
「やった……?」
まだどこかにいるのではないかと不安に駆られ、試合場の中をきょろきょろと見渡す。
そして、確かにテオドールの姿がないことと――隅の方にルティスに抱きしめられたままのリアナの姿を認めて、大きく胸を撫で下ろした。
「リアナ! ルティスさん!」
アリシアが叫ぶと、放心状態だったのだろうか、ルティスがはっと顔を上げた。
「……ど、どうなったんだ……?」
そう呟いたルティスには、まだ理解が追いつかなかった。
テオドールにやられると思った瞬間、気付くと何故かこんな場所にいたのだから。
「……と、とりあえず滅ぼせたようですね。お嬢様の魔法で……」
ルティスに抱かれたままのリアナが、彼の胸元でそう呟いた。
その声で慌てて彼女を開放して、少し距離を取る。
「す、すみません……! つい……」
「……い、いえ、むしろお礼を言うのは私です。ルティスさんの
そう答えたリアナは少し顔を伏せた。
ほんのり顔が赤い気がするのは気のせいだろうか。
「……歩けますか?」
「当然です。……魔力はもう空っぽですけれど。今ならルティスさんにも勝てませんね、ふふ」
自嘲するように言ったリアナは、ルティスとともにアリシアのところにゆっくりと歩く。
「……お嬢様、助かりました。ありがとうございます」
リアナが深く頭を下げるが、それを見たアリシアは、大きく首を振った。
「ううん、リアナとルティスさんのおかげよ。本当にありがとう……!」
そして、アリシアはリアナに駆け寄ると、しっかりとその胸に抱きしめた。
◆◆◆
その日、屋敷に帰って少し休んだあと、3人で広間に集まって今日のことを振り返っていた。
「……まさか、テオドールが魔族だったなんてね……。ずっと前からだったのかな……?」
アリシアが疑問を投げかけると、リアナが難しい顔をして答えた。
「……どうでしょうか。そんなに前からなら、気付かないとは思えません。私はもともと優勝候補だったテオドールさんに目をつけて、すり替わったのだと見ています」
「そう考えるのが自然よね……。優勝資格を剥奪されないよう、殺さないようにしていたなんて……。ルティスさんが勝てないのも、そりゃそうよね、って感じよね」
しみじみと話しながら、アリシアはルティスのほうを見た。
「決勝で殺されなくて良かったですよ。まさか、魔族を相手にしていたなんて……」
「そうよねー」
軽い調子のアリシアはそのまま続ける。
「……実はね、あのあとお父様と相談したの。今回、優勝者がいなくなったじゃない? だから、準優勝だったルティスさんを、優勝扱いにするってことになったから。3位のクララさんにも勝ってるし」
「…………え? 俺が……?」
唐突に言われて目が点になったルティスが聞き返すと、アリシアは頷く。
「ええ。正式には明日、理事会通してからだけどね。……先に言っておくわ。おめでとう、ルティスさん」
「あ、ありがとう……ございます……!」
ルティスは照れながら頭を下げた。
「…………それと、改めて……本当にありがとう。ルティスさんが決勝で負けたときは……どうしようどうしようって、頭真っ白になって……。そのあといきなり魔族が出てきて、もうそれどころじゃなかったけど、全部終わって気が抜けちゃった……」
アリシアは複雑そうな笑顔を見せながら、心境を吐露する。
ルティスが負けたときは、全ての計画が駄目になったと絶望したけれど、まさかの結末を迎えた。
むしろ、リアナの力が大きかったとはいえ、期せずして、魔族に対抗しうるほどの実力を彼が持っていることまで証明されたのだ。
その意味では、少なくとも『優秀な魔法士』という肩書としては、望外の結果になったとも言えた。
「不安にさせてしまって申し訳有りません」
「まぁ、結果が良ければそれでよし、ということで。……それはそれとして。あのとき、ルティスさんとリアナが、急に消えたように見えたのは何だったのかな……?」
不思議そうな顔をするアリシアに、リアナが言う。
「……たぶんですけど、ルティスさんの空間魔法が偶然発動したんだと思います。私は目を開けてましたけど、視界が揺らいだと思ったら、突然場所が変わってましたから」
「……『空間魔法』ってなんでしょうか?」
ルティスが顔に疑問を浮かべていた。
「そういう魔法の系統があるんです。私も魔法書で読んだことがあるだけで、見たことはなかったのですけど。……短い距離ですが、瞬間移動ができたり、時間の流れを遅くしたりできるらしいです」
「俺、初めて知りました……」
「はぁ、勉強もしっかりしないといけませんよ? 実は、以前にもルティスさんが見せたことがあったので、条件次第ではまたあり得るとは思っていました。……ただ、私がちょっと痛めつけたくらいでは、発動してくれませんでしたけど」
呆れたような口ぶりでそう話すリアナに、ルティスは「あっ」と気付いた。
「も、もしかして……毎日あれだけ魔法ぶつけられてたのは、そういう目的があったとか……?」
「まぁ、それも理由のひとつではありましたね。もちろん、練習のついでですけど」
「ははは……」
「私の知る限り、空間魔法も聖魔法と同じく、特殊な血筋の人だけしか使えないようです。なので、ルティスさんも、何かそういう謎な血筋の持ち主なんでしょうね」
リアナの話に、思い出したようにアリシアが割り込んだ。
「血筋で思い出した。リアナが聖魔法使えるってこと、私初めて知った。……リアナはずっと隠してたの……?」
「……はい。申し訳ありません。
「そうなんだ……」
そう呟いたアリシアは、突然なにか考え込むように顎に手を当てて俯く。
そして――。
「……リアナは、どうして自分が聖魔法を使えるのか、知ってるの?」
「…………はい」
どう答えるか悩んだのだろうか。
少し間を空けて、リアナは頷いた。
「それって、私にも言えないこと……?」
「……たぶん……お嬢様は知らないほうが幸せだと思います……」
リアナは悲しそうな顔で視線を下げた。
それを見て、アリシアはそれ以上、何も聞こうとはしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます