第7話 プレゼント
「大空を揺るがす雷の叫び。――雷光よ、我に従え!」
先手必勝とばかりに、ルティスは目の前にいるヘルハウンドに向け、自身が最も得意とする雷魔法を放った。
暗かった周囲が一瞬まばゆい光に包まれたかと思うと、轟音とともに魔獣に襲いかかる。
『グギャァアアアッ!!』
雷を浴びたヘルハウンドは、叫び声を上げながら身体を痙攣させ――そのままプツンと事切れたように倒れた。
「ふむ。やはり魔力そのものは、それなりのものがあるようですね。……制御があまりにも下手くそすぎますが」
冷静に見ていたリアナが後ろから声を掛ける。
褒められているようには聞こえないが、少なくとも完全に幻滅されているほどではなさそうだ。
「……進みますか?」
「ええ。……ただ、ヘルハウンド程度にそれほど強力な魔法を使っていると、あっという間に魔力を使い果たしてしまいますよ? 魔力がなくなったらどうやって戦うつもりですか?」
「それは……」
確かに言われたとおり、これほどの雷魔法はあと数回放つのがせいぜいだろう。
ここにあとどれほどの魔獣がいるのか分からないが、回復手段がない以上、無駄撃ちはできない。
「とはいえ……やられたらそこで終わりですから。あなたにそこまで求めるのは酷かもしれませんね。……ああ、もう次が来ましたよ」
リアナの言葉に、ルティスは顔を上げた。
先程の轟音におびき寄せられたのか、今度は暗闇に多数の目が光っているのが分かる。
(マジかよ……! 温存してる場合じゃないぞ……)
ルティスはもう一度構えを取ると、先程と同じ雷魔法を構成する。
「大空を揺るがす雷の叫び。――雷光よ、我に従えッ!!」
――ドゴゴゴゴォッ!!
前回以上の轟音が轟き、遺跡内にバチバチという青白い火花が
『ギャァアアッ!』
『ガォオオオッ!!』
複数の魔獣の断末魔の声が響き――やがて静かになった。
「はぁ……はぁ……。……やったか?」
ルティスは魔力を大量に消費した反動か、肩で息をしながら呟いた。
――そのとき。
『グワァッ!』
暗闇の中から一体の魔獣が飛び出してきた。
雷魔法を耐えたのだろうか、一体の身体に3つの頭を持つ獣――ケルベロスだ!
滅多に出くわすことはないが、ヘルハウンドより格上の魔獣として、その特徴は恐れられていた。
(――ヤバっ!!)
今からもう一度魔法を使うのは間に合わないと悟り、両手を突き出して身構えた。
――キンッ! ゴトッ……。
だが、その牙はルティスに届かなかった。
一瞬にして氷漬けになったケルベロスがルティスの眼前に転がる。
はっとして後ろを振り返ると、優雅に片手を突き出したリアナが見えた。
(無詠唱でコレかよ……!)
ステッキも使わず、詠唱すらなく、あのケルベロスを一瞬で凍らせてしまった彼女の魔法を見て、やはり自分とは桁外れの力を持っていることを理解する。
「…………ああ、ごめんなさい。つい……」
しかし、リアナはぽつりとそう呟くと、手を下ろした。
「いえ、助けてもらわないと、やられていました」
「……でしょうね。……そろそろ撤収しますか? もう魔力も残り少ないようですし」
「それが許されるのであれば」
このまま最後まで突き進むのかと思っていたが、思わぬ助け舟にルティスは大きく息を吐いた。
◆
「……あなたの魔法は非効率すぎますね。もっと繊細に構成すれば、同じ威力でもずっと少ない魔力で放てるはずです。それに一発放つのに時間がかかりすぎです。……だからケルベロスの反撃に間に合わないのです」
帰りながら、リアナはそう告げる。
それはルティスにもわかっていたが、それが簡単に克服できるならば、こうして落ちこぼれてなどいないこともわかっていた。
「そう言われましても……」
「…………」
困ったように答えたルティスに、またもリアナはしばらく黙っていた。
ただ、無言で荷物の中をゴゾゴゾと漁り、1本のステッキを取り出すと「あげます」と言ってルティスに手渡した。
「……これは?」
「今日買ったステッキの1本です。今ルティスさんが使っている汎用のステッキと違って雷魔法に特化していますから、構成が編みやすくなるはずです。頼り切ってはいけませんが」
「ええ!? いや、こんな高価なステッキ……受け取れませんよ」
ルティスが慌てて返そうとすると、リアナはギロリと睨む。
「……私からのプレゼントが受け取れない……と?」
「え? い、いえっ! ありがたくいただきますっ!」
彼女の言葉にルティスは身体が勝手に反応して、ピタリと動きが止まった。
「それに、さっきも言いましたが、あなたにはもっと強くなってもらわねばなりませんから」
「なんで俺にそこまで……?」
ルティスが聞き返すと、リアナはくるっと背を向けて呟いた。
「……さぁ、なんででしょう? いずれわかるかもしれませんね」
◆
それからレイヴンブルックの街に戻り、再びふたりで昼食を取ったあと、馬車で屋敷に帰った。
相変わらずリアナはほとんど無言だったが、最後に言った。
「今日はお疲れさまでした。明日に備えてゆっくり休みなさい」
「はい」
ルティスの返答にひとつ頷くと、リアナはいつも通り音を立てずに、すーっと歩いて去っていった。
(俺、全く荷物持たなかったんだけど……)
最初に荷物持ちだと言って連れて行かれたが、買ったものは高価だということもあり、すべてリアナが持っていた。
結局、ルティスが同行する必要があったのかという疑問だけが残る。
(まぁ良いか……)
手に握っていた真新しいステッキを自室の机にそっと置くと、ルティスはベッドに寝転がった。
◆◆◆
【第1章 あとがき】
本編とは関係ありません(笑)
リアナ 「なぜ、この章に私の名前が付いているのでしょうかね?」
ルティス「それを俺に言われましても……」
リアナ 「はぁ……。またあの作者がくだらないことを考えている……のですね……」
ルティス「でも、リアナさんも結構可愛……」
リアナ 「(ギロリ)……何か?」
ルティス「あ、いえ……ナンデモアリマセン」
リアナ 「…………」
ルティス「その目は怖いので止めてほしいです……」
リアナ 「……ふぅ。まぁ、私の秘密を知ってしまったルティスさんは、もうこの屋敷から出られるなどとは思わないことですね」
ルティス「――ええーっ!?」
リアナ 「…………冗談です」
ルティス「(ほっ……)」
リアナ 「……さて、第2章の副題は『アリシア』です。……お嬢様を
ルティス「……こ、氷漬けですか……?(ガクガクブルブル)」
リアナ 「ルティスさんもだいぶ学習したようですね。そこだけは褒めてあげます(よしよし)」
ルティス「(それはそれで怖い……)あ、ありがとうございます……」
リアナ 「ま、まぁ、私になら……少しくらい構いませんけれど……(ぼそっ)」
ルティス「……え? いまなにか言いましたか?」
リアナ 「……ッ! な、なんでも有りませんッ!」
ルティス「そうですか……(なんで怒ってるんだろ?)」
リアナ 「さ、それではこのくらいで。次話もおたのしみください。あと、★レビュー付けるのをわすれないように。エヘッ(*>_<*)ノ」
ルティス「……(ヒイィ! 怖すぎるゥ……)」
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