第4話
二年生になってもリュウと佳音はお付き合いを続けた。一方のミナミは一年の三月に彼氏と破局。相手が高三生ということで、互いが納得した上で別れたと言っていたが、マナには、そうは見えなかった。泣くミナミを見たのは初めてで、どう慰めようか必死に考えていた。しかし、新学期になるとミナミはいつも通りマナたちの前に現れた。マナは少し安心したものの、心の底では悲しんだ。でも、それを言葉にすることはできなかった。
二年生になると互いの生活リズムが変化した。マナは週に二度部活で料理を作り、学校から塾に行く生活を、ミナミも授業終わりは毎日部活に参加し、その後マナと同じ塾に通うようになった。リュウは佳音のSNSに登場したことをキッカケに、リュウ・佳音カップルは、いつしか学校内外の有名人になっていた。近くにいるのに遠い存在になっていく二人を、マナもミナミも応援していた。
いくら生活リズムが変わったとしても、有名になったとしても、四人の距離は近づく一方だった。テスト終わりには毎回四人で遊びに行き、日が暮れるまで全力で遊んだ。体育祭も同じ種目を選び、共に協力して戦い、勝利した。文化祭でも一緒に店を回り、体育館ではロック音楽に身を預け、全身を揺さぶった。
何気なく過ごす日々の大切さに気付き、幸せを感じる一方で、少しづつ近づく別れの音に悲しみが込み上げる。一緒にいるだけでいい。あの日からミナミとリュウはマナの精神安定剤になっていた。
*
楽しいだけの毎日は過ぎ、高校三年間はあっという間に終わろうとしている。迎えた卒業式当日は、四人全員が目に涙を浮かべ、三年間を共に過ごした仲間との別れを悲しんだ。最後のホームルームで、クラスを代表してミナミが、担任の瀬名先生に対する感謝の言葉を述べた。ミナミが手紙を読み終えると、実家が花屋のクラスメイトが準備した花束を渡し、マナがクラスメイト全員分の寄せ書きを手渡した。それがトドメになったのか、泣くイメージのない先生までもが大粒の涙を流し始めた。
「私は教師になって二十年が経とうとしています。でも、担任を受け持った中で、こんなにテストの点が上がらないクラスは初めてで、正直毎日のように困ってました―」
瀬名先生は全体に向けての別れの挨拶をしたあと、一人ひとりに優しく声を掛けた。先生からの言葉で涙腺が緩み、涙を流す人も増え、終いにはクラス全体に嗚咽が響き渡っていた。
クラスで集合写真を撮る時間が設けられ、その後は友人同士での写真撮影会が行われた。そんな中で、四人は互いに写真を撮り合い、最後には卒業証書を空に掲げた写真と、全身を入れた集合写真を撮った。佳音が写真フォルダを共有し、各スマホに写真を送る。マナは写真を見ながら呟いた。「ミナミ、リュウ、佳音。最高の思い出をありがとう」と。
翌日には四人で集まり、朝から夜まで一緒に過ごした。新しくオープンした水族館、ショッピングモール、カラオケ、そして遅めの夕食を食べに回転ずしの店へ行った。そこで四人は将来の夢について語り合った。大学に進学するマナとミナミ。コンピューター系の専門学校に進学するリュウ。東京に出て、メイクを学ぶ専門学校に通う佳音。四人はそれぞれの道を歩むことになったが、心の距離はずっと変わらないはずだ。
別れ際、リュウが「卒業後、絶対に集まろうな」と手を差し出した。そこに手を重ねていく三人。その手は天高く突き上げられた。
「リュウが声掛けてよねぇ。何気に一番しっかりしてるんだからぁ」
カラスが空を滑空する。
「そうだね。リュウ君に頼るのが一番」
「おう、任せとけって。じゃあ、またな」
手を振って別れた四人は、五年間、全く会うことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます