ラック極振り転生者の異世界ライフ
匿名Xさん
プロローグ
第1話 最悪な一日
自分で言うのも何だが、俺の人生は不運に満ちている。
何をやっても上手くいかない。
やること全てが裏目に出る。
努力すれば努力するほど、結果は悲惨なものになる。
バイト先のコンビニから家賃激安のボロアパートに帰宅する最中、俺は深い深いため息を吐いた。
というのも、不幸体質な俺だが、今日は特に不幸な一日だったからだ。
急用で来れなくなった同僚の代わりにシフトに入れば、相方の一人が風邪で休み、もう一人は大学の補講で欠勤。
さらに、こんな日に限って利用客が多く、レジ打ちや品出しでてんてこ舞い。
トイレの水道管が壊れて水漏れ。
業者の到着までに濡れた床の掃除をしようとしたら、コンビニ強盗に遭遇。
必死の抵抗も虚しく、殴られ気絶。
目が覚めるとレジの中身は消え、控室の金庫も空になっていた。
その後、到着した警察から長い事情聴取を受けてコンビニに戻ると「明日から来なくていい」との言葉とともに一日のバイト代を渡される始末。
一週間。
これでも長く持った方だ。
酷いときにはシフトに入って一時間でサヨナラ、なんてこともあった。
今回のバイト先だって、不良の一件や発注のトラブルで色々と迷惑を掛けてきたから、そろそろだと覚悟はしていた。
それでもやはり、面と向かっての“明日から来なくていい”は堪えるものがある。
こればかりは何十回とバイトをクビになっても慣れない。
次のバイトと今月の食費を考えながら、ポケットから取り出した数世代前の型のスマホに指を走らせた。
いつもはデータ通信料の節約で飲食店や交通機関にある無料無線LANを利用しているけれど、バイトをクビになった今はそんなことを言ってられない。
もやし週間を回避するためにも、一刻も早く次のバイト先を見つける必要がある。
来年は就活なのに、バイトでこれだと先が思いやられる。
仮に採用されたとしても、奨学金の問題もある。
考えれば考えるほど頭が痛い。
自然と口からはため息が出た。
――キキィッ
遠くから聞こえた甲高い音に現実に引き戻される。
音の方を見ると、明らかにスピード超過をしているスポーツカーが公道を爆走していた。
その光景を見て、世の中の理不尽さにため息が出る。
きっと運転手にとって、違反切符と数万円の罰金は怖くないのだろう。
それだけの稼ぎと地位が無ければ、あんな無謀な運転はできない。
何とも言えない気持ちになりながら視線を前へと戻す。
そこには横断歩道を渡る女子高生の姿があった。
「危ない!」
咄嗟に叫ぶが、彼女はスマホをいじりながらイヤホンで音楽を聴いているらしく、俺の声もエンジンの騒音も耳に入らないようだ。
それを理解した時には、俺の体は動いていた。
背中に感じた衝撃で意識が戻る。
視界は真っ赤に染まり、全身の至る所が鈍痛を訴えてくる。
「うぐっ……」
くぐもった声が口から出る。
女子高生を押し退け、代わりに轢かれた俺は満身創痍だった。
一連の光景を見ていた通行人が集まってくる。
人垣の向こうで車の排気音が遠ざかっていく。
俺が助けた子はどうなった?
そのことが気がかりで、薄れる意識の中で彼女を探す。
「……うわ、サイアク。マジでグロイんだけど」
彼女が俺に向ける視線は、命の恩人に対する感謝でも自分の行いを後悔するでもない。
車に轢かれ、路面で臓物を撒き散らして潰れたネコを見る、それと同じだった。
そして、俺の意識は暗転する――
――――――
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