ビスケットへの執着

 理科室に待機している中に、6・7人のお年寄りのグループがいる。


 そのうちの1人が大きな声で、「マイナンバーカードは持ってきたか」と騒ぎ出す。マイナンバーカードさえ持っていれば、死んだ時に身元が確認しやすい。だから、マイナンバーカードだけは持ってきた方がいい! 俺は死ぬ準備は出来ていると、理解の出来ない力説を始める。


 皆が不安な中で、さらに不安を煽る行動。そして、年寄りグループの1人が泣き出してしまうが、それでも誰も止める者はいない。明らかな暴走行為だと思う。


 しかし、皆余裕があるわけじゃない。無駄だと思えることに力を使う必要はなく無視している。この部屋には、赤ちゃん連れの家族が2組いる。


 そんなお年寄りグループは、ビスケット支給の連絡で静かになった。


■人数の分のビスケットは十分に確保されている

■各部屋に配りにくるので、部屋で待っていて欲しい


 内容は2点だけだが、不慣れなこともあり言葉を思い出しながらの辿々しい説明に、お年寄りグループからの突っ込みが入る。「本当に人数分あるの?」・「誰が持ってくるの?」等々。


 死を覚悟しているはずだが、それ以上にビスケットに異様な執着を見た。

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