第136話 ラ・フェリローラル王国の過去と現状

 その後数日間は皆でゆっくり過ごしたり、ウル様やムウ様、桃様に、仲間が増えたことの報告や、たこ焼きの差し入れをしていた。

 あとは、結界バイーン!や結界滑り台、海底で貝拾いを楽しんだ。


 海底では大きな貝に襲われたけれど、ミルニルと鳳蝶丸が撃退してくれたよ。

 ミルニルはミスティルに負けず劣らず力持ち系らしく、両手で貝をパカッと開けて抑え、鳳蝶丸が身と殻を切り離して討伐完了。

 鑑定ちゃんが美味と表示したので、汚れや雑菌、砂を清浄で消去し、貝殻ごと複写しておく。

 そして、網焼きにしてお醤油を垂らして食べたり、一口大に切った身と長ネギをかき揚げにしたり、お吸い物や炊き込みご飯にしたりと美味しくいただきました!






 あ、お手紙!

 【虹の翼】フォルダにお手紙が2通入っていた。

 フォルダを確認せずうっかりしていたよ。


 1通目は各家族とアスナロリットさんから、唐揚げの材料やフライヤーのお礼が綴られていた。

 2通目はシャンプーやコンディショナー、その他の注文とお金。


 気づかず遅れてごめんね!



 ミスティルにお願いして、手紙に気づかなかったお詫びと商品、仲間が増えたことの手紙を書いてもらった。

 お詫びにトリートメントを1つ多く入れておいたよ。



 寝る前にもう一度フォルダを見てみたら、今回も2通お手紙が入っていた。


 1通目は仲間が増えたことへの祝辞と、商品のお礼等。

 あと、余裕を持って商品のお願いをしているから気にしないでね、と書かれてあった。



 助かります。ありがと!



 2通目は、ラ・フェリローラル王国の情勢について書かれてあった。


 今、王都など国の中枢部が混乱している。

 国のため、民のため、現国王を失脚させ、新国王を即位させるべく争いが勃発したのだ。

 主軸はフェリローラル公国で、他国もそれに賛同する声明を出し、多くの国民も公国に賛同していると書かれてあった。


 ミールナイトは王都から離れているのでそれほど混乱は無いが、市の一部が機能停止している状態。冒険者ギルドや商業ギルドはどの国からも中立の立場で通しているらしく、大きな動きは無いとのこと。



 ラ・フェリローラル王国の現国王は、平民であれば問題無いが、貴族、王族としては致命的なほど気が弱く、繊細で決断力のない統治に向かない性格である。


 前国王が倒れた際、王太子(現国王)派と第2王子派に別れ、混乱が続いた。

 第2王子は第2王妃の子。文武両道で統率力がある人物で、以前より多くの貴族から第2王子を王太子にと嘆願されていた。

 だが、それを良しとしない第1王妃とその取り巻きが前国王崩御の際、王位継承が第2王子へと覆る前に押し切り、第1王子を現国王としてしまったらしい。



 何となく、前国王の死も怪しいよね?



 きな臭い動きが多々あり、貴族達からの強い抵抗でいざこざが絶えなかった。

 結局のところ、長引けば国民を苦しめることになると第2王子側が身を引くことで一時期沈静化したのだった。


 紆余曲折の末、王弟である第2王子を大公とし、フェリローラル公国として王国の端の領土を与え国を分けた。

 実質、前第1王妃とその取り巻きの貴族たちが、前第2王妃と王弟を遠方に追いやったことになる。


 このことは、国民の間にも大きな不満と燻りを残した。

 でも、現国王一派は我関せず、好き放題やらかしているのが現状である、と書かれてあった。



 気が弱くて決断力が無い現国王ならば、甘い汁を啜りたい真っ黒な貴族達の傀儡と化しているんだろうな。


 大人しく言われるがままの人形のような王妃を充てがわれ、利用している貴族達の甘言だけに縋り、言われるままサインや捺印をしてしまう。

 その度国民に負担がかかり、一部の腹黒い貴族だけが良い思いをしているって書いてある。


 うん、よく聞く話。

 こういうことはどの世界でもあるもんだね。




 【虹の翼】のお姉さん達が何故こんなに詳しいかと言うと、貴族相手の仕事もこなすので、王族や王都中枢部の話を耳にすることが多く、お姉さん達自身も気がかりで情報を集めているからなんだって。


 そして今回、昔から燻っていた案件に着手すべく、シュエおじいちゃん他教会の皆さんが、大公となった王弟に発破をかけたと言うことらしい。



 ミスティルに、お姉さん達のご家族もアスナロリットさん達も、両ギルマスやエレオノールお姉さん、皆さんの身を案じていること。

 怪我や病気に注意して欲しいことを手紙に書いてもらう。

 あと、フォルダに怪我と病気用の中級ポーションを10本ずつ入れておいた。




 うーん。

 そう言うことなら今はミールナイトに行かないほうが良いの?

 ミルニルの商業ギルドカードだけでも貰いに行けたら良いんだけれど……。


 この先のことを考えて、やっぱりアノ・・ことを真剣に考えないとな。

 皆で話し合って、それから色々と決めるつもり。


 兎にも角にも、フィガロギルマスのところへ行くことにした。

 不在、もしくは多忙だったら引き返せばいいしね。






「お久しぶりです!お元気でしたか?」

「あい。ヒナヨ、ギユマシュ。おでんち、ちた?」

「君も元気だったかい?と聞いているよ」

「ええ。個人的にはとても元気です」


 フィガロギルマスはちょっと困った表情で笑顔を浮かべた。




 フィガロギルマスが何故"個人的には"と言ったかというと……。


 転移でミールナイトの外に到着した時のこと。

 ミールナイトはとてもとても寒く、今にも雪が降ってきそうなどんよりとした空だった。


「旅の者だが中に入れてくれ」

「旅人?悪いが今、許可されている者以外入れることは出来ん」


 門が硬く閉ざされていて町に入れてもらえなかった。

 転移の門戸を直接町の中に繋げれば良かったな。

 困っていたら、私達が[桜吹雪]と知っている隊長さんがやって来て、小さな扉から入れてくれた。


 やっぱり王都の混乱で町の警備を強化しているんだね?

 でも、安全第一なので良いことだと思う。



 町中に入って歩いてみたけれど、前みたいな活気は無いようだった。

 商業ギルド内も閑散としている。

 フィガロギルマスと無事面会して話を聞いてみると、一部の流通が止まってしまい商業ギルドの仕事も潤滑には機能していないらしい。



 大変なところ突然訪ねてごめんなさい。

 何はともあれ我が家族を紹介するよ。


「あたやちい、かじょく、ミユミユ」

「俺はミルニル。よろしく」

「商業ギルド・ミールナイト支部。ギルド長フィガロと申します。よろしくお願いいたします」


 挨拶が済んだところで、ミルニルの商業ギルドカードのお願いする。


「いちゅも。あにあと」

「どういたしまして」


 もちろん通常通り作成してくれたよ。



 その後、宝石類が沢山あるけれど買い取る?と聞いた。

 とてもとても魅力的な話だけれど、今は流通が滞っていて買い取り資金を用意するのが難しい、という返事だった。

 ならば、保管しておくから流通が動き出したら買い取ると言うのは?と伝えると、もし可能であれば是非に!と、とても喜んでいた。



「ところで、個人的な取引をお願いしても?」

「あい、いいよ」


 ローテーブルに水晶の洞窟で採掘した鉱石とドロップ品、宝箱で取れた宝飾品の一部を出す。

 個人的に気に入った原石や宝飾品は別枠で保管済なのでそれ以外は売るつもり。最高品質の原石だけは複写した方を売るつもり。



 そして、あの、鳳蝶丸が天井から採掘したブルーダイヤモンドが超目玉商品です!



「す、すす、素晴らしい!」



 高品質、最高品質の逸品まで取り揃えてございますよ、お客様!



「こ、こ、こ、これは!ブルーダイヤモンドではありませんか!しかもこの大きさ、そして最高品質!」


 ブルーダイヤモンドはハンドボールくらいの大きさで、鳳蝶丸に渡された時に腰を抜かしそうになったよ!


「世になかなか出回らないブルーダイヤモンド、しかもオーシャンブルー!」


 フィガロギルマスは、鼻息荒くブルーダイヤモンドを凝視している。


「この品質でこの大きさ。値がつけられません。一番良いのはオークションですが、このダイヤを巡って戦が起きてもおかしくないほどの価値があります」

「ええぇ!いくしゃ?」


 戦が起きるの?!


「私は時々、ゆき殿が心配になります。物凄いものを持っていると自覚なさってください」

「…………あい」



 そうだよね。

 日本で発見されたとしても大騒ぎになるよね。

 だって、ハンドボールくらいだもん。



「じゃあ、ちゅだく?」

「砕くなら俺やるよ?」

「ダ、ダメですーーー!」


 ミルニルが戦鎚を出して砕こうとしたら、フィガロギルマスがブルーダイヤモンドに覆いかぶさり、驚愕した顔で素早く離れた。


「あわわ!指紋、指紋が!」

「だいじょぶ」


 清浄をかけると直ぐに綺麗になるからね。

 ピカピカに戻ってホッと胸を撫で下ろしたフィガロギルマスが軽く咳払いをする。


「ゆき殿、クリーンをありがとうございます。そしてブルーダイヤモンドを砕いてはいけません。半分以下に価値が下がります」

「じゃあどうするの?このままだと売れないんでしょ?俺が綺麗に砕くからバラバラに売り出せばいいよ」


 ミルニルがいっぱい喋った!


「ミルニルのスキルで綺麗に砕けると思いますよ」

「しょうなんだ」

「それでも、勿体ないです!」


 フィガロギルマスはとにかくオークションに出してみましょう。と言った。

 このオーシャンブルーダイヤモンドは値が決められないほど価値のあるものなので、オークションに出してみませんか?纏まったお金が入りますよ。と、言われる。

 別に纏まったお金はいらないけれど、幾らになるのかは見てみたいかな。


「わかた」

「ありがとう存じます」


 結局、国の混乱が落ち着いたら王国主催か商業ギルド主催のオークションに出す、と言うことに決定した。

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