第118話 シュエおじーたんの決意

「この度はお騒がせして申し訳ございませんでした」

「シュエおじーたん、わゆい、ない。でも、わたち、王子、たんてーちゃ、こにょえちち、ちやいよ」

「教皇は悪くないから謝らなくていいが、この国の王子と関係者、王国の近衛騎士達は嫌いだと言っている」

「自分、えやい、ちあう。しゅしゅわえない、わゆい、いだい、皆、平等、とーといのよ」

「自身だけが偉いと驕った振る舞いをするのは大間違いで、救いようが無い程の悪以外、皆平等に尊いのだと我が主は申しております」

「何と素晴らしいお言葉でしょう」


 シュレおじいちゃんが涙を流し震えている。

 そして私の手をそっと握り、決心した表情を浮かべた。


「今後のことはわたくしと我が公国の者達が責任を持って改革して参ります故、これに懲りず再び遊びにいらしてください」

「他国の皆様がいらしてくださっていることを知っているはずが挨拶もなく、御使い様のことも知らせてあるはずなのにこの有様。誠に遺憾であります」

「我らサバンタリアも、皆様に力添えが出来るよう国王陛下に献言しよう」

「我がロストロニアンも、教皇猊下並びにアルシャイン辺境伯に力添え出来るよう進言いたします」

「皆様、ありがとう存じます。フェリローラル公国も今が決起の時やもしれませぬ。大公閣下にも話をいたしましょう。より良い方向へ動き出すと御使い様にお誓い申し上げます」



 何やら決意表明をしている面々。


「必ずや良い結果をお知らせいたします」

「うん。だんばえ。皆、住み良い国、ねだってゆ」

「姫が、頑張れ。皆が住み良い国になることを願っているって」


 改革の内容は分からないけれど、ウル様の認める人である教皇様なら良い方向に動いてくれるでしょう。

 自分達の暮らしや国を変えるのはそこに関わっている人達で、私の役目ではないからね。

 これからも旅する途中何回か戻るので、その時はより良い国となっていることを祈っているよ。



 先程の混乱が落ち着いてきたので屋台再開。

 今のところ列は順調に進んでいる。

 教皇様や他国の殿下達は残りのクレープを堪能してから滞在先に帰って行った。




 私達は交代で休憩したり祭りに参加したりして楽しく過ごす。

 朝のごたごたで鳳蝶丸とミスティルとは1人ずつ周れず、3人でお出掛けするとに。

 途中の屋台でお肉の串焼きを買い、食べながら歩いて広場に向かった。



 今日の出し物はお芝居なんだって!

 前方のお客さんは椅子に座り、あとは立ち見。私達は一番後ろに立ってミスティルに肩車をしてもらった。


 途中からだから分からないけれど、敵対している王子と姫が偶然出逢って愛し合い、お互いを信じて国と国の橋渡しをする、と言うお話だった。

 青空の下だから背景のセットは無いけれど、俳優さん達の演技でどんな場面なのかがわかって面白かった。

 恋人達が離れ離れになるシーンでは、皆さん目頭を押さえ、涙を拭く仕草をしていたよ。



「ああ、わたくしの貴方。わたくしの心はいつでも貴方のお側に」

「おお、我が姫!わたくしの心を支配するのは貴女だけだ!」


 通りすがりの子供達が演者のように感情たっぷりにお芝居ごっこをしている。


「わたち、お姫しゃまになるの。王子しゃまと結婚する!」

「父さんと結婚してくれるんじゃないのかい?」

「やっぱり、王子しゃまが良い!」


 3歳くらいの女の子が高らかに宣言すると、お父さんらしき男性がガックリと頭を垂れていた。

 頑張れ、お父さん!


 それにしても、皆さんお芝居を楽しんだんだねぇ。


「お嬢も王子様と結婚したいか?」

「ううん、じたい、しゅゆ」

「ええ。それが良いです。王子なんて面倒臭いの塊です」


 私が辞退して首を横に振ると、ミスティルと鳳蝶丸がゆっくり大きく頷いていた。




 こうして3日間の屋台出店日は終了した。


 コンテストに出場していれば票を入れたのに!と沢山のお客様に声をかけられたよ。ありがとう!

 最終日のクレープ屋さんは列をストップしようとすると駆け込みで人が並び、なかなか終わらなかったほど大盛況だった。


 沢山の人に楽しんでもらえて良かった!嬉しいな。



 明日、お祭り最終日は催し物と13時から屋台コンテスト発表、閉会式でお祭終了。手伝ってくれたスタッフの皆さんとは【虹の翼】邸で17時に集合、打ち上げをする予定です。


 それまでは自由行動なので、まずは冒険者ギルドへ後片付けに行くつもり。

 皆さんは家族でお祭り最終日を楽しんでね!






 早朝。

 転移の門戸で屋台へ行く。屋台も訓練場も昨夜のままになっていた。

 テーブルや椅子、ポールチェーンは結界を解除、トイレテントも含め清浄して無限収納へ。

 クレープ関連の器具、バルーン看板、屋台、屋台裏に設置した物も全て清浄して収納。結界も解除。

 訓練場全体を清浄すると、残りは冒険者ギルドの屋台だけになった。



 うん。良し、終了!



 その後、冒険者ギルドへ行ってビョークギルマスに会えるか聞くと、直ぐ受付に来てくれた。


「ビョーク、ギユマシュ、3日間、あにあと、ごじゃいまちた」

「いや、こちらこそ。色々と世話になった」

「訓いぇん場、掃除、ちた」

「最後までありかとうな。訓練場がずっと綺麗だったし助かった。テーブル、椅子、トイレテントも大好評だったし、ついでに俺達の屋台もいつもよりは売れたし、大感謝だ」

「こちや、こしょ」


 こちらこそ、広い場所を借りられて大感謝です。ありがとうございました。


 挨拶も出来たしそろそろ行こうかな。私達がお暇しようとすると声をかけられる。


「明日はまだこの町にいるか?」

「あい」

「冒険者登録の件で、出る前にちと寄って欲しい」

「わたった!あちた、来ゆ」

「ああ、では明日」


 ビョークギルマスと明日会う約束をして外に出た。




 広場に近付けば近付くほど人が増えていく。

 まだ朝早いけれど、町の人達が広場や周辺に新しいお花を飾っていた。


「お花、ちえいね」

「あの花はピオンと言って、秋に咲く花なんですよ」


 ピオンは牡丹に似た大きくて美しい花だった。


 皆その花を飾りながら、楽しそうに、幸せそうに、笑顔を浮かべている。

 それにつられて私も笑顔になった。


 ミールナイトに来たのはウル様にスタンピードを止めて欲しいと言われたから。

 もし間に合わなかったらこの景色は無かったんだね。

 スタンピードが止められて本当に良かった。ウル様や鳳蝶丸、ミスティルにも感謝!



「あ、サクラフブキの皆さん。昨日までお疲れ様でした!抽選会も楽しかったし、食べ物もとても美味しかったです!」


 商業ギルド職員の制服を着たお姉さんに声をかけられる。


「今日は花踊りに参加しますか?」

「花踊い?」

「最後に沢山の人々で春を待つ踊りを踊るんですよ。参加は自由ですのでぜひ!決まりは1つ、ピオンを髪や洋服の何処かに飾ることです。あちらで配っているので、良かったらどうぞ」


 職員さんにお礼を言って、配っている方に行ってみる。


「参加するか?」

「うん!」

「姫はどの色が良い?」

「うーんと、しよ!」


 お洋服が白いから、お花も白にしよう。


「白1本と、あとは何でもいいので3本ください」

「はっはい!」


 突然ミスティルに話しかけられて顔を赤くするお花のお姉さん。

 白、赤、紫、ピンクのピオンを受け取ると、レーヴァが髪に差してくれた。


「うん、可愛い。最高に可愛いよ」

「良く似合うじゃないか」

「………」


 ミスティルの無言スリスリいただきました!

 可愛いって思ってもらえて嬉しいな。



 鳳蝶丸はピンク、ミスティルは赤、レーヴァは紫のピオンを胸に差して、王子様………おとぎ話の・・・・・王子様みたいで格好いい!

 私の家族は皆素敵なお兄さん達ばかり。自慢のお兄さん達だよ。




 しばらくすると人がどんどん集まってきた。そして、地面に書かれた白い線の辺りに立ち始めたので私達もそれに倣う。


「あ!おねしゃん!」


 ミムミムお姉さんが冒険者らしき人達と一緒にいた。


 別方向には騎士の皆さん。

 あ、オルフェス団長だ!じゃあアルシャイン領騎士団の人達かな?



 まずはオルフェス団長と数人の騎士が広場の真ん中にやって来て剣舞を披露する。

 おお!剣舞は初めて見る!凄く格好良くて魅入ってしまう。


「剣舞か。やったことないな」

「姫が喜んでいるし、今度試してみる?」

「ああ、いいぜ」


 私が夢中で見ている後ろで、鳳蝶丸とレーヴァがそんな会話をしていたらしい。


 舞いが終わり胸に拳を当てた、たぶん敬礼?みたいなポーズをすると、見学していた人々から大きな拍手が起こった。

 私も拍手していると、オルフェス団長が私をチラリと見て頭を下げてくれたので、手を振った。



 次は冒険者達による的当や魔法の披露。

 大きな一枚板に魔獣の絵が描いてあって、それを的にして矢を射る競技には、エクレールお姉さんが参加していた。


 カカッと小気味よい音をたて、魔獣の頭や首、胸に矢が刺さる。

 その度に大歓声と拍手が起こった。



「わたしならばあの的を射壊せますよ?」

「ミシュチユしゅごい!でも、壊しちゃ、やめ」


 ミスティルならば確実に的を壊せると思うけれど、壊しちゃうのはダメだよっ!

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